第52話 冒険者達・その3

~剣士(Aランク)・シュラインの視点~


 今回の依頼は、ギルドを通さない直接の依頼です。バロワ商会の支部が獣人に襲撃を受けたので、応援を至急寄越して欲しいとの事でした。


 王都から近かったので、調査兵団団長のギルシュと私が向かうことにしました。


 獣人の目的は、捉えた猫の獣人の救出だろうということでしたので、あの屋敷の兵力を考えれば、私たちが到着するまで十分に間に合うはずです。


 私はバロワ商会からいただいた魔装アンドラスと魔剣ダーインスレイヴを装備して、出発しました。

私は傷付けた部分を回復不能にするという魔剣の力を振るえるこの機会を喜びました。私はこの剣を貰ってから、この剣の漆黒の輝きに魅了されていたのです。


 そもそも私は、この魔剣ダーインスレイヴのために、調査兵団の団長派にいるのです。

 調査兵団は今、バロワ商会を擁護する団長派と、それを糾弾する副団長派に2つに割れています。私はどちらにもついてはいませんでしたが、バロワ商会の賄賂により、団長派へとなりました。


 その賄賂こそが、どんな魔法も効かない魔装と回復不能の傷をつける魔剣だったのです。

 魔装の防御性能は魔法を通さないばかりか、通常の物理攻撃もほぼ無効化することができました。この鎧を傷つけることができるのは、オリハルコンで造られた神剣と呼ばれる類くらいでしょう。


 団長の持つクラウ・ソラスもオリハルコンでできた神剣です。

 こんな私達が出向くという事実に、私はバロワ商会を襲撃した獣人に逆に同情しました。


 バロワ商会の支部に到着すると、獣人が玄関を出てきたところでした。案外、早く支部を脱出できたようですね。

「あなたが、バロワ商会に侵入したという獣人ですか?そちらの猫は・・・・獣人ではなさそうですね。」

見ると横には猫が浮いていました。どうやら、報告は少し間違っているようでした。


 猫の獣人ではなく、あれは間違いなく猫ですね。浮いているのが不思議ですが。見たところ魔力もあまり感じませんし、気にしなくていいでしょう。


 団長がやる気になっています。このままでは、私の魔剣ダーインスレイヴを振るうチャンスがなくなってしまう。


「団長が出るまでもありません。ここは私が・・・この魔剣ダーインスレイヴの餌食にしてやります。」

私が団長の一歩前に出る。団長は私に任せてくれるようです。


・・・獣人は、なにやら調理器具を手に持ち始めました。


私を・・・いや魔剣ダーインスレイヴをこけにしてますね。


 本来、少しずつ回復不能の傷を負わせて、最後にとどめを刺すべきなのですが、私は怒りで、一撃で決めることにしました。上段から真っ二つにしようと、剣を振り下ろしました・・・・


ありえません。ありえません。ありえません。


プラチナですらも切り裂く私の魔剣がしゃもじなんかに・・・


私はもう一度剣を振り上げ、手首を狙って振り下ろしました。


ありえない。ありえない。ありえない。


 またも防がれました。私の意識がしゃもじへと集中している時、左の視界に調理器具のお玉が見えました。


 そんなお玉で攻撃しようが、魔装アンドラスを通してダメージを与える事なんて・・・・ひでぶっ


 倒れる間際、私の白い歯が地面に何本も落ちるのがスローモーションとなって見えました。

その映像を最後に、私の視界は真っ暗なものへと変わりました。


~魔法剣士(Sランク)・ギルシュの視点~


なんなのだ。あやつの手に持っているのはどう見ても調理器具ではないか。


どうして、魔剣ダーインスレイヴが通じない。どうして、魔装アンドラスを破壊できる。


儂はクラウ・ソラスの真の力を解放した。


「見るがいい。 剣精よ 契約に従い集い 舞い 荒れ狂え クラウ・ソラス 」

儂の持つ神剣クラウ・ソラスが燃え上がる。

儂は一気に片を付けるつもりじゃった。


 その時、驚愕の事態が起こった。

相手の持つしゃもじが、氷の魔力を帯びて、氷の剣を形作った。


「なん・・だと・・・」


 魔法剣じゃと。しかも、精霊の力も借りず、無詠唱などと・・・

そもそも、魔法剣は魔法感応素材でしかなしえないはず。魔法感応素材とは、すなわちオリハルコンの事じゃ。

 儂が考えていると、さらに追い打ちをかけるように信じられない光景が目の前に現れた。


「ば・・・ばかな・・・」

右手に持つお玉が、雷の魔力を帯びたハンマーに変化した。


 儂にさらに2歩の間合いを取らせるには十分な威圧感を放っていた。

 あれは、希少なオリハルコンでできた調理器具だというのか。いや、そんなことはありえない、鍛冶師ならば、オリハルコンの希少価値を知っているはず。そんな馬鹿げた使い方をするはずがない。ましてや、オリハルコンを鋳造できる腕を持つ鍛冶師ならなおさらである。


あれは・・・いや、あの獣人は一体何者だ・・・


しかし、儂はこれでもSランク冒険者。負けるわけにはいかぬ。

獣人は左手に持つ氷の剣で儂に攻撃しようとしてきた。


『受け攻めいくつか予想しとったがそりゃ悪手だろ獣人。』


 儂の剣の属性は炎、対してあやつが選んだ攻撃は氷、属性の優位性で儂が勝つ。

 儂は氷の剣など叩き割れると思って剣を合わせた。しかし、全く割れることはなかった。それどころか逆に儂の炎が氷漬けにされ、そのまま儂の右腕全体が氷漬けになった。儂が驚愕な出来事に気を取られた刹那、左半身から強烈な電撃が襲った。

 薄れゆく意識の中で儂の耳に届いたのは、緊張感のない猫の声だった。


「マスター、そろそろ終わったですかにゃ。にゃんか、お腹がすいてきたですにゃ。そろそろ、夜食なんてどうですかにゃ・・・にゃ、にゃ、その手に持っているのは料理に使ってる道具ですにゃ。あっちに内緒で何食べようとしてるんですかにゃ。ずるいですにゃ。あっちにも寄越すにゃ。」


やはり、両手に持っているのは調理器具で間違いないようだった・・・


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