異住人

ツヨシ

第1話

廃墟マニアという人種がいる。


この俺がそうだ。


よく「あんなの一体どこがおもしろいんだ」と聞かれるが、おもしろいのだから仕方がない。


心霊スポットマニアと勘違いする人がいるが、廃墟は廃墟であり、心霊スポットとは全く別のものだ。


たまに重複することがあるのは認めるが。


そんなわけで、今日も休日を利用して、最近見つけた廃墟にやって来た。


昔は小さな旅館だったところで、まさに廃墟を絵に描いたような廃墟だ。


――人が住まなくなって、三十年……いや、四十年といったところか。


普通の人にとってはどうでもいいことをあれこれと考えるのが、また楽しい。


玄関の戸は、なくなっていた。


そのまま中に入る。


「おじゃまします」


俺は言った。廃墟に入るときはいつも言っている。


その建物に対しての礼儀なのだ。


もちろん返事はないはずなのだが、この時は違った。


「はい、いらっしゃい」


――えっ?


見れば奥から、背が高くてやけに筋肉質な男がやって来た。


「……」


俺がなにも言えずにいると、男が言った。


「なんの用?」


俺はとっさに「廃墟マニアで、廃墟の見学にやって来ました」と言おうとしたが、言えなかった。


人が住んでいるのなら、それは廃墟とは言えない。


と思いつつも、俺は自分の考えに疑問を持った。


――住んでいる? ここに住んでいるのか、この男は。確か「いらっしゃい」とか言ってはいたが。

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