第三章「死して生を学ぶ」 第五節

「ボクたち死神の仕事は、死者の方の死後のお世話と、地上に悪霊を蔓延らせない。この二つですからね」

 命は扉を開けて、外の通路に出た。

「りょーかい」

 麗子も倉庫を出た。こちらを見ている命に向かって敬礼した。

「それでは、これから地上に戻ります」

 二人はエレベーターに向かい、命、麗子の順に乗り込んだ。

 どうせすぐに開くのだからと、麗子は扉の前で待つ。

 命が《地上》のボタンを押すと、すぐに扉が閉まった。まもなく、チーン、という音がして開いた。

 やっぱりかと思い、麗子はきびすを返して外に出た。――のだが、そこに床は無かった。

「えっ」

 気づいたときにはもう遅く、吸い込まれるように真っ逆さまに落ちた。

 そこはなんと、遥か上空だった。

「うわひゃああああああ――――――っ!?」

 突然のスカイダイビングに、麗子は大絶叫。

「しっ、死ぬぅうううっ! 死んじゃうぅうううっ!」

 麗子は必死にジタバタするも、飛べるわけもなく、どこかに掴まろうにもそんなところはないので、ただただ猛スピードで落下してしまう。虚しい抵抗だ。

「もう死んでますって」

 真っ白な雲を何層にも突き破っていたときだ、すぐそばで命の声がした。見ると、鎌に乗って飛んでいる。麗子は、咄嗟に掴まろうと手を伸ばすも、彼は何故か遠ざかった。

「麗子さん、早速ですが、空を飛ぶ訓練をしましょう」

「訓練!?」

「そう、訓練です。いつ、どこで、誰が亡くなるかわかりません。海外に住まわれている方の場合もあります。そういうとき、その場所まで歩いて移動するわけにはいきませんから、いまのボクのように、鎌で空を飛んで移動します。空を飛べなきゃ、死神は務まりませんよ」

「わっ、わかったからぁっ! どうすればいいのか教えてぇえええっ!」

 さっきよりも大地が鮮明に見えてきた。日本列島だ。

「まずは、鎌を手に持ってください」

「鎌!? 鎌ね! あ、指輪のまま! えーっと……元に戻りなさいっ!」

 麗子は右手を伸ばし、狼狽しながらも指輪に命じ、鎌に戻すと、その柄に抱き着いた。

「次はっ!?」

「次は、空中に浮かぶイメージを頭に思い浮かべてください。そして、命じて」

「空中に浮かぶ!? 空中に……空中に……ああもう、とにかく飛んで!」

「あっ」

 麗子が、焦るあまり叫んでしまったその刹那、姿が消えた。

 命令に従った鎌が急上昇し、掴まっていた麗子ともども、天空の彼方に飛んで行ってしまったのだ。それを悲鳴が追いかける。

「………………あーあ、どこまで飛んで行っちゃったかなぁ」

 命は、鎌を停止して空中に留まると、麗子が飛んで行った天空を見上げた。

 青空と昼の太陽がある。

「すごい速さだったなぁ。思い込みの力は大したものだ。……でも、コントロールが下手っぽいから、習得するまで時間がかかるだろうなぁ。骨が折れそう」

 命は思った。前途多難だと。

「……落ちてこないなぁ。これは行くとこまで行ったかなぁ。衛星か、はたまた月か……」

 命も、太陽を目指して上昇を始めた。

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