第53話 神の恵み
アーサーの事はひとまずほっておくとして・・・
俺は2人を倒した後、誰も殺さない事に決めた。
やはり、出来ることなら、殺すという事はしたくなかったからだ。
代わりに、偽装工作はさせてもらう事にした。後から来た、鎧を着る2人を屋敷の地下室へと運んだ。銀色の鎧の方の氷の部分は俺の炎の魔法で溶かしてやった。
黒い鎧の方は、俺が壊した兜を直してやった。一度溶かして、元の状態を再現した。しかし、兜がフクロウのような造形をしていた気がするが、犬のような形になってしまった。俺の鍛冶スキルは一流のはずなのだが・・・まあ、いい。
そして、朝まで目覚めない程度に2人に雷の魔法を撃ち込んだ。
そして、俺は屋敷の外に出て、屋敷全体に『
そのあと、『
屋敷の1階と2階で氷漬けになった者たちは、その氷が溶けているだろう。
目覚めるにはもう少し時間がかかるだろうが、地下室の2人よりは早く目覚めるだろう。銀色の鎧を着たものが「バロワ商会に世話になっている」とか言っていたので、地下室で寝ている2人は外部の人間であることが予想された。
俺と獣人は顔が見られていないはずだった。俺は遠隔で氷の魔法を放ったし、獣人は霧の中行動していたから、1階と2階のもの達には顔をみられていないはずだ。唯一見られた地下室の者たちはこの世から消えている。
この状況ならば、運がよければ、地下室の2人が檻を破って奴隷を逃がしたという誤解を生じる可能性があった。証拠を集めようにも、何も残っていないから、時間は稼げる気はした。
俺はひとまず教会へと戻る事にした。
教会に戻ると、先ほど助けた4人は教会の中で寝ていた。疲れて眠ってしまったのだろう。
俺は夜が明ける前にこの教会、いやこの村のためにいろいろとやってあげることにした。寂れた村を立て直すための基礎を作ってやるのだ。
まず俺は、土と光の合成魔法を村全体の土にかけた。
『
師匠が、洞窟でも畑を栽培できるように開発した魔法だった。それが、ここで活かすことができた。
村全体の土壌に栄養分が行き渡ったはずだ。俺は教会の周りを土魔法で耕した。
次は、水である。雨を降らすこともできるが、それでは一時しのぎである。俺は、辺りを走り回り大きな川を探した。かなり遠かったが見つけることができた。俺は支流を作り、村の近くまで川が流れるように掘り進めた。
そして、村の近くまで川の水が来てるの確認してから、大きな穴を掘った。その音は少し大きな音だったようで、フードの中で不貞腐れて眠っていたアーサーが目を覚ました。
「にゃ、にゃにをやってるんですか、マスター。」
「ふっふっふ。見てろよ。」
『
俺が水魔法を放つと掘った穴の中に、どんどんと水が流れ込む。
「さすが、マスターですにゃ。」
そこには、池・・・いや、ちょっとした、湖ができあがった。
これで、当分は大丈夫だろう。運が良ければ魚なんかも流れ込んでくるかもしれない。
今日はいろいろあったので、なんだか眠かった。だから、そろそろ俺は教会に戻ろとした。
教会の方にある木から1人の女の子が出てきた。
見覚えがあった。さっき助けた中にいた女の子の1人だった。さっきの音で起きてきたのだろうか。
よく見ると、その女の子の服装は綺麗で高価そうなものだった。
「あなたは、先ほど私たちを助けてくださった方ですよね?」
女の子の言葉遣いはどこか気品があった。
「そうです。」
「では、今湖を作り出したのもあなたがやったのですか?」
どうやら見られたらしい。
「この村が水不足で困らないように魔法を使ったんだ。」
「湖を?・・・そんな膨大な魔力を必要とすることができるなんて・・・なんでこんな夜中に?」
寝ている時にうるさいからやめた方がいいという事だろうか。特に夜中にやっている意味はなかった。やろうと思ったのが夜中だったからだ、しいて言うなら地形を変えるのを見られたら何かやばいかなと思ったくらいである。
「人に見られたくなくて・・・」
「やはり・・・そうですか・・・その強大なお力を隠されているのですね。隠れて人々のためになることをしてらっしゃるのですね。なんて素晴らしい。世間に知られることなく善行をする。誰にでもできる事ではありませんわ。わたし、あなた様に感服いたしました。」
何か勘違いしているようだった。
「このジュリエッタ、プラダ家の名に懸けまして、この事は他言しないことを誓いますわ。」
いや、俺としては全然他言してくれも良いのだが・・・
俺のした良い事を、自分で広めるのはしたくはないが、人が広める分にはでOKである。というか、むしろ広めて欲しいとすら思っていた。
しかし、この目の前の女の子の期待を裏切るわけにはいかなかった。
「そうしてくれると助かるよ。」
女の子はすごく嬉しそうな顔をしていた。
「わかりました。このことは私達、『ふたりだけ』の秘密ですわね。」
ふたりだけというところが強調されていたように聞こえるが、気のせいか。
「そうだね。」
俺は眠かったので、女の子を連れて教会に戻った。俺は疲れからすぐに泥のように眠りについた。
俺は翌朝、リーンの不機嫌な声とみんなからの感謝の声で起こされることになった。
「どうして連れて行ってくれなかったのよ。」
リーンはピピの救出に連れて行かなかったことを怒っていた。
「アギラの兄ちゃんありがとう。これ。」
ポポは泣いて、銅貨3枚を手渡してきた。俺は迷ったが受け取ることにした。代わりに俺は釣り竿をあげることにした。海で使ってたやつだ。ポポは喜んでいた。
「ありがとう。」「冒険者ってやっぱすげーんだな。」「かっこいい。」「私も冒険者になるわ。」「俺もー。」「海賊王に俺はなる!!」「じゃあ私は魔法使いよ。」
子供たちは俺の周りに集まった。
「アギラさんありがとうございます。それに、外を見てください。神が奇跡を起こされたのです。」
シスターが泣いて俺に感謝を述べる。
その横でジュリエッタが俺にウィンクをして、俺に合図を送っていた。
「昨日の夜ジュリエッタが神が降臨なさって、土を耕し、湖を創り出されるのを見たというのです。」
なるほど、俺がやったのをばれないようにするために嘘をついたという事か・・・
いや、本当の事を言ってくれて構わないんだよ、ジュリエッタ・・・
俺はその後、約束通りみんなに食事を振舞った。みんなは喜んで食べてくれた。
「こんな美味しい料理は食べたことないわ。」
ジュリエッタも驚いていた。
食事が終わった後、ジュリエッタは俺のそばに来て何かを言おうとしていた。
「あ、あの・・・」
「どうしたんだ?」
「あなたの力を私にも貸して貰えないでしょうか?」
どうやらジュリエッタは困っている事があるようだった。
その後2、3日であるが俺は村の復興を手伝った。助けたジュリエッタ以外の少年と少女は、両親がもう死んでいるという事で教会で引き取ることになった。
「神の恵みのおかげでなんとかやっていく事ができると思います。」
シスターは2人を引き取ることに了承してくれた。俺は今度また物資を寄付しに来る事を約束した。
俺たちは村を出発して、次の目的地へ向かうことにした。
プラダ伯爵の娘であるジュリエッタの家に。
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