3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820……

アーモンド

appleπ

香ばしい焼け目が、食欲を煽ってくる。

唾を飲み込んで、オーブンの中を見ていた。

朱の色で染められたトレーの上で、林檎の挟まったパイが焼けていく。


――――はぁ、やっと焼けた。


俺は美味しそうに焼け上がったアップルパイをオーブンから出して、食卓で待つに差し出した。


「はいどうぞ。

お前が食べたがってたアップルパイだぞ」

「ありがとう」


ソイツは実に素っ気なく返事し、フォークで一口大に、アップルパイをいた。


「頂きます」


やはり素っ気ない。もう少しくらい感動やら何やらあっても良いんじゃないか?


咀嚼。

甘酸っぱい林檎とバターの効いたパイ生地の連弾で、味覚の鍵盤が軽快に叩かれていく。


「うん、――――美味いんじゃない?」

「何だ今のは」


「いや、何か……。

がした」


有り得ない。俺がアップルパイを焼いたのは今回が初めてである。


「…………いや、気のせいか…………?」


ソイツ――――道野どうの琉翔るとはそんな風に呟きながら、また一口大に割いたアップルパイを咀嚼するのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

3.141592653589793238462643383279502884197169399375105820…… アーモンド @armond-tree

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る