大会前夜の姉と弟

 通称カクヨム杯開始前日、大会参加者のラスは姉のルスと共に錬金術の研究室にいた。

 「明日からですね」

 ラスが慕う姉のルスは嬉しそうに笑う。小さな手には大会の観戦チケットが握られていた。

 大会に参加するように依頼してきた二年ぶりの訪問者から先週送られてきたのが、このチケット。以来ルスは毎日楽しそうにチケットを見つめていた。

「ルスお姉様。こういう争い事は嫌いではなかったですか?」

 ラスは尋ねながら、バトルロイヤルをやっていた時のことを思い出す。

 あの時、ルスは積極的に戦いに参加せず、のんきに紅茶を飲んでいた。もちろん奇襲に備えて床一面に多数の魔法陣を描いた後の話だが。

 穏やかな性格で争い事を好まないルスが、あんな大会に興味を持つはずがない。 しかし、送られてきたチケットを手渡しした時、ルスは嬉しそうに幼い体でジャンプしていた。

 ラスがその姿を思い浮かべていると、ルスは首を縦に振る。

「確かに嫌いなのです。でも、私は研究熱心なのです。大会参加者の能力を解析して、どうやったら錬金術で同様のことが可能になるのかを考えたいだけです。一番試合が見やすい席のチケットだから、それも可能です」

 相手の能力を錬金術で再現するためにはどうするのかを考えながら観戦するとは、研究者の鑑だとラスは思った。

「僕の戦いは二の次ですか?」

 弟がそう呟いた直後、ルスは慌てて両手を振った。

「違うのです。チケットを送ってくれた依頼主さんから聞いたのです。ラスは私が試合を観戦できるように依頼主さんに進言したようですね。その時に気が付いたのです。ラスは自分が頑張っている所を私に見てほしいんだって」

 本音を言い当てられ、ラスは思わず顔を赤く染めた。

「やっぱりルスお姉様には負けますよ。争い事が嫌いなお姉様に観戦してほしいなんて傲慢だと思ったのですが、そういうことです」

 素直に認めながら、ラスがしゃがむ。その後、ルスは優しく微笑み背伸びしながら弟の頭を撫でた。

「素直でよろしいです」

 羞恥と嬉しさによってラスの体が真っ赤に染まる。 

 それからルスは、何かを思い出したように、両手を一回叩いた。

「そういえば、試合で死ぬかもしれないって大会規約に書いてありました。その場合は、こっちの世界で生き返るから問題ないとも書いてあったけれど、やっぱりラスが死ぬ所は見たくありません。だから、約束してください。死にそうになったら、場外にテレポートして負けを認めるって。もしも約束を破ったら、一生口を利きません!」


 今までルスの口からは聞いたことがないような強い口調に、ラスは一瞬驚く。そして、ラスはルスの約束を守ると心に決めた。

「分かりました」

 予想通りな答えを聞き、ルスは微笑む。

 

 それから数分後、大会運営委員会の使いが二人の前に現れ、ラスとルスは大会が開催される異世界に飛んだ。

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