公園 4

翌週、木曜の夜。

自宅から徒歩数分の公園入り口で、石橋は下を向いたまま立ち止まった。


俺の居るベンチからは石橋の姿がよく見える。

彼の足元で鳥が死んでいた。



街灯に照らされて浮かび上がる死骸。

車に轢かれたのか、お尻の方が煎餅せんべいみたいにペシャンコだった。

茶色いような、赤黒いような色合いだった。



かわいそうに。

きっと、痛かったろう。

でも、それだけだ。


3歩過ぎれば忘れてしまう、実にちっぽけな死。

どうにかしてやるには理由が足りない。

だから血が止まってカラカラになるまで、放って置かれている。

放って置いた人間には、もちろん俺も含まれていた。


鳥の死体はきっと、雑菌だらけ。



石橋は両手でそっと、小さな死体をすくい上げた。

道路から剥がしたと言った方が正しい。

横顔は特に悲しそうには見えなかった。

嘘くさくなくて良い顔だ。

あんまり悲壮な顔をしてたんじゃあ、何だか偽善者チックじゃないか。


少なくとも俺には、石橋が優しい自分・・・・・に酔って居るようには見えなかった。


今このとき、石橋を見つめているのは俺だけで、

俺以外に彼の側にいる人間は居なくて、石橋はと言うと俺の存在には気づいていない。


ならばあの表情も、あの行動も、誰かに対するパフォーマンスなどでは無いのだ。

小さな死も悼むのが、石橋なのだ。

あれが彼の素なのだ。



小鳥を包んだ両手をひたいに寄せて、石橋はそっと目を閉じた。











金曜日の朝、俺は思った。

目が覚めて一番に浮かぶ人……。


「やべぇな。恋かなこりゃ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る