二面性男子の鏡

山本慎之介

第1話


───帰りたい。


思わず声にでそうなるのを我慢する。


商店街の路地裏、完全に道に迷った不思議な見てくれの男は自分がいた世界のことを思い出し溜息を吐いていた。


一体何が起こったのか


全てはほんの数十分前に遡る。



────────────────────


「それで、イキカ王国侵略の件は進んでいるか?」


「はっ、只今各班順調に準備を進めております。10日後当たりには始められるかと。全てはキノヤ様の手腕の賜物です。」


ホニン大陸の西方、イキカ王国のとある場所、ここがこの男、キノヤが率いる組織の本部だ。

表向きは極々普通の企業ということになっている。しかし裏では数々の犯罪に手を染める俗に言う悪の組織であった。


そんな組織のトップであるキノヤは15歳にしてこの組織を作り上げ、僅か2年で裏の世界では知らない者はいないという程の実力者に成り上がった男だ。


「そうか、では引き続きよろしく頼む。」


若くして貫禄と人望があり、部下も多い。

まともな人生を送っていれば今頃有名な社長か政治家にでもなっていたかもしれない。


それでも彼は悪を選んだ。単純だ、世界征服という響きに惹かれたのだ。


「やはり漢たるもの世界征服くらい目指さないとな!」


「その通りであります、キノヤ様。」


ここにはそんな同志が集まっている。中々大変なこともあるが、目標があって充実している。みんなで世界征服を目指すなど、悪の組織らしくはないが。


「ではよろしく頼むぞ。俺はカツテミカ辺りを歩いてくる。」


悪のボスも呑気なもんだとは思うが、これが中々に楽しいのだ。



広場まで出ると、人が多くて賑わっている。人が多いと自分のことがバレそうであるが、裏の人間だけあってそうそうバレることはない。というかキノヤ自身バレそうな緊迫感を少し楽しんでいる所があるので仕様が無い。


澄ました顔で、内心興奮しながら街中を歩く、だから散歩は止められない。


ふと、目の前の鏡に目を向ける。次の瞬間キノヤは固まった。


自分が、写っていないのだ。


他ははっきりと見える。自分の後ろさえくっきりだ。それなのに自分だけ映らない。


不思議に思いキノヤが鏡に手を伸ばしてみると、世界が白で染められ────






「ここはどこだ?」

キノヤは真っ暗な場所にいた。


本当に何もない。いや、微かだがずっと先に小さな光が見える。


「一先ずあれを目指すしかないか……。」


キノヤは歩を進めた。


この光には十分ほどで到着した。


近づいてみるとそれは縦一メートル程はあり、縦長の長方形という形をしていた。


「なんなんだこれ……」


そっとキノヤが手を伸ばしてみると、再び世界は白く染まり────







「浩太郎?早くしないと学校に遅れるよ!?」


こうたろう、と久しく呼ばれていないキノヤの名前が聞き覚えのない声に呼ばれているこの場所は全く見覚えのない部屋の中だった。

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