追悼小説

@Nightray91

第1話光雪 綺雅

私、新見 閑(にいみ しずか)は悪友を訪ねて、紅葉に包まれ始めた山入の所々舗装が剥がれた道路を歩いている。

道の脇には用水路があり、小さな子供達が草船を流して遊んでいた。


「全くいつの時代よここは・・・」


季節に関わらず、額に汗を浮かばせながら早足で歩を進めていく。

敷地だけが広い半分山のような家が立ち並ぶ中で異彩を放つ豪勢な塀で囲まれた屋敷へたどり着く。


「前来た時はこんな塀無かったけど、何かあったのかしら」


一度来たことがあるにも関わらず、初めて来たような感覚を覚えながらも、ドアフォンを鳴らす。


ピンポーン・・・・


「はいはーい。今開けますよ~」


そう言って出てきた長身の女性は、忌々しくも優れた探偵である浅野 真由美(あさの まゆみ)だ。大学からの付き合いで光雪 綺雅(みつゆき きなり)と3人で良く飲みに行ったものだ。


「シズカちゃ~ん久しぶり!とりあえず上がって上がって~」


「久しぶりね。貴方はいつも通りみたいで・・・まぁ安心したわ。」


彼女に鍵を開けてもらい、門をくぐった。

控えめに言っても、広い庭には芝生が生えていて脇には物置のような小屋がある。

私たちは、まばらに敷かれた石畳を通って母屋へ向う。


「綺雅の件、調査は進んでる?」


一時も無駄にできない。そんな思いから私は、要件を切り出していた。

私と真由美は少し前から失踪している綺雅の捜索について、情報交換をするために彼女の許を訪ねていた。


「ええ。大体調べられる事については分かったわよ~。

 でも歩きながらする話でもないし。」


母屋に上がって廊下の一番奥にある部屋に通される。

大きな屋敷なのに、誇り一つ無い廊下はリフォーム直後を思わせて居心地が悪かった。


「じゃぁ本題・・・。」


「お茶とお茶菓子持ってくるから待っててね~。」


そう言って出ていこうとする真由美の腕を咄嗟に掴んで睨みつける。

彼女はおっとっとと私に向き直り、大きく目を見開いて不思議そうに顔を覗き込んでいる。不意に掴んでいた手に力がこもってしまう。


「お茶は良いわ。そんな事より、情報交換をしましょ、終わればすぐ帰るわ。」


なんで、なんで真由美は平然で居られるんだ。私なんかよりよっぽど仲が良かっただろうに、何故必死になれない?何故焦ってないの?そこまで思うような仲じゃなかった?3人で一緒に居た時はそれなりに楽しいと思ってたのに。


「なんで・・・綺雅が居なくなったのよ?もっと真面目にやりなさいよ。」


「真面目にやってるよ?大丈夫?落ち着いて?」


「落ち着いていられるもんですか。もう良いわ!私一人で探すわ。お邪魔したわね。」


強引に話を切って私は、掴んでいた手を乱暴に放ると踵を返した。

と思ったが、そのままその場に倒れてしまう。

仰向けに倒れた私の上には、真由美が馬乗りになって両肩を掴んでいる。


「落ち着きなさいって言ったんです。」


目の前には先ほどまでの真由美はおらず、真剣な面持ちで私を睨みつけている。


「す、すごんだって駄目よ。私は一人でも探すわ。貴方と違って綺雅は私の親友だったの!」


涙が出そうになるのを必死に堪えながら言葉を紡ぐ。


「私だって親友だと思っているわ。もちろん貴方の事も、」


「だったらなん・・・・!」


私の声は最後まで話すことが出来なかった。


「キナちゃんがどうなったか私は調べられているの。もし貴方も調べに行くことで、同じような目にあって欲しくない。あの子だけじゃなくて他にも被害者が出ているのよ。」


確かにそうだ。一緒に田舎に行ったと言うアメリカ人の様子からして行った先で何かあったのは間違いない。しかも、光雪の他にも3人も失踪しているのだ。

1人帰ってきたアメリカ人も何も話してはくれなかった。


「私ね。キナちゃんはなんだか帰って来ない気がしているの。私達がどれだけ調べても見つからない、そんな気がするの。調べられることは調べたわ。危険な事に首を突っ込んだこともね。きっと帰ってくるならひょっこり帰ってくるし、もう止めましょう?これで貴方まで居なくなったら・・・」


真由美はそう言うとそのまま私に覆いかぶさるように抱き着いてきた。

顔は見えないが、横からは小さな嗚咽が聞こえてくる。


嗚呼、しまった。そうだった。この子は頭もキレるし、体力もあってなんでもできてしまうけど、親友を失って平気で居られるような子じゃなかった。

それでも私が焦って突っ走らないように平気なフリをしてくれていたんだ。


「ごめんね。」


自然と出てきたその言葉と共に私の目からは滴が零れ落ちていた。


「無茶はしないから、綺雅が帰ってくるのを一緒に待っててあげるから」


私達は抱き合ったまま親友の失踪に涙し、慰めあったのである。

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