第4話 揺りかごは男を裏切る

4-1

 私の名前は、ルニア。

 私に名前をくれた命の恩人。

 衣食住のお世話をして下さるばかりか、助手として付き従うのを許してくれた。

 私はまだ、ご主人様のことを何も知らない。


 以前の街で出会った、私と同じ名前。ご主人様と同じ容姿の女性。

 自分のことは、ルニア・ツェペシュ。そう名乗っていた。

 そして、ご主人様を、ブラド4世と呼んでいた。

 それがご主人様の本当の名前らしい。

 でも私にとって、ご主人様はご主人様である。


「ルニア」


 私は名前を呼ばれると、つい嬉しくて飛びつきたくなる衝動を堪えるのに必死だ。

 出来るだけ落ち着いた物腰で淑やかに努めようとする。

 だが、大好きなパフェを目にするとそのタガも意味をなさなくて。

 ご主人様を呆れさせたり、驚かせてしまう。

 恥ずかしいことだ。赤面ものだ。

 もっと、レディとして振る舞いたいと思っているのに。


 私はかつてある街で、街娼をしていた。

 と言っても、ちんちくりんな容姿で客はついた試しがなく、

 親方に折檻というお仕置きを強いられる日々だった。

 その時は、三日に一回はご飯が食べられた。だから私は幸せだ。

 そう、当時の私は本気で思っていた。

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