公園 5



*****



「……居た」


「マジかよ」


部活終わりに、

萌、京平、リョウマの三人は、例の公園をおとずれていた。

恵一が枯葉に追いかけられたと言っていた、あの公園だ。



「どこどこ? 何処にいんの?」


「あの地面が乾いてるとこ。ちょうど湿ってるところとの境目」


放課後のバスケ練習をしているに、雨が降って止んだらしい。

辺りは枯葉が濡れて薫る、あのしっとりと甘い香りに満ちている。


大分だいぶ、日が落ちて来ていた。


木陰になって濡れずに済んだ部分の乾いた土の白が、薄闇に浮いて見える。

萌が指を指した箇所を見て、リョウマが京平の腕を取って後ろに下がった。


「お前、くっ付くなようっとおしい。探しに来てんだから、居て当たり前だろバカ」


「じゃあ、京平は怖くないのかよ」


「怖いに決まってんだろうがバカが」


「同じなのに馬鹿にすんなよ」


「しっ。何か言ってる」


萌は一歩を踏み出した。

途端に血相を変えたリョウマが萌の腕を引く。


「リョウマ、大丈夫だから離せ」


「なんでわかるんだよ」


「見た目が」


「見た目? 駄目だよ、見た目なんか信じちゃ! 人間中身が大事!!」


「そんなヤバい奴じゃない。見た目は……脚しかないけど、敵意は感じないし、言ってることも筋が通ってる」


「脚しかないのに、喋んのっ!?」


「ちゃんと人間だよ。みんな、人間だったみたいだ」


「みんな?」


「何人か居るんだ」


萌が見たそれは黒い水たまりの様だった。

ただ、普通の水たまりと違うのは、それが生き物のように動いているということだ。

波打ち、隆起しては形を変え、またぐ。


その度に「スーツを着て革靴を履く男の膝下ひざした」になったり、「裸足の子供の片足」になったり、「折れたハイヒールを履く女の足」だったりが次々と現れる。




ー人間の魂は水みたいなもの




そう言った、透けるように白い外国人のことを、萌は思い出した。


死んで肉体と言う器を失った魂は、水が干上がるように蒸発して消える。


ただ、ごくたまに例外も居るのだ。

外気にいくらさらされても消えることのない水。

そんな不自然な存在も。


「確かに人間の幽霊だ。……でも、何だろう。みんな中途半端なんだ」


恵一が言っていた。

『幽霊って言うのは、給食の時間に落として割った牛乳瓶の中身だけ、

散らばらずに元の形のまま立ってるようなもんなんだな』


今、目の前に居るのは

もとの形を忘れかけた液体なかみの寄せ集めのように、萌には感じられた。



彼らが言っている。


【お兄さん。君。おにいちゃん】


【昨日の、きのおの、きのうの、夜に会った美形の、おじちゃんの、お兄さんの、後ろに居た】


後ろに居た・・・・・? 」


【うしろにいた、あの人……













危ないよ……】











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