袋小路の扉

十笈ひび

1 人間不信

「人間不信にもいろいろあるのでしょうが、僕はある時から自分で望んでそうなったんです。

 だって、僕にはもう、人を信じたり……まして、人を好きになったり、愛したりといったことが、とても軟弱な、あまっちゃろい感情でしかないような気がしたからです。

 人というものは、みな常に自分自身の利しか考えることができず、そのせいで平気で嘘だってつくし、裏切りなんてのは人が生きていく為には当然の行為なんだと。

 騙される者が悪いし、嘘を見抜けなかった者が悪い。

 僕はね、子供の頃から、既に世界は欺瞞に満ちあふれていることを肌で感じていたんですよ。

 そして、自分が成長する過程で、普通の子供が抱くような、大人になる事への憧れなんてものは全く抱かず、ただひたすら来たるべき冬の時代に備えることしか考えなかったんです。

 人は嫌いになりこそすれ、好きになることなんてあり得ないだろうと思いました。

 信用できる人間など、この世にはいないと思っていたんです。

 生きるには鉄の鎧がいる。そんな鎧で自分自身を覆い尽くしたかった。

 それが、生きていく為に必要だと感じた。

 友達なんて、いらないと思いました。

 友達なんて……ありとあらゆる誘惑に引きずり込もうとする、自分自身を弱くする人間にすぎないんだと……」

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