第57話 凱旋パレード
ジュリエッタと別れた俺たちは王都にある魔導士学園に向かった。途中、教会に寄ってその後の様子を聞いたが、何も変わったことはないとの事だった。俺は安心して、再び王都を目指した。
王都は周りを壁で囲まれていた。どうやら、城門では検問が行われているようだった。
『まだ、まずいか。』
冒険者ギルドでリーンの手配書が取り消されているかわからなかったので、行くかどうか迷った。しかし、その検問はあまり入念にしているようには思えなかった。城門の両脇に兵士がそれぞれ1人いて、通っていく人を見ているだけだった。かなりの人が列を作って城門を通っていたので、兵士もそれほど慎重にしているようには見えなかった。
これなら、リーンもフードを被っていれば大丈夫かと思って、俺たちはその列に並ぶことにした。
「何かあるんですか?」
俺は人が多いので、後ろに並んでいる人に聞いてみた。
「知らないのか?ジークっていう勇者が北の大陸を縦断して、『奇跡の水』つうのを持ち帰ったんで、その凱旋パレードがあるんだ。なんでも元気になった王女も一緒にパレードに参加されているらしい。今日の王都はお祭り騒ぎさ。」
俺達にとっては好都合だった。この人込みに紛れて城門をくぐれるのだ。
俺達は城門をくぐる順番を待った。そして、いよいよ俺達の番になるところで、兵士から声がかかった。
「そこの白いローブを着た者、フードを取れ。」
『考えが甘かったか・・・』
リーンはフードを取った。
「
「魔導士学園の試験を受けに来たのよ。」
リーンは答える。
「そうか。試験の日が近かったな。まー、頑張り給え。」
特に咎められる事もなく城門を通過することができたので、俺はほっとした。
王都の町は今まで通ってきた町よりも人であふれていた。道々には露天商等も出ており、賑わっていた。
俺たちは、魔導士学園の場所を聞いて、その場所へと向かった。
その途中で凱旋パレード中の勇者一行が馬車の後ろに乗り、手を振っているのが見えた。道の両端には勇者一行と王女を見ようと集まった人たちが歓声をあげていた。
「ちょっと見に行ってみましょうよ。」
リーンが提案した。
俺たちは人混みの中から、勇者一行を見上げた。俺は、手を振っている5人の中の4人に見覚えがあるような気がした。
俺が思い出そうとしていると、「どうかしたの?」というリーンの声で考えるのをやめた。
「いや、あの4人どこかで見たことある気がして・・・」
「そんな事言って、あの王女様にでも見とれてたんじゃないでしょうね?」
「いや、そんな事はないよ。」
そんな会話をして、俺たちは人混みの中から出ることにした。
俺たちは目的の魔導士学園に到着すると、入学試験の手続きをする事になった。受付の人に、試験が2週間後という事で、魔導士学園が用意した宿泊施設に泊まるかと聞かれた。
俺は王都を見て回ろうと思っていたし、魔導士学園の宿泊施設もお金がかかるようなので、普通の宿でいいかと思い断ることにした。しかし、リーンは特別クラスの特待生になるために、2週間籠って勉強するという事だった。だから、魔導士学園の宿泊施設を利用するらしい。
俺はこちらの大陸に来てから薄々感じ始めていた事だが、俺の魔法はなかなかのレベルにあるんじゃないかと思い始めていた。だから、魔導士学園とやらにも簡単に受かると思っていた。
俺たちは2週間後の再開を約束して、俺は魔導士学園を後にした。
まず俺は冒険者ギルドに行くことにした。手配書がどうなったか気になったからだ。
冒険者ギルドの掲示板を見ると、俺たちの手配書はないようだった。途中で会った人か、ジュリエッタの父親がうまくやってくれたのだろう。
俺は次に受付で素材の換金をする事にした。ロックブレイカーの角である。後4本ほど残っていたので、それを全て売却して、お金を手に入れようと思ったのである。途中で会った人の話なら1本で最低でも金貨5枚になるという事だったので、4本で金貨20枚である。価値的にはおよそ2千万円になる。
そう考えると、俺は武者震いをした。
「あのー、すいません。素材の換金をお願いしたいんですが。」
「わかりました。どちらの品ですか。」
「これです。」
俺はひとまず1本を手渡した。
「これは・・・見たことない素材ですね。ちょっと専門の方に見てもらうのでお時間がかかりますが宜しいですか?」
「あ、はい。お願いします。」
俺はドキドキして待った。
しばらくして、受付の人が戻ってきた。
「この素材はミスリルと同等の価値とみなされました。ですから、この量ですと、金貨6枚になりますが、よろしいですか?」
『なぬ?金貨6枚とな。』
「は、はい。それでお願いします。それで、後3本あるんですが、全部買い取っていただけますか?」
「ええ、大丈夫ですよ。」
「では、ちょっと待ってください。」
俺は一度外に出て、アーサーから角を3本受け取った。リーンの話ではアーサーの能力は珍しいらしく、見た者に説明を求められるのが面倒だったので、外に出てから受け取る事にした。
俺は3本の角を持って、受付に戻った。
「これです。大丈夫ですか?」
「少々お待ちください。」
「はい。い、いくらでも待ちます。」
俺は動揺していた。
「こちらと先ほどの素材合わせて、金貨25枚になります。」
『キターー』
俺の小躍りを踊りたかったが、平静を装った。
「わかりました。それでお願いします。」
金貨を受け取る手が少し震えてしまった。だって金貨25枚といったら、2500万くらいですよ。あの砂漠に戻って、もっと取ってきたいところですよ。
今の俺は何でもできる。あんな事や、こんな事も・・・ムフフですよ。
「マスター、鯛がたべたいですにゃ。」
『いいだろう、いいだろう。キャビアだろうが、マグロだろうが何でも好きなだけ食わしてやろう。』
「よし、じゃあ鯛を買いに行くか。」
「はいですにゃ。」
俺はまず今日の宿を取った。そして、鯛を買った後、ムフフな事をしようと夜の街へと繰り出した。アーサーは外で魚を食べさしておけばいいだろう。
王都というだけあっていろいろな店があった。そして、俺はお目当ての店を見つけた。
俺はアーサーに鯛を3匹ほど渡した。
「3匹もですかにゃ。今日は太っ腹ですにゃ。」
「ここでおとなしくしてろよ。」
「わかりましたにゃ。」
アーサーは鯛を食べ始めた。
そして、俺は店の前に立ち、決心して店の扉を開けようとした。
「お客さん。お客さん。ダメあるね。未成年は立ち入り禁止あるね。」
・・・うむ、そういう店もあるな。
俺は近くの同じような店の前に立ち、決心して店の扉を開けようとした。
「お客さん。お客さん。未成年が入ってるのばれたら、うちの店潰れちゃうね。」
・・・・・・
俺はその後、もう一軒入ろうとしたが、どうやら俺の顔立ちでは無理のようだった。
俺はアーサーのところへ戻った。まだ一匹を食べているところだった。俺は残りの2匹を取り上げた。
「誰にゃ?あっちの食べ物にゃ。返すにゃ。・・・ってマスター?」
「宿に帰ってから食うぞ。」
「・・・わかりましたにゃ。でも、この一匹だけ食べ終わるのを待ってほしいにゃ。」
俺はアーサーが食べ終わるの待ってから、宿に帰った。俺は不貞腐れて眠った。
そして、食べては寝て、食べては寝てと自堕落な生活が1週間ほど続いた。
アーサーを見ると、初めて会った時よりも丸々と太っているような気がした。
「アーサー、お前、太ってきてるんじゃないか?」
「失礼ですにゃ。全然変わってないですにゃ。」
鯛を食べながら、返事をする。アーサーはあれから毎日鯛を食べていた。
『いやいや、明らかに太っているでしょ。お使いでも頼むか。ちょっとは運動になるだろう。』
そんな事を考えていると、玄関からノックの音が聞こえた。
「おーい。」
男の声がした。
「いるのは分かってるんだ。開けてくれ。」
誰か分からなかった。俺は恐る恐る開けてみた。
「よお。」
そこには、あの屋敷であった犬の獣人がいた。その後ろには猫の獣人もいた。
「あれ?何でここに?」
「お前の匂いがしたからな。ちょっと話があってな。あがってもいいか?」
「いいけど。」
俺は2人を招き入れた。
「邪魔するぜ。」
「お邪魔しますにゃ。」
2人は部屋の中にあった椅子に座った。
「話って何だ?」
俺は聞いた。
「あれからどうなったのかが知りたくてな。追手が来るかと思ったが誰も来ないし。手配書も回ってないようだったからな。お前が何かしたのか?」
他の人物が犯人に見えるように偽装工作をしたが、穴もいっぱいあった。だから、時間稼ぎくらいにしかならないと思っていたが、予想以上の効果があったのかもしれない。
俺はその事を説明した。
「なるほどな。お前のおかげで当初の目的が叶いそうだからな。礼を言う。」
犬の獣人は頭を下げた。
「どうしてここにいるんだ?」
俺は聞いてみた。
「魔導士学園ってところで、ちょっと魔法の勉強するためにな。なんでも特別クラスってのが、種族関係なく受け入れるって噂を聞いてな。」
「そうなんだ。じゃあ俺もその魔導士学園の試験を受ける予定だから、一緒じゃん。」
「お前もか。・・・そういや、俺の名前教えてなかったな。俺はカイン、でこっちがミネットだ。」
「よろしくにゃ。」
猫の獣人が挨拶をした。
「俺はアギラだ。それであっちにいるのが、アーサーだ。」
「アーサー・・・アーサーってあのアーサーですかにゃ?」
どのアーサーだ?
アーサーはこちらの会話に気づき、こちらにやって来た。
「あっちの事をどうやら知っているのかにゃ。ケットシーのキング、アーサーとはあっちのことにゃ。」
「や、やっぱりにゃ。何でアーサー様がこんなところにいらっしゃるにゃ?」
「今はそこのマスターに仕える身にゃ。だから一緒にいるにゃ。」
「何だこの態度のでかい喋る猫は?」
カインがアーサーを威嚇していた。まー、仕方ない。
「ボス、知らないんですかにゃ。その昔、勇者一行の供をして、魔王を倒したという、猫界でも有名な方ですにゃ。こんなところで会えるなんて感無量ですにゃ。」
そう言えば、師匠と一緒に旅していたと言っていたな。しかし、こんなだらけた体では駄目だろう。俺は、アーサーにお使いを頼もうとしていたのを思い出した。
「アーサーすぐそばの魚屋でサンマを買ってきてくれないか?」
贅沢生活はもう終わりである。俺はアーサーに銀貨を1枚渡した。
「お安い御用ですにゃ。ミネット聞いていたかにゃ?」
「はい、アーサー様。」
まさかこいつ。頼む気じゃないだろうな。
「じゃあ任せるにゃ。近くの魚屋で鯛をこれで買えるだけ買って来るにゃ。」
「分かりましたにゃ。ジャーキーをいっぱい買ってくるんですにゃ。」
ミネットは走って飛び出していった。
「あっ、あのバカ猫、ジャーキーとか言ってましたにゃ。ホントにどうしようもないやつですにゃ。」
いや、どうしようもないのはお前もだろう・・・
それから、ミネットが帰って来てから、4人で食事をする事になった。
その翌日から、俺が作った料理を気に入った2人は毎日のように俺の宿へとやって来た。
そしてまた一週間が過ぎ、試験の日を迎えることになった。
試験は二日に渡って行われるようだった。
会場には多くの人やいろいろな種族が集まっていた。全員誘導されて、20人ずつ教室へと移動させられた。
俺は席に着いた。そして、アーサーには亜空間の中に隠れているように指示した。
そして、初日の試験内容を聞いて俺は驚愕した・・・・
その試験内容とは・・・・筆記試験だった。
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