第45話 売却
俺はリーンを担ぎ、その場を離れた。
しばらくすると、リーンが目覚めたので、おろしてやった。
「助けてくれて、ありがとう。危なかったわ。」
「いったい何があったんだ?」
「私にもよくわからないわ。メガラニカ王国を目指そうと思って町を出たら、急に襲われたのよ。だから、私の魔法で返り討ちにしてやったわ。死なないように、ちゃんと手加減もしたわ。」
正当防衛という事か。
「誰かに狙われてるのか?」
「心当たりはないわね。南の大陸に来たのは両親と一緒に2回来たくらいだし・・・でも、もしかすると・・・」
何か思い当たったのだろうか。
「奴隷にして、売ろうとしてたのかも。両親と来た時は、フードを被るように言われてたから・・・」
俺の育った竜人達の国では奴隷制度がなかったが、どうやらこちらではあるらしい。気絶させた男も、エルフを奴隷にするのは当然というような発言をしていたのを思い出した。エルフの大人達はそれを知っていて、エルフとはバレないように行動していたのかもしれない。
「なんか人間がすまない。俺はリーンの味方だから、信じてほしい。」
「大丈夫よ。アギラの事は信用してるよ。助けてくれたしね。それに、人間がみんな悪いわけではないはずよ。エルフの大賢者カダフィは人間の勇者と組んで魔王を倒したって話があるくらいだからね。・・・そうだ。アギラはあれだけ体術に優れてるなら、騎士養成学校なら絶対に特待生として受かるわよ。そして、私とパーティーを組んで冒険しましょうよ。私が魔法使いで、アギラが勇者になるのよ。」
期待に満ちた目で、俺の返答を待っていた。
「俺は強くなるためにここに来たんじゃなくて、呪いを調べに来たんだ。だから、騎士養成学校とやらには行かないかな。」
「そうなのね。」
残念そうな顏をした。
「けど、魔法剣士として登録したから、一緒にパーティーを組むのは構わないよ。」
俺は冒険者カードを取り出して見せた。
「勇者がそのパーティーのリーダーになるから、アギラには勇者になって欲しかったけど、魔法剣士でもいいわね。一緒に組みましょう。ジョブが勇者の人を入れなきゃいいのよ。」
ジョブによって、パーティーでの役割が決まるのか。
「そのジョブはまた変えられるらしいから、勇者も考えておくよ。」
「えっ?ジョブは変えられるの?・・・よく見るとこのカード、ステータスとか全然書かれてないわね。親のカードを見せてもらった事があるけど、ちょっと違うわ。」
カードにステータスとか表示されるの?初めて知ったんですけど。
「もしかして、仮登録だからかもしれない・・・本登録は依頼をこなしてからだって言われたから。」
「そうなの。じゃあ本登録の時は、勇者で申請しなさいよ。そして私が魔法使いになるわ。そして、歴史に名前を残しましょうよ。私達ならやれるわ。」
なぜか魔法使い志望なのに、シャドーボクシングをするように拳を何度も突き出した。
「リーンは今からメガラニカ王国を目指すの?」
「そうね。アギラは用事は終わったの?」
「ああ。用事が終わったから、一度メガラニカ王国に一緒に行こうかと思う。このあたりにいたら、また襲われそうだからね。」
俺はリーンの事が心配だったので一緒に行くことにした。
リーンはそれを聞くと嬉しそうにしていた。
「本当に?やった。嬉しいわ。1人だと心細かったのよ。」
リーンは俺の頭の上で寝ているアーサーに手を伸ばした。
そして、アーサーを自分の胸に抱いて、頭を撫でた。
「アーサーともまた一緒に旅ができるわね。」
アーサーは眠りを邪魔されたくないのか、撫でられる手を寝ぼけながら、払いのけようとしている。
『こいつ、ずっと寝てるな・・・』
俺はアーサーを見て、思った。リーンを見ると苦笑いをしていた。
俺たちは一緒にメガラニカ王国へ向かった。メガラニカ王国までは、町を何個か通過しなければならなかった。北の大陸では、1人だったのでかなりのスピードで進んでいたが、今はリーンがいるので、リーンの歩く速度に合わせて進んだ。俺は、次の町でリーンにフード付きの服を買おうと思った。耳を隠せれば、外見からはエルフだと判別つかなくなるからだ。
そして、借りることができるならば、馬車なんかも借りようと思った。進み方が遅かったからである。
それにはお金が必要だった。港町では、リーンの事もあり、換金する暇がなかったので、俺は一銭もお金を持っていなかった。
俺達はククリという町に着いた。
そこで、ロックブレイカーの角を鍛冶師の工房に直接売ることにした。
冒険者ギルドに行くのはひとまずやめておいた。リーン確保の依頼の件が他にも出回っているのか、俺の立場がどうなっているのか分からなかったからだ。
「すいません。素材を買い取って欲しいんですけど。」
「あー、そういうのはギルドを通してくれないか。直接買うのは禁止されてるんだ。」
ギルドを通さないと売れないのか。さて、どうするか。
「安くてもいいので、買い取ってほしいんですけど・・・」
俺はロックブレイカーの角を出し、粘ってみることにした。
「ダメ、ダメ、バレたらこっちが・・・って、坊主、それ、ちょっと見せてみろ。」
その鍛冶師は真剣な目で角を見たり、何かで叩いたりしていた。
「・・・銀貨50枚でどうだ?何か訳ありなんだろ。これ以上高くは買いとらねーぜ。」
銀貨50枚がどれくらいの価値があるか分からなかった。ひとまずお金に換金できるなら、何でもよかった。特に苦労して手に入れたものでもなかった。
後何本かあったので、追加でさらに3本売る事にした。鍛冶師は驚いていたが、4本とも買い取ってくれた。
ひとまず銀貨200枚が手に入った。
俺はリーンに合いそうなフード付きの服を1人で買いに行った。魔法防御が付与されている薄手のフード付きのローブというものだったが、銀貨5枚で買うことができた。銀貨1枚が1万円くらいの価値だろうか。金貨1枚は銀貨100枚に相当するらしい。ただ、金貨は小さい町ではあまり出回ってないらしかった。
鍛冶師はかなりの額で角を買い取ってくれたことになる。安く買い取られたと思ったが、鍛冶師は良心的だったのかもしれない。
俺は買った服をリーンに渡した。
「これ、メガラニカ王国に着くまでの道中で着なよ。魔法防御がついてるから、襲われても守ってくれるよ。」
「いいの?ありがとう。」
リーンは早速服の上から羽織った。
「どう似合う?」
「ああ、似合ってる。可愛いよ。」
リーンは少し照れていた。
そして馬車を借りるために、馬車を貸してくれるところのある町の出口付近に向かった。
俺たちが出口付近に近づいたとき、後ろから声を掛けられた。
「おい、そこの2人。止まって、大人しく俺達について来い。じゃないと怪我をすることになるぞ。」
誰かが通報したのかもしれない。そして、やはり、リーンだけでなく俺も捕獲対象になっているのかもしれなかった。
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