09.夜の会合
「ほらマリー、涙拭くよ。顔を向けて」
フレアが優しく持っていたハンカチで、私の目元を拭う。
私はゆっくりと目を見開くと、この世界は真っ白い下地に文字が敷き詰められた世界しか見えない。
私の撃ち放った超大型遠距離魔法は、魔王の場所へと飛んでいった。
間違いなく魔法は着弾する。
止めるすべが設定上存在しないのは確かだ。
これでこの話は進行不能となり強制終了する。
「これで、俺達の戦いは終わりだ」
「はい……これはこれで私達にとっては良かったのかもしれません。もう苦しむこともありませんし」
どこか納得したように落ち着いたリュウジとメルディア。そこにフレアが介入していく。
「もう二人とも! そんな浮かない顔してちゃダメだよ! 魔王を倒せた訳だしもっと喜ぼうよ! そ、それとさ……」
フレアは頬を赤らめながら、リュウジに近寄る。
「あ、あ、あのねリュウジ君!」
「ん?」
「そ、その……もう終わりだから言っちゃうけど! 私! もしかしたらリュウジ君に、ひ、一目惚れしたのかもしれない!」
「え、ええ!?」
突然向こうの方で、色恋が始まりだした。
言ったフレアも、言われたリュウジも顔を赤くし二人はオドオドしている。
「な、なんで……フレアは、俺なんかを好きに?」
「え、えっと……ゴブリンから助けてくれた時……私は昔は強かったから、ピンチになったことがなくって。あんな風に助けて貰うのに憧れてたんだ! そ、その、リュウジ君が王子様に見えたからさ……」
え……ちょっと待って?
それだけで惚れたの?
これもフレアの設定と役割のせいなの?
さすがにガバガバチョロ過ぎでしょ?
「フレア……その……」
「う、うん……」
「読者意識で、自分の本音は考えないようにされてたんだと思う。でも、今なら言える。俺も君のこと、初めて会った時に可愛いって思ったんだ」
「ほ、本当!?」
「ああ! もう終わりだけど俺と付き合って欲しい!」
「か、彼女になって良いの!」
「そうだ! 愛してるぞ!」
「私も愛してる!」
「俺の嫁になってくれ!」
「結婚してくれるの!?」
「子供も沢山作るぞ!」
「うん!」
……なにこれ
私が困惑していると、メルディアがニコニコと微笑んでいる。
「あら~良かったわね、最後に主人公とヒロインが結ばれて。フレアのお陰でこの物語もハッピーエンドで終わったわ」
今の主人公は、私であることを皆忘れているみたいだ。空気を読んで言わないことにしよう。
これで、この物語は終わった。
終わるはずがなく……作者都合で止まるはずだったこの世界を無理矢理終わらせた。
私達の意思で、終わらせることが出来たんだ。
「エンディングの先が、あるといいな……マリー」
リュウジは、遠い空を見つめながら呟いた。それにつられて、皆は空を見た。
私も見た。
この話の先に、私達の自由がきっとある。
私は信じてる。
きっと……絶対に……
誰にも干渉されない。
本当の自由があるはずだよね。
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