私といわしと画鋲と

亀麦茶

1.

 かつーん、と廊下に画鋲が落ちた。


 踏むと危ないからと思って画鋲を拾ったところ、誤って指に刺してしまった。指先から血がにじんだ。やってしまった。すでに保健室の先生は帰ってしまっただろう。諦めて血を舐めた。


 貼り紙がぱたぱたと鳴る。今日は風が強い。空にはいわし雲が浮かんでいて、秋の到来を感じた。


 物思いにふけっていると空から何かが降ってきて、べちっ、と落ちた。それはよく見るといわしであった。


 なんだ、いわしか。そのまま見ていると、いわしが口をぴくぴく震わせていたのに気が付いた。


 何となくいわしの口に指先を当て、血を飲ませてみた。しかし、いわしに手足が生えたりするような事は無く、何の変化も起こらなかった。つまらない。今すぐいわしを踏みつけたくなった。そしてその衝動に身を任せた。


 サンダルの裏を確認すると、そこにいわしは無かった。廊下に風がまた吹いた。帰りにいわしを買うことにした。


 夜は、いわしの梅煮を食べた。母親の好物だったので作ってみたが、好きではなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私といわしと画鋲と 亀麦茶 @chart_clock

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ