三本の薔薇物語

山石神楽

三本の薔薇伝説

 昔、ある町にに一人の花屋がいました。

 石畳の広がる大通りから、角を一つ曲がったところにある小さな花屋。お店は小さいけれど、常連さんもいて、いくつかのお屋敷に定期的に出入りすることもありました。


 とある満月の夜、男が月見がてら散歩していると、美しい女性が一人でいるのを見つけました。

 その人は、有名なお金持ちの商人のところのお嬢様でした。彼女とは、お屋敷に花を届けた時の露ほどの面識がある程度です。それでも、彼女の美しさは、見間違えようがありませんでした。

"こんばんは。女性の夜歩きは危ないですよ"

"こんばんは。……お花屋さん?"

"はい。覚えていて下さったんですね"

"はい。いつも、とても綺麗なお花を持ってきて下さるので"

 花の配達の時に、少し、言葉を交わしたことがあっただけの二人ですが、すぐに意気投合しました。結局その日は、夜が深くなるまで話してしまいました。それ以来、二人は毎週暇を合わせて会うようになったそうです。

 

 彼らは、叶わぬ恋をしていました。

 男は町の花屋。女は資産家の令嬢。

 それに、女には既に、家の存続のために親が決めた、高い身分の許婚いいなずけがいたのです。

 彼女はその役目を理解しており、また、男も彼女に迷惑は掛けまいと、己の気持ちを口にすることはありませんでした。

 数ヶ月後、彼女は許婚だった王都の貴人あてびとと結婚しました。

 男も結婚を祝いました。相手の男性は良い人だと聞いていましたし、彼女も、幸せそうでした。 

 しかし、それでも。男はせめてもの彼女への愛の証として、二人が初めて出会った場所に、「3本の薔薇ばら」を植えました。

出会いへの感謝と、2人で過ごした時間への喜びと、別れへの哀しみを込めて。

その後、女は幸せな生活を、男の花屋も繁盛し、長くつづいたそうです。 おしまい


「えー、もうおわりー?このあと二人はどうなっちゃったの?」

 本を閉じると、孫娘が不満そうに聞いてきた。

「この後しばらくしてから、女の人の方がお店に来るんだよ。それからは、良い友達として過ごしているそうだよ。」

「ふーん。なんかむずしかった」

 八つになったばかりのこの子には、まだ、少し早かったのかもしれない。

「じゃあ、この本の、誰も知らないお話を教えてあげよう。」

「そんなのあるの!ききたい!はやくお話して!」孫娘は目を輝かせて言った。

「また、明日お話してあげるよ。今日は寝なさい。」

「やくそくだよ!おやすみなさーい」

「はい、おやすみ。」

 もう夜中の9時半。子供は眠たくなる時間だろう。孫娘は、すぐに寝息を立てはじめた。

 そういえば、あの時もこれくらいの時間だった気がする。

 ――そう、あの日は……

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