第23話トランプ1

「この後ちょっと用事があるで、あんず付き合ってな。桃子もヒマなら見にこやぁ」


「はい、わかりました」


「何するのー??」


 既に桃子はカナビスのトリップに体が慣れた様子だった。桃子もあんずも、俺が見た思考の旅に陥らないのだろうか。そういえばあの時俺は一人だったな。誰かと一緒にいると気が紛れてドンギマりにはならないのかもな。

 そもそもカナビスはハードドラッグと違って自分が制御出来なくなる様な事にはならない。トリップしていても受け答えに支障はあまり出ないのだ。


「氏家っていうミコトが俺と遊びてーんだと」


「うじいえ…。あッ、まさきくんだねー。久しぶりだなー。今こっちに来てるんだー」


 どうやら桃子は氏家の事を知っているみたいだ。彼女の言い方からすると暫らくこの辺から離れていたのだろう。確か多々良場を作ったのは奴で、その多々良場を最後に利用したのは数年前だと美奈から聞いた。

 アイツは何しにここを離れていたのだろう。そして何しにここに戻って来たのだろう。


「何か俺の事よう知っとるみたいだったで気持ち悪くてしゃーないわ」


「たくやくんもー?私の事もちょー知ってたよー。すごいよねー、カレ」


 俺に限らず桃子の事も把握していたのか。本当何者なんだよアイツは。

 そんな得体の知れない奴と勝負すんのか…。ていうかアイツの行動原理が分かんねー。俺の助力になりたいとか言いながら賭け事を持ちかけるとか、何でそんな遠回りするんだ…?きっと何かあるんだ、そうしなきゃいけない理由が。

 そんで数あるギャンブルの中からわざわざ"あのゲーム"を選んだってのも、絶対偶然なんかじゃない。


「夜もいい感じに更けてきた事だし、そろそろ行こまい。氏家がコヨミで待っとるでよ」


「コヨミ…?あ、トランプタワーのことねー!じゃ、あんずちゃん手つないで行こー」


「はい!ももこさま」


 何かすげー仲良くなってる。俺だってまだ手繋いだ事ないのに…ッ!気を付けねーとマジであんず取られちゃうんじゃねーか?女子の桃子に対し何故かヤキモチを妬いてしまっていた。バカだなぁ、俺は。


「そーだ、あんず。これ持っといてくれん?」


「なんですか…?これ」


「いーからいーから」


 コヨミまで向かう道中、その辺に落ちていたこぶし大の石をあんずに持たせた。一応俺なりの考えがあっての事だ。

 あんずが不思議そうに石を眺めている内にコヨミに到着した。


「やぁ、今泉くん。待ってたよ」


 こいつと会うのは今日だけで3回目だ。そう考えると奴の鬱陶しさが大幅に増した。

 コヨミの脇には正方形のテーブルが置かれており、4脚の椅子がその周りを囲んでいた。さらにその周りを幾つかの灯篭様な物が囲み、辺りを照らしていた。

 誰が呼んだのか、どこから嗅ぎつけたのか、何人ものギャラリーがゲームの始まりを心待ちにしている様子だった。


「それじゃあ始める前に説明と行こうか。さっき言った通り、今から『鬼大富豪』をやるんだけど、俺と今泉くんだけじゃ面子が足らないから彼らに卓に入ってもらうよ」


 氏家が紹介したのは、別の被行者である男2名だった。それぞれ『武石』と『和田』というらしい。

 俺から時計回り順に武石、氏家、和田という席順で卓に座った。


「基本のルールは普通の大富豪と変わらないんだけど、大きな特徴としては元からデックに入っているジョーカーの他に別のデックから持ってきたジョーカー6枚を含めた計8枚のジョーカーが存在するよ。この追加したジョーカーは裏面も異なるから誰が何枚持っているか分かる様になっているんだ。細かいルールについては、8切り有り、Jバック無し、スペ3無し、階段は柄揃えの3枚から、特殊上がりは無し。ここまではどう?質問とかある?」


「いや、ねーよ」


 やっぱりな、思った通りだ。


「ゲームは全部で10回行い、その都度のカードの交換は無し。4位で終わっても次のゲームは配られたままの手札で続ける事が出来るよ。

 そしてここからが重要なんだけど、二人が上がった時点でそのゲームは終了。上がれなかった二人は残った手札の枚数分の掛金を支払う。1位には4位が、2位には3位がそれぞれ払うんだよ。ちなみに掛金は1枚に付き貝10。例えばゲーム終了時手元にカードが5枚残ってたら貝50を支払う。

 この1枚に付き貝10ってのはあくまで基準となるレートであって、ゲーム中に起こった革命でレートは変化するよ。普通の革命の場合掛金が倍に、ジョーカーのみの革命の場合掛金は10倍、最後革命で上がった場合掛金は50倍、この時はジョーカーが混ざっていても問題は無いよ。そして、最後ジョーカーのみで上がった場合掛金は100倍に…。あ、あと手元にジョーカーを残したまま上がれなかった場合はさらにそこからジョーカーの枚数分掛金が倍になるから気を付けてね」


「良く出来たルールだがや」


「でしょ?それでゲームの進行なんだけど、最初のゲームは俺がディーラーをやるよ。スタートはダイヤの3を持ってる人から。2ゲーム以降は直前に4位だった人がディーラーをやり、その人からスタートだよ。

 それじゃあ、始めようか…」


 全ての説明が終わり、いよいよ『鬼大富豪』の火蓋が切って落とされた。

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