第54話 探偵

~探偵・エラリーの視点~


 私はバロワ商会の支部に事件の調査で呼ばれました。

 大切な商品を逃がした容疑者を捕まえてあるから真偽を調べて欲しいという事でした。


 その容疑者は、調査兵団団長のギルシュと、その部下であるシュラインというものでした。

 ギルシュと言えば神剣クラウ・ソラスを操る剣の達人という事で有名な人です。2人は布の服を着せられ、檻の中に入れられていました。その首には隷属の首輪をはめられ、力を封印されています。


 檻の外の机には、証拠品としてそれぞれの剣と鎧が置いてありました。

 どうやら、大事件の予感がします。私の脳細胞が歓喜しているのが分かります。

 私はまず、屋敷全体を調べました。驚く事に、侵入者の痕跡どころか、この屋敷にいた人の痕跡がありませんでした。しかし、ガラスの割れた破片の方向から2階の窓から侵入し、地下室の上にある部屋から何者かが出て行ったことが分かりました。


 次に私は屋敷内の証言を聞くことにしました。


証言者A(玄関付近にいた男)「俺たちは、誰かが外で叫ぶのを聞いて外へ出たんです。すると、誰もいないと思った瞬間に、意識を失って、目覚めたら屋敷の中で横たわっていました。」

ふむ、玄関に誰か1人いたという事は間違いなさそうですね。不確実な事は排除し、確実な事だけを残していく。そうすればおのずと事件の真相に突き当たります。


証言者B(2階廊下にいた男)「玄関で騒がしいなと思った時、2階のガラスが割れる音がしました。私はそちらを見ようとしたのですが、突然視界が霧で覆われて、それでシルエットだけだったんですが、犬の耳のようなものがあったので犬の獣人が来たと叫んだのです。」

なるほど、玄関に1人と、屋根にもう1人いたのでしょう。そして、2階の窓から侵入した。私はそこで気になることを思い出し、地下室へ行くことにしました。黒い兜を手に取り考えました。視界の悪い状態、そしてこの兜・・・・犬の形をしています。


証言者C(猫の獣人を捕まえた男)「確かに檻の中には猫の獣人がいた。俺が捕まえたからな。絶対に確かだ。」

これは、ギルシュとシュライン両氏の証言と食い違っています。2人は獣人の存在を隠そうとしていました。猫の獣人ではなくただの猫しか見ていないと。どうしてそんな嘘を。どうして猫の獣人の存在を隠すのか・・・・


 そして消えた3人の見張りというのも気になります。一切の痕跡がありません。神剣クラウ・ソラスは炎の魔法剣だと聞いたことがあります。その力はどんな物体も燃やし尽くし、この世から消滅させてしまう。そんな伝説は嘘だと思っていましたが、これは・・・


これだけの状況証拠が揃っているのであれば間違いありませんね。


「謎は、すべて、解けました。このエラリーの名にかけて。」


 私は一同を地下室へと集めて事件の真相語ることにしました。

「この事件、大変苦労しました。この名探偵エラリーですら、痕跡のなさに戸惑いましたが、事件の概容はこうです。1階で1人が叫び、まず囮になったのでしょう。そして、2階からもう1人が霧魔法を周辺に展開した後に侵入した。おそらく、2階から侵入したのは、シュラインさんだと思われます。そして、1階の人物、すなわち残ったギルシュさんも自分の周辺に霧の魔法を放ち1階から侵入し、2人は合流して、地下室まで辿り着いた。そして、見張りのものを倒して、奴隷たちを1階の窓から逃がした。しかし、見張りの者たちが目を覚ましたので、2人は奴隷を逃がす時間稼ぎをするために屋敷に残って足止めをした。その後、地下室まで追い込まれてしまい、死闘の末3人の見張りは倒したが、シュラインさんはやられてしまった。ギルシュさんは死体がこのままではまずいと考え、神剣クラウ・ソラスを使い、死体を抹消した。しかし、誤算だったのは、死闘の末、クラウ・ソラスを使ったため、魔力切れが起こり、そこで気を失ってしまった。とまあ、これが事件の真相です。・・・言い逃れはできませんよ。」


「ふざけるな、1つも当たっていないじゃないか。」

まだ認めないつもりですか。往生際が悪いですね。


「そ、そうだ。ザックを呼べ。そうすれば、私達が嘘を言っていない事が分かる。」

ザック?誰ですか?それは。いいでしょう。私の推理が覆ることなどありえない事です。真実は1つしかありません。


~調査兵団・ザックの視点~


 胸糞が悪かった。バロワ商会から、私に直接依頼があったのだ。それでなくとも、私が王都に帰りついてから、今王都はいろいろと慌ただしいというのに。


 私は王都の近くにある、バロワ商会の支部へと向かった。


 私はバロワ商会に着いて驚いた。ここ数日行方が分からなくなっていたという団長とシュラインがいた。そして、バロワ商会の商品を逃がしたという罪に問われているようで、その真偽を私にして欲しいという事だった。どうやら、私の嘘を見破ることができる魔眼の能力を教えたようだった。


2人は自分たちに起こった事を証言した。


「私たちは商品奴隷である猫の獣人を逃がしに来た獣人の撃退のため、応援としてここに来たのです。」

本当だった


「来てみれば、獣人が逃がしていたのは猫の獣人ではなく猫でした。」

本当だった


「儂等はその獣人を撃退しようとしたが、逆にやられてしまったのじゃ。地下室で起こされるまで、儂等は気を失っておった。」

本当だった。


私に悪魔が囁いた。ここで、うまくやれば、団長派を失墜させて、バロワ商会を潰すことができるのでは、と。


「同じ調査兵団として、残念ながら、すべて嘘の様です。」

私はその悪魔の囁きを実行した。


「何だと。」


「貴様。」

2人はまさかという顔をした後、口々に叫んだ。


「どうやら、私の推理の正しさを裏付ける結果になっただけでしたね。私にいい考えがあります。直接この事件をやったかどうか聞いてみればいいんですよ。そうしたら、はっきりするじゃないですか。まあ、聞くまでもありませんが。」

探偵が提案する。


「なるほど。」「いわれてみれば。」「おお。」「さすが。」

その場にいたバロワ商会のもの達が納得の声をあげる。

それを聞いた団長とシュラインの表情は青ざめて、顔から汗を掻いている。


「おや、どうしました。何か後ろ暗いところでもあるんですか?ふふ、あなた達がやったんですか?」

「こいつは嘘をついている。」

団長は質問に答えない。


「何を言っているんですか。あなた達が連れてきたんじゃないですか。もう一度質問しますよ。答えなければ肯定ととります。あなた達がやったんですか?」

探偵は再び質問した。シュラインがそれに答える。


「・・・私たちは・・・やってはいない。」

本当だった。


「嘘をついていますね。」

私は嘘をついた・・・

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