第58話 筆記試験

 どうしてこうなった。


 俺は真っ白な答案用紙を前に呆然としていた。


 あいつらか。あの獣人達が毎日のように俺の宿に来て、どんちゃん騒ぎをしていたからか。いや、その前に、夜の街でムフフな事を阻止したあいつらのせいか。あいつらのせいで、あの後、何もやる気がでなかった・・・


 いや、あの時リーンが勉強すると言った時に俺も一緒に勉強をすれば良かったのだ。そうだ、全ては俺が悪いのだ。魔導士学園の試験なんて、鼻くそほじほじしながら、無詠唱で魔法を放てば、みんな驚いて受かるなんて思ってた俺の責任なのだ。


 だが、諦めるのは早い。俺でも解ける問題があるかもしれない。解けるところをきっちりと解く。試験で焦ることは禁物なのだ。

 俺は問題用紙の1ページ目を開いた。


大問1 魔法基礎 と書かれていた。

パッと見たところ答えれそうな気がした。これでも、ルード皇国時代に魔法の勉強はしていたのだ。だが、結構前の事だったので、あまり覚えているとは言い難かった。


(1)属性の優位性の関係を答えよ。


 これは、知っているぞ。

 光と闇の属性は対立関係にある。水は火に強く、火は氷に強く、氷は風に強く、風は土に強く、土は雷に強く、雷は水に強い。

 しかし、俺はこの時、ペンを止めた。火は氷に強いというのは間違っているのではないかという考えがよぎった。俺は実体験で火属性の魔力を氷属性の魔力で打ち勝っていた。そして、ルード皇国時代にフレイとヤンの体育の授業を思い出した。たしか、フレイの火の魔法が水の魔法に勝っていた。


『そうだ、危ない。危ない。記憶があやふやになっていたかもしれない。』

俺は、氷は火に強く、火は水に強いと書き換えた。そこから予想して、雷は氷に強く、水は風に強いとさらに書き換えた。


『これで完璧だ。うろ覚えだがやれるかもしれん。次だ。』


(2)魔法剣を発動する条件を述べよ。

『条件なんてあるのか?・・・いや思い出せ。あの銀色の鎧がやっていた事を。・・・何かつぶやいていた気がする。・・・・あれは詠唱だ。』

俺は解答用紙に、詠唱と書き込んだ。


 俺は実体験を思い出しながら、次々に大問一を埋めていった。


できる。できるぞ。

俺はチャレンジ(進研ゼミ)から送られてくる漫画の主人公の気持ちだった。


俺は問題用紙の次のページをめくった。


大問二 歴史 とあった。

(1)キリ王国が滅んだのは何年ですか?


どこだ、そこは?それよりも、南の大陸の暦では今何年かすらも分からなかった。俺は適当に数字を書き込んだ。試験で重要なのは白紙で出さない事なのだ。書けば合ってる可能性があるのだ。


(2)無属性を含めた属性を10個に体系分けした魔法使いの名前を答えよ?


誰だ、それは?そもそも人の名前をほとんど知らなかった。この旅で出会った人達くらいしか名前を知らなかった。しかし書かなければゼロなのだ。何かそれらしい名前を考えた。俺は魔法の本の著者名を思い出した。たしか・・・エニグマだ。俺はその名前を書くことにした。


俺は年号を適当に、人の名前は全てエニグマと書いた。


分からない。全然分からない。


俺はチャレンジ(進研ゼミ)から送られてくる漫画の主人公の友達の気持ちだった。


俺はページをめくった。


大問三 数学 とあった。


(1)連立方程式 2 +3 =43

         log₂xーlog₃y=1

 ① この連立方程式を満たす自然数x、yの組を求めよ。

 ② この連立方程式を満たす正の実数x、yは、①で求めた自然数の組以外に存在しないことを示せ。


 いやいや、ちょっと待て。何で数学に文字が入っているのだ。印刷ミスか?それにである。大問2ではつっこまなかったが、何故、魔法を学ぶための学校なのに歴史や数学が必要なのだ。

俺はまたもや適当に数字を書いた。x=4、y=3。


 これは誰も分からない問題に違いない。ここで時間を取られてはいけないのだ。切り替えて次で挽回するのだ。


俺は最後は答えられるものを期待しながら、ページをめくった。

大問四 魔法詠唱 とあった。

(1)ファイアの詠唱を書きなさい。


(2)ヒールの詠唱を書きなさい。

 ・

 ・ 

 ・

・・・・・・終わった・・・・・。


 俺は詠唱の文を何一つ覚えていなかった。しかし、書けば当たるかもしれないのだ。白紙で出すことはありえない。


 考えている時間もなかったので、俺はあの半年かけて自ら作りだした詠唱文を書くことにした。そう、あの忌まわしき病に侵されていた時に考えたものだ。

詠唱の問題は50問あったが、その全てを埋めた時、試験官の終了の合図があった。


燃えたよ・・・・・まっ白に・・・・・燃えつきた・・・・・まっ白な灰に・・・・


 今日は午前中で試験が終わりで、午後に成績発表が行われるらしい。俺はリーンと合流した。そこへカインとミネットも来たので、2人の事をリーンに紹介した。


「こっちがカインで、こっちがミネットだ。そして、こちらがリーンだ。」


妖精族エルフか珍しいな。まー、よろしくな。」


「よろしくにゃ。」


「私も獣人に会ったのは初めてよ。よろしくね。」

俺たちは一緒に食事を食べることにした。

俺は他の人がどれくらいできていたのかが気になった。


「テストはどうだった?」


「そうね。ちょっと分からないところがあったわね。だけど、たぶん大丈夫だと思うわ。」

リーンでも分からないところがあったのであれば、まだ希望があるのかもしれない。


「そうだな。思ってたよりは拍子抜けだったな。」

なん・・・だと・・・。俺と同じくらいじゃないだと・・・


「何とかなったと思うにゃ。数学は指数対数が出るとは思ってなかったけど、何とか解けたと思うにゃ。」

うそ・・だろ・・。あの数学が解けただと。何が書いてあるかすらも分からなかったというのに。このバカ猫が解けたというのか。


 いや、まだ結果を見てみないと分からない。この2人が見栄を張っている場合もある。

俺たちは結果発表を待った。


夕方頃に結果の張り出しがあった。


1位 ネロ  100点

2位 リーン 99点

3位 シリウス 87点

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 ・

 ・

72位 カイン 73点

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 ・

93位 ミネット 69点

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 ・

387位 アギラ 17点



 俺の順位は403人中387位だった。ほぼ最下位だ。受かる人数は40人と聞いている。明日の試験で挽回できるだろうか・・・・・無理かもしれない・・・


「私はアギラの凄さを知ってるんだから。騎士養成学校なら、余裕で合格するわ。」

リーンは慰めのつもりで言っているのだろう。しかし、俺は呪いについて調べに来たのであって、強くなりたいわけではない。だから、騎士養成学校とやらには全く興味がなかった。


「どうしたんだ、屋敷の一件で、お前は切れ者だと思っていたんだが・・・もしかして、解答欄がずれていたのか。」


「そうかもしれないな。」

俺は見栄をはってしまった。


「どんまいにゃ。」

全て分かっているという顔をして、ミネットが俺を励ました。


くっ・・・俺は心の中で泣いた。


 俺は2週間前に戻って、自分をぶっ飛ばしてやりたかった。今すぐ勉強するのだと言ってやりたい。

しかし、もう遅い。


 俺は明日の試験で全力を出す事に決めた。見せてやるのだ。俺の力を。

明日の試験ならなんとかなるかもしれないのだ。


俺の魔法の力を見せることができるであろう実技試験ならば・・・

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