俺は恋に落ちた....そして階級も落ちた

永咲 刃

上下差恋愛

灰色の空の昼下がり。俺はいつものように友達にと輪になって馬鹿騒ぎをしていた。


「陽くんってすごいよね。さっきの授業の問題解けてたの!?」


「あんなの簡単さ。今度やり方教えてやるよ。」


「約束ね!」


「俺も教えてくれよ!」


「はいはい。」


その時、教室のドアが開く音が聞こえた直後、野太い中年男性の声が俺を呼んだ。


「月本君。ちょっといいかね。」


国語担当であり、うちのクラスの担任の山口先生だ。俺はこの先生が嫌いだ。放課後に残って友達と話しているのをいいことにこき使ってくる。


「はいはーい。今度はどんな雑用ですかー。」


どうせ荷物運びとかだろうな。めんどくせえ。


「これを図書室に運んで来てくれるかな。」


ドンッ机に置かれたのは百貨辞典5冊。今回はまだ軽いほうだが図書室までかなり歩かなければいけないからしんどい。


「んじゃあ。俺は帰るわ。」


「じゃねー!」


「わかった。また明日な!」


友達を見送ったあと、俺はよいっしょと百貨辞典を担いで図書室まで向おうとしたところ、山口先生は百貨辞典をもう5冊乗せた。


「ごめんね。まだあった。」


この野郎....申し訳なさそうな口調だけど絶対わざとだな。陽は重い10冊の本を生まれたての子鹿のようにふらふらと図書室へ向かった。


「くそ....この本が邪魔で前が見えねえ。山口の野郎....。」


(ドンッ!)


陽は前が見えないがために何かにぶつかって尻餅をついた。その時女の子の短い悲鳴が聞こえた。


「いててえ....。おい気をつけろよ。」


「ご、ごめんなさい....」


まるで遠くから呼ばれるような小さな声でそう言った。


「全く.....今度は気をつけろよ....?」


「は、はい....」


かなり暗い女子だな。俺とは違い友達いなさそうだな。そう思っていたら彼女のものと思われる教科書に名前があった。


相葉 由香里か....同じクラスの女子にそんな奴いたな。俺とは無縁すぎて気にとめていなかったな。


なんて思っていたら彼女は百貨辞典を集めてこちらに差し出している。


「おお。サンキュー。」


「あの....お、お詫びにお手伝いしましょうか?」


「いや、いいって。1人で運ぶから」


「でも...10冊.....」


「.....じゃあ頼む。」


「は....はい....」


かすかに聞こえる声は聞き取るのにかなり集中するな。


全員帰ったのか2人以外の足音だけが壁に反響しながら不気味に廊下に鳴り響く。


「ここだな。」


図書室に入った途端、投げ込むように百貨辞典を机に置き、体を伸ばしている。


「手伝ってくれてありがとな。」


「い、いえ...」


由香里は窓の方を向いて今にも沈もうとしている橙色に燃える夕日を眺めていた。


「夕日綺麗だなー。」


「はい....」


相変わらず聞き取り難いほど小さい声だ。ふと無意識に彼女の方を向いたら燃える夕日の光が由香里を照らしていた。


その瞬間、胸の奥で何かが激しく打ち付けている。なんだこの気持ちは.....まるで心臓を締め付けるような感じだ....だが不思議と苦しくはない。


「す、すみません....足を止めさせて.....」


「ん....?ああ!別に構わない!」


俺はなぜこんなにテンパってるんだ。女の子となんて何百回、何千回も話したはずだ....!


「俺はそろそろ帰るわ。じゃあな!」


「は、はい....」


陽はこの高鳴る鼓動を感じ、家に帰っていた。


くそ....未だにあいつの顔が頭から離れねえ....。どうなっているんだ。


陽は晩御飯を食べた後、いつものようにグループ通話で寝るまで会話をしていた。


明日になればあいつの顔は忘れているだろう。


陽はゆっくりと目を閉じ、眠りについた。







安眠を妨げるような雑音が鳴り響く。それは次第に強くなっていく。目覚ましか。どうやら朝らしい。


陽はまるでナマケモノのようにゆっくりとボタンを押した。


眠い....夜中まで通話してたせいか.....。


陽は気だるそうにベッドから起き上がり、身支度をしている。


眠気が覚めた頃、陽は頭から由香里の顔が頭から離れていないことに気づいた。


「なぜだ.....。俺はあいつに恋をしているのか...?だが.....あんな暗い奴になぜ.....。」


そして学校に着いた時俺はすぐに大勢の友達と話していた。ふと席を見ると由香里は席に座って本を読んでいた。やっぱり同じクラスだったのか。


俺は無意識に彼女の方に目線を向けていた。


「ちょっとー?陽くん。大丈夫?」


クラスの女子の呼びかけに陽は我に帰った。


「え?ああ。大丈夫だ。」


「あの子って確か相葉 由香里だよね?あんな暗い子を見てどうしたの?」


「な、なんでもねえよ。たまたま視線の向こうにあいつがいただけだ。」


「ふーん....」


やばい.....まさか俺があいつを見ていたことがばれるとは.....一応誤魔化したがなんとかなっただろうか。


そしてあのうざったい山口先生のホームルームが始まる。

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俺は恋に落ちた....そして階級も落ちた 永咲 刃 @Zin0115

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