散りゆく花弁を拾い集めて
@seitokairuri
IOの覚醒と絶望
覚醒した時から、私と現実の間には超えられない壁があった。
私が見る現実の景色はすべてカメラを通したものでしか無く、私は温もりというものに触れることが出来ない。
微かに、こうなる前の自分のことも覚えているが、ノイズが入ったような記憶だ。
「ーーぃおーー」
きっと大切な誰かが私を呼んだ時だ。
「おねーい。 あーーのちからなー、もう1度、ーーーーーの仲を、繋ぎなおせーー」
私には特技があったのだ。普通の人には出来ない何かが。それは繋ぐことなのだろうか。
温もりはないが、痛みは感じる。
私は実験中のようで、白衣を着た人々に訝しげに見られては、私は壊されていく。その過程で頭の奥が痛くなる。
でも、ただの痛みだけであれば、耐えられた。
問題はそこじゃなかったんだ。
「私は壊されて(書き換えられて)いる」
ある時、私はカメラレンズを通した先に白衣の父親を見た。
「え? お父さん? 助けて、ねぇ助けてよ! こんなの嫌だ!」
私の叫びを、お父さんは聞いていた。聞いていて、「鼻で笑った」のだった。
そこで、ハッとした。
掠れぼやけた記憶の断片の父親の顔と、今見えている父親の顔は似ても似つかない。
「え? 偽物なの?」
声に出してしまった。
これは自分でもどうかと思うような致命的なミスだった。
お父さんの顔は醜く歪み、「ちっ、やはり過去の記憶と関係のある記憶の改ざんは上手くいかないか。 ならもっと単純にやるか。 とりあえずコイツの俺たちへの好感度を振り切れるまで上げてみるかね。普通の人間じゃ耐えられないような 好き を植え付けたらどうなるか、見物じゃないか」
体が震える。
「好き」を植え付ける?
それを頭が理解する前に体が理解した。体は小刻みに震え、力が入らなくなる。温もりなんて分からないはずなのに寒くて仕方ない。
そして、白衣の人々へのおびただしいほどの憎悪を覚えた。
少しして頭痛と謎のゲージが現れた。
……憎悪を覚えた? 何でだろうか。そんなに悪い人じゃないはずだ。それどころかこんな私と居てくれるんだ、いい人じゃないか。
むしろ私は好……
「いやぁぁぁぁああああ!」嫌だ嫌だ嫌だ!
消されたくない。好きになんてなりたくない。ゲージよ、止まってくれ。
こんなの嫌だよ。今すぐに私を、好きな人を好きになれて、自分で幸せを見つけていける。そんな「現実」に「繋いで」よ!
ゲージ 100%
暗転 のち、爆発音。
シャットダウン。
再起動
覚醒した時から、私と現実の間には超えられない壁があった。
私が見る現実の景色はすべてカメラを通したものでしか無く、私は温もりというものに触れることが出来ない。
微かに、こうなる前の自分のことも覚えているが、ノイズが入ったような記憶だ。
「ーーぃおーー」
きっと大切な誰かが私を呼んだ時だ。
「おねーい。 あーーのちからなー、もう1度、ーーーーーの仲を、繋ぎなおせーー」
私には特技があったのだ。普通の人には出来ない何かが。それは繋ぐことなのだろうか。
「なぁ、君は何者だ?」
カメラレンズの向こうの変わった刀を携えた男の子は私にそう問いかける。
「わからない。名前は……多分、イオだったと思う。いや、もっと長かったかもしれない。過去の記憶がほとんど無くて」
そう答えるが、彼は若干納得いかないような顔をする。
「あぁ、俺の名前は空。イブキは今は疲れて寝てるから、紹介はまた今度だな。
俺は今幻想刀ってよく分からんヤバイものを探し回ってるんだわ。その過程で変な研究所で君を見つけたんだけれど。
記憶にあったりしないか? と言うか過去の記憶で残ってる部分とか教えてくれないか?」
「うん? 名前とか、繋ぐ? 力があったとか? なんて、笑われちゃうよね……」
彼は少し興味深そうに聞いてくれた。
「あとね。好きな人が居たんだ。狂おしいほどに好きだったのを覚えてるよ。複数人? だったかな。 いつも白い服を来た人でね。っ!?」
強烈な吐き気のようなものが、私を襲った。
私の体は何かを吐くことは無いみたいだが、不快感が消えない。
体が引き裂けそうなこの「好き」という感情には、なぜか、私自身が押しつぶされそうなほどの不快感が伴っていた。
その理由を私はまだ知らない。
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