メイドを誰が殺した?

野口マッハ剛(ごう)

ひねくれものなの? 私って

 テーブルに広げられた焼き菓子に私は「わぁ」と驚きと興奮を隠せなかった。ママがニッコリとしている。私はお湯が沸くまでのあいだ、その焼き菓子のひとつひとつを眺める。

 これはバウムクーヘン、その横にはスティッククーヘン。リンゴパイ、甘い香り。フルーツカステラ、マドレーヌ。クグロフって、マリーアントワネットの好物なんだっけ? 部屋には甘い香りが満ちている。

「貴女って、メイドになりたいんだっけ?」

 私はウンウンと頷く。だって今はそんな場合じゃない。だって今は目の前の焼き菓子たちが美味しそうだから。

「仕事はどうするの?」

「うーん、メイド喫茶で働こうかな?」私がそう言うとママはため息をついた。

 そしてお湯が沸いた。紅茶はレモンにする。ママもレモンティーにした。フゥフゥと紅茶を冷ます私。ママは気付けば私の顔を見ていた。なんだろう? まあいっか。私は焼き菓子に手を伸ばした。

 口のなかに広がるお菓子の甘さは特別の美味しさだった。もうっ、ママったら、今日は何かあったの?

「私ね、パパと離婚することにしたの」ママが言った。私は、目が点のようになる。え、え、どうして? 急過ぎない?

「パパとケンカしたの?」私は恐る恐る聞いた。

「違うよ? パパは浮気……いいえ、他に子どもがいたのよ」

 私がカップを誤ってひっくり返した。え、え、どういうわけ? 私以外の子どもがいるの? え、と言うか、パパが急に不潔なものに思えた。

「とんでもないでしょう? だからね、離婚するのよ。貴女はママについてくるわよね?」

 私は悲しくなって涙がぼろぼろ出てきた。そんなのってないよ、だって、パパはママを騙した。そんなの絶対に許せない。私はママに涙を拭いてもらった。

「泣かないの、私は貴女の味方だから。パパなんて死んじゃえばいいのよ」私は声を上げて泣く。ふぇーんと情けない声を出しながら。パパは不潔だ。もう知らない‼

「私は貴女の味方、だからこれから言うことをちゃんと聞いてね? 貴女の結婚相手は私がきちんと見ます。だからね、安心して」ママはそう言うけど、パパのせいで他の男性も汚ならしく思える。ママはなぜか笑顔だった。

 私はひねくれてしまった。ママのおすすめの男性にも見向きもしない私。そうしてママは天国に旅立った。私は、パパのせいでひねくれてしまった。でも、恨んでないよ? 私はそれでもママの娘だから。

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