第172話双子を分かつ5

「そ、それでは最終結果を確認いたします…。

 子の今泉さま、高桑さまからは8000点、親の直人さまから16000点を差し引きまして、澄人さまに加点し、順位の方は……

 一位:今泉さま +70200(+40pt)

 二位:高桑さま +43600(+14pt)

 三位:澄人さま +31400(+1pt)

 四位:直人さま -25200(-55pt)になります。」


 店員の事務的な結果の報告を片手間に聞いていた俺は、澄人と直人の間に流れる殺伐とした空気を、嬉々とした表情で窺っていた。これから起こる出来事を何も理解していないコイツらの顔が、どの様に歪むのか、それを考えただけでも背骨が痺れそうだ。

 成瀬兄弟に賭けさせたカートリッジをどう清算するのか、ついにその説明をする時がきた。とは言っても、口で説明するより一回見せたほうが早い。それにここには一人、招かれざる邪魔者がいる。丁度いいからソイツを使ってデモンストレーションしてやるか。俺は懐から愛銃を取り出した。


「お前らに賭けさせたこのカートリッジはなぁ、一言で言うとハジキの弾だ。10pt一発の約束だったで、直人が食らうのは『五発』やな。まずはコイツがどんなもんの威力か教えたるわ。

 あんず、頼む」


「はいッ!分かりましたッ」


 マガジンの入っていない空の銃を一度ホールドオープンさせ、エジェクションポートからチャンバーにカートリッジを一発込めた。その間にあんずは、見張り役の自警団を取り押さえ、俺の近くまで運んでくれた。彼女に追加でしておいたお願いはコレだ。

自警団は酷く抵抗していたが、あんずの力に適うワケはなく、抗った事で彼女の怒りを買ってしまい、肩の関節を外されていた。うわぁ…。アレ何気に痛いんだよなぁ…。

 脱臼の痛みに思わず膝を突いた自警団の頭は、椅子に座ったままで撃つには丁度いい高さにきていた。この距離なら、バカだろうがチョンだろうが外す事はあり得ないが、俺はカスタムされたスライドに刻まれているホワイトドットを一直線に並べ、照準を合わせた。


「これから直人に払わせる『痛み』はこんぐれぇの地獄だッ!!よぉ見とけよ、直人ォォッッ!!!」


 …ッバァァッンン…ッ


 ほぼゼロ距離で射出されたブリットは、凄まじい銃声と共に自警団の額に到着し、響いた銃声が鳴り止むよりも速く、彼の後頭部を破裂させた。その後方にいた何人かの野次馬は、飛び散った脳や鮮血を浴びていたが、それと同時に直人に負わせた負債の正体を理解した様だ。


「おいおいッッ!!マジかよぉッ!!アイツ、ハジキ持ってやがるぞッッ!!」


「え?アレを5発??ってこたぁ、直人のヤツ確実に死ぬぞぉッッ!!」


「やったれぇぇッ!!かましたれぇぇッッ!!」


 いいねぇッ!こんなバイオレンスな状況になっても、ここにいるギャラリーたちは臆する事はなかった。一人くらいは、頭が爆ぜた自警団の姿に目を覆ってもおかしくないのに。コイツらも碌な人生送ってないんだろうなぁ。

 でもそれは、俺たちにとっては喜ばしい事だ。こっからはショータイムであり、ボーナスタイムだ。職校時代、金がなくて『罰ゲーム』しか賭ける物がないヤツをわざわざ相手にしていたのは、結局それが金になるからだ。俺たちの設ける罰ゲームは、死ぬ可能性が過半数を超えるものばかりだった。そして敗者が死ぬ様を見ようと、何人もの野次馬が俺たちに金を払い見学していた。その木戸銭だけで生活できたくらいだ。

 俺はこの勝負でもう結構稼いでいたので、ショータイムの見学料は全て高桑にくれてやる事にした。


「さぁッ、おバカのみなさんッ!殺人ショーの開演ですッ!ご覧になりたい方は、2万のカードをお支払くださいッ!そうでない方はお引き取りをお願いいたしますッッ!!」


 高桑がこの場をオーガナイズすると、雀荘にいた全てのミコトが彼に2万のカードを差し出していた。ざっと見積もって30人はいたから、それだけで60万もの稼ぎだ。ボロい商売だなぁ。

 カードを回収する高桑を横目に、俺は一つのマガジンにカートリッジを五発込めた。その間、死刑囚となってしまった直人をあんずが捕えてくれている。澄人はさっきの地和からずっと上の空で、現状を整理するだけのキャパシティーが脳にない様だった。


「クッソォッ!!ふざっけんなよォォッ!!麻雀で負けたくらいで、何で死ななきゃなんねぇんだッッ!!

 おいッッ!澄人ォッッ!助けろォォォッ!!俺を助けろォォォォオオッッ!!」


「おとなしくしてください。喉笛つぶしますよ?」


 さっきの自警団よりも激しい抵抗を見せる直人に痺れを切らしたのか、あんずは彼の首根っこを掴み床に押し付けた。完全に気道を塞がれ、声すら出せなくなった直人と、後頭部をグチャミソミンチにされた自警団を眼前に、澄人は正気を保つ事が困難になっていた。着々と銃の準備をする俺を、1000メートル望遠の目で見つめながら、小さく震えていたのだ。

 やっと分かったか?俺を敵に回した自分の愚かさが。


「ほんじゃー、チャッと始めよかッ。まずはどこがええ??膝?肝臓??」


 マガジンを装填した銃を片手にギャラリーに問いかけると、様々なリクエストが雀荘内を飛び交った。


「ドタマだぁッ!ドタマぶち抜けぇぇッ!!」


「いやッ、金玉だッ!金玉吹っ飛ばせぇぇッ!!」


「四肢全部引き千切ってダルマにしてやれぇぇッ!!」


 ダルマかぁ…。それいいなぁッ。両手両足の付け根にブチ込んで、足りない所はあんずに手伝ってもらえばいいや。それで四発だろ?あとの一発は…、そうだなぁ。澄人に撃たせてやるか。


「じゃあ、まずは足からだな。あんず、立たせたって。直人ぉ、左足いくぞ?気合入れぇよッッ!!」


 …ッバァァッンン…ッッ


「アアアアァァァァァアアアッァアアッッ!!!ウァッ…ッウアアアアアァァァッッ……ッ!!」


 あんずに髪の毛を引っ張り上げられ、強制的に直立させられた直人の左足付け根を打ち抜くと、マンドレイクに匹敵する絶叫を響かせた。彼の左足は45口径のホローポイントにガッツリとえぐられ、僅かな皮膚と筋肉で微妙に繋がっているだけだった。


「直人ぉッ、ヤッベぇだろぉ??肉が爆ぜる感覚はよォッ!まぁ、この足は使いもんにならんな。かわいそーだで千切ったりやぁ、あんずッ♡」


「はぁーいッ!」


 ブチブチブチィ…ッ


 あんずが直人の左足を引っ張ると、耳障りの悪い音を鳴らしながら胴体から切り離された。その音で、俺はひーとんとのタイマンを思い出した。あれは痛かった…。それと同じ痛みを、直人はまさに今体験している。

 直人が奏でる悲鳴は、オーケストラの演奏の様に、雀荘にいる殆どのミコトを高揚させていた。

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