第62話 勧誘
魔女族の住む森には女性だけで生活をしている。男性の魔女族というものはいないらしく、それが魔女族と言われる由縁でもあった。
どのようにして子孫を残すのかというと、女性同士で体を重ね、愛し合い、その結果魔力の高い女性の体内に子供が宿るというのだ。その体内で両者の魔力が融合し、新しい生命が誕生する。その誕生した命は当然、女の子である。
魔女族はその生涯を魔道の探求に捧げて生きる。いわば、魔法使いのスペシャリストと言えた。
なぜ、魔導士学園に来たのだろうか?
魔法であるなら、魔女族の方が研究が進んでいそうなものだ。
俺は聞いてみる事にした。
「ドロニアは何のために魔導士学園に来たの?」
「・・・・・・」
返事が返ってこなかった。ただ、今の質問はおかしかったかもしれない。「なぜ呪いの研究をしに来たのか?」という質問でないといけなかった。ドロニアが魔女族である事は、まだ明かされていないのだから。
部屋には沈黙が流れた。
「あ、あの、ドロニアさんは、なぜ魔導士学園に?」
クロエが沈黙に耐えかねて、再度尋ねた。
「呪いの研究をするために・・・」
あれっ、今度は答えたぞ。それにしても、俺と同じように呪いの研究のために魔導士学園に来たものが他にもいるとは、少し嬉しかった。
「そうなんだ。俺も世話になった人が呪いにかかってて、それを解呪する方法を探すために、魔導士学園に来たんだ。ドロニアは何のために呪いを研究するの?」
「・・・・・・・」
あれっ。あれれ~。おかしいぞ~。
何か会話が一方通行な気がする。
「あ、あの、なぜドロニアさんは、呪いの研究をしたいんですか?」
クロエが、再び気を利かせて聞いてくれた。
「私も、世話になった人が呪いにかかってて、それを解呪しようと思って・・・」
俺はそれを聞いて、驚いた。俺と同じように誰かの呪いを解呪するためにここへ来たものがいると知って、とても嬉しかった。
もしかして、同一人物ってオチじゃないだろうな。
「俺が研究したいのは、自分と同じ種族に近づくと呪いが伝染して、その呪いにかかったもの
「・・・・・・・」
うん。今、確信した。どうやら、無視されているようだ。
「あ、あの、ドロニアさんは、どんな呪いを研究したいのですか?」
クロエが同じ質問をした。
「忘却の呪い。呪いの指輪をはめてしまい、呪いが発動したらしい。外しても効果が持続してる。」
師匠にかかっている呪いとは違う呪いのようだった。という事は別人という事だろう。
アーサーがフードの中から呟いた。
「呪いの指輪をはめて呪いにかかるなんて、バカな奴もいたもんですにゃ~。」
呪いは誰かにかけられる以外に、装備品などによってもかかるのか・・・俺はその時、思い出したことがあった。あのピピやジュリエッタ達を助けに行った時、魔剣とやらと戦った事を。もしかすると呪いの付与がされていたのだろうか。
俺は自分に呪いがかかってないか、少し心配になった。今のところは大丈夫そうだが・・・・
その辺もこれから調べていけばいいだろう。まずは研究員の勧誘からだ。
去年は新入生が誰も入らなかったらしい。それでも5人いたので活動は続けてこれたのだ。ただ待っているだけでは去年と同じように新しい研究員がゼロという事もありえた。
ひとまず、各自で誰かを誘ってみようという事になった。クロエは勧誘に自信がなさげだった。そして、ドロニアは・・・よくわからなかった。
翌日、俺はリーンを勧誘してみることにした。リーンは家族と話し合って、こちらで勉強することに決まったらしい。
「呪術研究会ってところで一緒に呪いの研究とかしてみない?」
「・・・・誘いは嬉しいんだけど、他に勉強したいものがあるの。本当にごめん。アギラと一緒に冒険するには、もっと魔法の勉強をしないといけないのよ。」
「えっ、ああ。全然気にしなくていいよ。せっかく魔導士学園に来たんだから、勉強したいことをするべきだよ。」
俺は内心ではリーンが来てくれるのではないかと思っていたので、当てが外れてしまった。
仕方がない奥の手を使うしかないか・・・
「なー、ミネットは魔法工学以外に何か研究するものあるのか?」
「魔法工学だけにゃ。1日も早く楽園を復活させるために、頑張るにゃ。」
「呪術研究会ってところに興味はないか?」
「全く興味ないにゃ。」
呪いの研究は人気がないな。しかし、奥の手がある。
「ジャーキーをやるから、呪術研究会をやってみないか。」
俺は自分で作ったジャーキーを手に持った。
「にゃ、にゃ。食べ物で釣ろうったって、そうはいかないにゃ。」
ミネットの台詞と態度は一致していなかった。涎を垂らし、右手は俺の手にあるジャーキへと伸びていた。
「コラコラ。食べ物で釣ってんじゃねーよ。それにお前もだ、ミネット。ちょっとは学習しろ。それで前は痛い目をみただろうが。」
カインが勧誘に待ったをかけた。
「はっ。危なかったにゃ。あやうく騙されるところだったにゃ。楽園への道は1日にして成らずにゃ。そんな寄り道をしている暇はないにゃ。」
「本当だぜ。どっちかというと、アギラに魔法工学研究所に来てほしいくらいだぜ。」
ミネットはずっと俺の手にあるジャーキーを見つめていた。
「わかった。なんか悪かったな。これはやるよ。」
「いいんですかにゃ。アギラは良い奴にゃ。・・ハグ・・・うまいにゃ。」
「マスター、あっちの分はないんですかにゃ?」
フードにいたアーサーにもジャーキーを分けてやる。
どうやら、思った以上に研究員の勧誘は難しそうだった。
教室でドロニアを見たが、誰も勧誘している風には見えなかった。というより、誰とも話をしていないようだった。行って話しかけても良かったが、無視されるのが分かっていて声をかけれるほど、俺は度胸があるわけではなかった。
誰か呪いに興味があるやつはいないものか。
一度、ニーナという人魚族に声をかけられた時に、呪いに興味があるか聞いたら、驚いてどこかに行ってしまった。
知り合うたびに呪いの事を聞くと、みんなから避けられてしまうかもしれない。
これは、まずい。もっと簡単にいくと思っていたが、何か対策を立てなければいけないようだった。
その日の午後、呪術研究会に行った。クロエは一般のクラスだったため、夕方まではドロニアと2人で部屋にいる事になった。会話する事もできないので、呪いの本や資料などを読んでクロエが来るのを待つことにした。ドロニアも同じように資料に目を通していた。
2人が誰かを勧誘する事に成功している事を期待したが、どうやら、無理だったようだ。
俺は考えていた事を提案する。
「冒険者ギルドからの呪いの依頼で、難しそうなのを解決して、知名度をあげるってのはどうかな?なんか良さそうなのない?」
「そ、そうですね。難しそうなのでいえば、こ、このSランク依頼である呪いの鍛冶工房を正常な状態にして欲しいというのがありますが・・・」
解呪か・・・解呪の方法が分からなければ、無理そうだな。
「具体的にはどうやって正常な状態にするかは分かるの?」
「あ、はい。なんでも、そ、その鍛冶工房には何かが棲みついて結界を張ってるそうなんです。その棲みついたものを退治してほしいとの事です。」
あれ。そんなんでいいのか・・・それならなんとかなりそうな気がするな。
「じゃあ、その依頼受けましょう。」
「えっ??Sランクですよ・・・わ、私達では、無理では・・・」
「あっ、大丈夫です。俺1人で行ってみますから。」
「いいわ。それ、私もやるわ。」
ドロニアが俺に賛成した。
「わ、分かりました。そ、それじゃあ、私も、行きます。結界を破るくらいはできると思いますので。そ、その後は、外で待っておきます。そ、それでもいいですか?」
クロエは結界術に長けているらしかった。
本当は1人で行った方がいいような気がしたが、外で待っているなら大丈夫だろう。
俺たちはその依頼を受ける事にした。
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