OL、恋、大人
南無山 慶
第1話
どうして今時うちの会社は飲み会に全員参加なんだろう。
今日お休みの子も、飲み会だけのためにやってきている。
彼氏とデートなのに、この時間に集合なんて、サイアク。
費用は会社持ちだけど、そんなの当たり前。
社長が来るからとかナントカ言ってたけどそんなの関係ない。
帰りたい。
仕事以外の時間で上司とかに会いたくない。疲れる
マジムカつく。そんな気分。
お店が終わってからの集合なので9時スタート。
いつもの居酒屋ではなくて今回はイタリアンレストランだって。
よかった。お酒飲まない子の方が多いんだから、料理が美味しい方がいいよね。
会社の人もバカじゃないってことなのかな。
静かな雰囲気だし。大声で話さないと話もできない居酒屋より、全然イイ。
コース料理かな。
駐車場に見慣れた車を何台も見つけた。私が車を停めるとちょうどみんな車から降りてきた。
おつかれさまー。やる気のない声が聞こえる。
私服になると一気にギャルに戻るね、ヤングはね。
アラサーはジャージで参加したい気分だよ。
いつの間にかパートの中で一番年上になった私は、若い子たちを引き連れてレストランの古い木の扉をくぐる。
広い店内、お客さんはまばら。無理もない、平日の夜だ。
今日の幹事の名前を告げて、パーテーションで仕切られた部屋に案内される。
よかったまだ誰も来ていない。
わあー。すごーい。
きれいー。かわいいー
私の背中から黄色い声が聞こえる。確かに明るく朗らかにデザインされたインテリアは、女の子たちを喜ばせるには十分だった。
私は喚声を上げるより先に、予算の心配をしてしまう。こんなところでやったらいくらかかるんだろう。うちの会社の予算で足りないんじゃないの?
「須藤さん見て下さいよー」
19歳になったばかりの新人スタッフが恐れも知らずに話しかけてきた。見ると小さなプレートを持っている。
「M.AKIYAMA」
なんとネームプレートまで。座席が決まっているとは。驚いた。これでは飲み会ではなくてパーティだ。ディナーだ。
私は今日の幹事、いわゆる店長の顔を思い浮かべた。
冴えない顔で朝から晩まで店頭に立っているあの男が、こんな気の利いたことをやったのだろうか。36歳の、男が。
女の子たちはテーブルの下の荷物カゴにバッグを放り込み、自分のプレートの置かれた席へとさっさと腰を下ろした。
私もとっと座って雑談でもすればよいのだけれど、ついお偉いさんを迎えなければ、と考えてしまう。
「ああ、おつかれさまです」
入り口から男が一人入ってきた。
今日の幹事であり、店長である36歳既婚、息子2人、村山さんだ。
「おつかれさまです店長」
反射的に答えてしまう。営業スマイル満点で。
おつかれさまです、店長すごいですね、これ、どうしたんですか、これ、超やばくないですか、チョー、チョー、チョー、
女の子たちは立ち上がりもせず店長にこのお店の評価を、大多数が良い評価を告げた。
店長がホッとした顔をしたのに気付いたのはきっと私だけだろう。そうかやっぱりこれみんな店長が企画したんだ。へえ。。。
「もうすぐ皆さんお見えだから」
店長、村山さんはおっとりとしたリズムで言った。疲れた顔だ。そう言えば今日もそっちのお店はクレームがあったと聞いた。
「ほら、みんな起立起立、玄関までお出迎えするよ」
私が号令をかける。店長はもう一つほっとした顔を見せて、微笑んだ。
まあ、これくらいは協力しますよ。
立ち上がりながら席を確認した。社長とマネージャーだけじゃなくて、本部長も来るのか、と思った。
やれやれ、めんどくさくなりそうだ、とため息をついた。
「3人ご一緒でお見えだから」
私のため息に呼応するように店長が囁いた。
私は返事をする代わりにため息をもうひとつついて、営業用のスマイルを貼り付けた。
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