5ー18
「そう、気に病むこともないだろう」
男は落胆して食事に手をつけないでいるルニアを気遣った。
一昨日の出来事。
モルガナとエリザベスの攻防は、エリザベスがジルドレを殺し、デュラハンとして連れ帰ることで決着がついた。
我々が受けた依頼は叶えられることはなかった。
モルガナがジルドレに見せたのは、実は幻だった。本当のジャンヌの魂を召喚したわけではない。
ジャンヌの魂は、正確に言えば残留思念は、今もこの地に縛られている。
心残りだったジルドレへの想いが具現化し、ルニアに語りかけたのだ。
男には、魔術や不可思議な類のものは一切、感知できない。そちらの才能は恥ずかしながら全く受け継いでいなかった。
その才能に恵まれたのは、もう一人のルニア。男の妹であるツェペシュ・ルニアだ。
いつも器用に男が苦労してできたことを難なくこなしていった。
だが、唯一の拷問器具。
それだけは不器用ながらもいいものを作ると、父君は褒めてくれたものだ。
何もないと思っていた男にすれば、一筋の希望の光だった。
「ご主人様、私は叶えられませんでした。助けて上げることができませんでした」
ルニアは伏せたまま涙を堪えているのだろうか。悔しげにそう呟いた。
男は向かいに座るルニアの頭を無言で撫でる。慈しむように何度も何度も……。
男にされるがまま、ルニアはとうとう嗚咽の音を漏らし始める。
外は雨。
ルニアの心を写すように土砂降りの雨は夜通し降り続けたのだった。
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