第7話 帰宅

 聖ブポイント像の足元には複数の石碑があり、奥にシャボン液みたいな膜状の入口があった。


「このシャボン液の膜をくぐればいいの?」

 ――シャボンではなく魔力の膜です。そこをくぐれば元の世界に戻れます。


「本当に? こんなので?」


 行きは女神様に召喚されて来たのに、帰宅はシャボン液だなんて不安になる。


 ――小胆なのですね。ちゃんと戻れますよ。


「……じゃ、それは信じるけどさ。元の世界に帰った後、またここへ戻る時はどうするんだ?」

 ――ご安心を。元の世界へ帰った際、出入り口となる簡易的な入口が自動で作られます。


 便利だな。

 と、この時の僕は思っていたのだが。





 元の世界に帰って、考えは変わった。


「自動で作るってさ、自分で設定できないってことなんだな」

 ――そうですね、マスター。


 元の世界に戻って来た時、僕は部屋のベッドに落ちた。

 そう、落ちた。


「よりによって部屋の天井に作られるとはね」


 僕は天井に現れた縦長のシャボン膜を眺めて愚痴をこぼす。


 ――ここを通るのは少し苦労しそうですね。


 脚立でも使うかな。

 なんてことを考えつつ、ひとまず僕は現状の把握にも努めた。


 枕元に置いていた筈のスマホを探し、見つけて日時を確認する。

 日付に変化はなく、時刻は平日の夕刻を指していた。

 どうやら異世界に行っている間に、半日ほど経過したらしい。

 当然、高校もサボったことになる。


「おっ、皆からメッセ来てる」


 僕は部活仲間から届いた心配メッセージに返信しつつ、学校を休んだ言い訳を親にどう説明したものか考える。


 ――……。


 しかし。


「セリ?」


 急に黙り込んだセリが気になり、声をかけてしまった。


 ――なんでしょうか?


「いや。急に黙り込むから、どうかしたのかなって」


 すると、セリはどこか恥ずかしがるように返答する。


 ――いえ……先程からマスターが誤字をしてくださいませんので、やることがないなと。

「あー……」


 そういや僕の誤字は異世界にいる間のデメリットだったな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る