ところで貴方は誰ですか

ところで貴方は誰ですか 1




***



「あ?」



何もない場所に向かってすごみを効かせる萌を、恵一は冷やひやした心持ちで見守っていた。

遠くの方で花屋から心配そうな顔をのぞかせて、ヨリちゃんがこちらを見ている。

そして何より通行人がこちらを見ている……。



「で、何駅なにえきなんだよ?」



「萌、もうちょっと声を落として」



人通りの多い改札口からわずかに離れてはみたものの、人目が全くないというわけではない。

萌は恵一の方をちらっと見ると、ボトムスのポケットから携帯を取り出し、耳に当てた。

確かに、これなら一人でなにやらつぶやいていても不自然ではない。



「だから、あんたの家に連れてけって言ってんの……。遠いからじゃねえ。案内しろよ。ここじゃ、ろくに会話できないだろうが。あ? ……『どうして僕の家なんだ』じゃねえよ。なんで、お前みたいなストーカーをこっちの生活圏に案内しなきゃなんねえんだよ。駅どこだよ?連れてけ。……新宿?てめえ」



「ちょ、ちょっと萌。お前、どこのやからだよ。ガラが悪すぎるぞ。それよりも、この人の手のひらの傷ってどんな形?」



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