双剣の姫と双翼の剣士

@onidourou00

第1話

「あぁ……、ぁああ……、」


それは地獄だった。

煌びやかな黄金の装飾品は赤く染まり、

護衛の騎士は血の海に溺れ、

そして、

目の前では愛おしい両親が横たわってる。

その悲惨な光景は、

20歳にも満たない少女には

充分すぎるほどの絶望だった。

だが、まだ終わりではなかった。

コツ、コツと

この残酷な現実をつくりあげた“何者”かが

ゆっくりと少女に向かって歩き始める。

フードを目深く被った“何者”かは、

右手に握っていた血まみれの剣を高く上げ、

そのまま少女へと振り下げ…



レティシア王国。アルムル大陸の北部に位置する国で、比較的穏やかな気候下の地域に

国土を構える王政国家。

その首都、ライラの城下町を歩く

青年の姿があった。


「おはよう、ベイルージュさん。

今日もお早いねぇ」


「おはようございます、ネルさん。

少し用事があって」


ベイルージュと呼ばれた青年は

笑顔で気さくに答える。

革製の黒いロングコートを羽織った

少し背の高い青髪の好青年。年は19歳。

その人柄の良さと整った顔立ちから

町でも知る人が多く、また信頼も厚かった。

ベイルージュは軽く挨拶を終えると、

そのまま城下町の大通りを数分歩き続け、

やがて一軒の店の前で止まる。

店の名前は、「Witch」意味は魔女。

魔女と聞くと悪いイメージを持つが、

魔法を扱えるこの世界では、

嫌悪の対象にはならず、

魔法を使う女性の呼称として

使われることが多かった。

ベイルージュは

魔女の店の扉を慣れた様子で開ける。

ドアにつけられたベルが揺れ、

チリンチリンと軽快な音が店の中に響き

来客が来たことを伝える。

すると、奥の方から女性の声がする。


「いらっしゃ…、あぁベイルージュね

来てくれてありがとう、時間通りよ」


声の主は、この「Witch」のオーナーの

メリィー。ベイルージュとは年来の知己で、

絹のようになめらかで美しい白髪、

妖艶さと華やかさを兼ね備えた顔立ち、

また、優しい口調と気品ある雰囲気から

見る人に余裕のある、

落ち着いた大人の印象を

もたせる女性であった。

メリィーは作業をやめると、ベイルージュを

カウンター前の席へと手招きする。


「朝早く悪いわね、どうしても今日中に

揃えたいものがあって」


「いや、気にしなくていいよ。

それより揃えときたいものって?」


「カルム草よ。最近、自生しているところに

魔物の群れが出没した影響で、

市場に出回らなくなって

解毒薬が作れないのよ」


メリィーが営む「Witch」は

回復、解毒用のポーションや

目眩しの閃光玉、

明かりとして使える光明石など

冒険に必要なものを揃えている魔道具店で、

品揃えの良さと、手頃な値段から

町の冒険者御用達のお店だった。

そんな「Witch」にとって解毒薬が

品薄状態なのは大きな問題だった。

なので、メリィーは冒険者である

ベイルージュに採取を頼んだのであった。


「確かカルム草って

西の平原に生えてたよな?」


「えぇ、そうよ」


「ならちょうど良かった。

そこの平原の魔物討伐の依頼が

ギルドに出てたから、

それのついでに行ってくるよ」


「本当?ありがとう」


そう言うと柔らかな笑みを浮かべる

メリィー。

ベイルージュは席を立ち、

大きく伸びをするとまた後でと、

メリィーに手を振る。

メリィーも、気を付けてと声をかけ

手を振り返す。

そうしてベイルージュは店を後にし、

ギルドへと向かった。

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