教室に行ったらレッドカーペットが敷かれてた件。
ハチャハチャSFが書きたかったんだよー。
教室に行ったらレッドカーペットが敷かれてた件。
僕は
蜂谷家というのは日本で初めて養蜂を始めたという由緒正しい家系で──ってのは嘘だけど。オヤジはただの公務員だし、平凡な家庭である。
僕の紹介はそれくらいでいいだろう。それよりも問題は。
朝登校してきたら教室に机と椅子が一つもなくなっていて、その代わりに黒板から一直線に、レッドカーペットが敷かれていたのだ。
なんだこりゃ?
僕より先に来ていた同級生のアツシがいた。
「なんの冗談なんだ、これは?」
「俺にもさっぱりわからんよ。あんなに大量の物体を──はっつん、グラウンドを見ろ」
ちなみに<はっつん>とは僕のあだ名である。言わずもがなだと思うけど、一応。
「マジか……」
僕は絶句した。
なんと、校庭のど真ん中に一クラス分の机と椅子が雑然と積み上げられていた。
なるで現代アートみたいに。
「一晩でこれだけのことを誰にもバレずにやるって、人間業じゃないぞ」
「悪戯だとしても意味が分からんしな」
女子たちが集まってなんか騒ぎ出している。
何だと思って教室内に目を戻すと、黒板の一部が四角く穴が開き、奇妙なものが出現するところだった。
奇妙なもの──としか言いようがない。
透明な岩でできたマネキン人形、というか──モアイを無理やり人間体型に押し込めたような、もの。
ゴツゴツした透明な岩人間、というのが近いかも。
「やあ、お騒がせして申し訳ない」
そいつが日本語でしゃべったので、僕はさらに驚いた。
「私はいわゆる、宇宙人だ。クリスタル・ロックという。汎銀河映画芸術科学アカデミーのプロデューサーで、ちなみに滝川クリステルは遠縁にあたる」
僕たちはどよめいた。まさか宇宙人とのハーフだったとは!? これはお・も・て・な・しせざるを得まい。
「ええ?! ほんとうですか?」
「嘘だ」
宇宙人はガラガラと笑った。
どういう性格をしているんだ、宇宙人というやつは!
「で、田舎の公立高校に宇宙人が何の用ですか」
「いや、授賞式の控室用に押さえておいた惑星が戦争に巻き込まれてしまって消滅してしまったものでね、次元的に近いこの場所を借りようと思って」
「誰の許可取ったんですか」
「だって君、この星には統一政府すらないじゃないか」
「それは……申し訳ないとは思います。しかし進んだ文明でも戦争はなくならないんですか」
僕は素朴な疑問をぶつけた。
「なくならないね。酒は何が一番おいしいかという論争が清酒派とチューハイ派の対立にまで発展した「
「宇宙人って、馬鹿なの?」
「多様性に富んでいるといいたまえ。そういうわけで私も頭を抱えることになったわけだが、こう気苦労が続くと円形脱毛症になってしまう」
突然黒づくめのスーツの男が現れて、バットでクリスタル・ロックの頭をぶん殴った。
「てめえに髪はないだろ!」
と言い残して男はすぐに姿を消した。
「なんだなんだ」
クリスタル・ロックの首は一回転して元に戻り、何事もなかったかのようにしゃべりだした。
「ああ、気にしないでくれ。彼は<エージェントJ>。なんか髪のジョークを言うとどこからともなく現れてぶん殴っていくんだ。都市伝説みたいなもんだな」
メン・イン・ブラック? まあ、気にしないでおこう。
「で、汎銀河アカデミー賞授賞式が行われるわけですね? 教室は貸しますから、僕たちも見学して構いませんか?」
「おいはっつん、大丈夫か」
「なに、社会見学だよ。こんな機会ないだろ」
「あったら困るけどな」
「まさか、ただで見ようというんじゃないだろうね?」
と、クリスタル・ロックは腕組みした。
「しかし
僕は応酬する。
「いいところを突くじゃないか。じゃあこうしよう、この一幕を動画に撮って広告に使おう。君には一つゲームをやってもらう」
「ゲーム?」
「単純な二択だよ。二つのボタンがあって、一つは正解、もう一つは水をかぶるというやつだ」
「もしかして、バラエティ出身のプロデューサーですか?」
「──なぜわかった。まさか君は敵放送ネットワークのスパイ──」
「んなわけないでしょ」
「まあそうだな」
「用意できましたー」
と、爬虫類に似た、しかし両目が上にびょーんと伸びているアシスタントが箱を持ってきた。
シンプルな箱に、二つの像がついている。
一つは地球のアカデミー賞にも授与される、あの像にそっくりな形をしていた。
あの像って、宇宙人を模したものだったのか。
もう一つはめちゃくちゃマッチョな体型で、ボディビルダーのようなポージングをしている。
今にも「キレてるよ!」とかの声が聞こえそうだ。
両方の頭部に、ボタンがついている。
「さあ、撮影開始!!」
「授賞式の鑑賞券を賭けて、いよいよ選択の時! 現地人を代表してハチノスケが挑みます!!」
どっちが正解だ……?!
僕はこんなもん悩んでも仕方がないと思い、勘に任せて一方を選んだ。
まさに押そうとした時、あのADがあわてて飛び込んできた。
「なんだ、どうした。今回ってんだぞ」
不機嫌にクリスタル・ロックが言う。
「それどころじゃないんです、そのスイッチ、間違えて一方を反陽子爆弾に接続しちゃったんです」
「なに? 惑星を丸ごと破壊できるあのやつか」
「は、はい!」
「君、中止だ、中止──!!」
だが、もう遅い。
僕はボタンを押してしまっていた。
『起動しました。あと十分で爆発します』
「な、なんだって──!!!」
「止めてくださいよ、クリスタル・ロックさん!」
「その爆弾は起動したら止められないのだ。では、我々はこれで失礼するとしよう。今まで話はなかったことに」
「逃がすかボケェ!!」
アツシがクリスタル・ロックを羽交い絞めにした。
ADも他のクラスメイトに捕まっている。
『あと五分』
情けない顔をしたクリスタル・ロックが、僕を見て、ぽつりと言った。
「わざわざオスカーを、押すかあ?」
さあどうする地球の危機!!
どっとはらい!!
終
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