第15話 比類なきPRIDE

 ――――立ち塞がる賊たちは五人。四人は幅広のダンビラなどを構えた男たちで、一人は魔術師のようだ。魔術師は後衛に下がり魔術杖を構える。どうやらこの五人のリーダー格。


「野郎共、かかれぇっ!」

「うおおーッ!!」


 剣を持った男たちが突撃してくる! 


「落ち着いて敵の動きを見るんだ! ヴェラさんとベネット、ブラックさんは後衛へ! ロレンスはあの魔術師の動きを封じてくれ! 他は散開して叩くんだ!」


 ラルフは的確に指示を出し、自らも突進してくる悪漢たちと剣を交える! 


「ふんっ! とっ、おりゃっ!!」

 

「痛てぇっ!」


 ウルリカは力自慢の男の野太刀を受けても全く怯まず体勢も崩さない。剣戟をいなして動きを止めた後、戦斧でまず足を切りつける! 


 これで一気に身動きが取れなくなる。続けて手足に打撃を加えた上で、当身で昏倒させる。


 ラルフとブラックの意向により、賊と言えど極力殺生はせぬよう他の仲間にも伝えていた。


「……なーんてのァ、生温いぜぇ!!」


「うおっ!?」


 セアドは手近な砂を拾って投げつけて敵の目を眩ませた後、素早く足払いをしかけてすっ転ばし――――そのまま勢いを殺さず、手指で突き刺し両眼に目潰しをした! 


「うぎゃあああああーっ!! 目がァ……! 俺の目がアアァァ!!」


「セアド! 殺すなと言っているだろう!!」


 後衛にいるブラックが思わず叫ぶが、セアドは至ってすました顔で言う。


「へはぁっ! 殺しゃァしねえよ! ただ、こっちが勝ちやすくするだけだ、ぜぇぇあっ!!」


 続けて棍棒で脳天に強烈な殴打。この賊は既に昏倒した。


「くっ……ちっ! うらあっ! このアマ……避けまくりやがって…………!」


 ルルカと剣を交える賊は、攻撃が全く命中せず焦りを募らせていた。それほどルルカの身のこなしは軽く、相手を手玉に取っていた。


「あまり、手酷い傷は付けたく、ありませんわ! わたくしに、剣を、抜かせないでっ!」


「ぐえっ!」


 相手が攻撃を空振りする度に、蹴りの乱打をルルカは浴びせる。全て関節などの局所狙いだ。


「ぐああっ! ……? 傷口が……痛くねえ、けど……動け……ね…………」


 後衛からブラックが銃撃を浴びせる。


「――私が調合した人体用の特製麻酔弾だ。如何かね? 傷口こそ大きいが、局所麻酔より遥かに効くだろう? くくく……」




 形勢が不利なことを見て、魔術師の賊は舌打ちをした。


「ちいっ! テメェら何やってんだ――――うおおっ!?」


 咄嗟に避けた魔術師のすぐ近くで、火炎魔法が浴びせられた。


「――――王国に仕える者として……魔法で遅れを取るわけにはいかぬ!」


 ロレンスは腕を肩まで上げて魔術杖を敵に向け、念じ続けている。


「……けっ。あの王国直属の宮廷魔術師サマかよ――――術比べなら、上等だぜ!」


 賊の魔術師も自らの魔術杖を構え、素早く詠唱を始めた! 


「……驟雨しゅううの如きいかずちよ、彼の者に打ち付けよ!」

「冷蒼なる氷の刃よ、奴を射殺せ!」


 両者は詠唱し、魔力をその血が滾る勢いのままに高まらせ、魔法を嵐のように放つ! 


 ロレンスは素早く杖に集中させた炎の魔力で杖を回転させて、立て続けに飛んでくる敵の放つ氷刃を瞬時に蒸発させ、敵も降り注ぐ雷撃に魔法障壁を張って凌いだ。


「――荒れ狂う流転の風よ、敵を薙げ!」

「――氷塊よ、奴を捕らえろ!」


 次にロレンスは風の魔法で敵に風の衝撃波をぶつけ、敵は無数の氷塊を舞わせ、ロレンスの周囲を横殴りの嵐のように飛び交わせる! 


「うぐっ……ちくしょう……」

「なんの、この程度!」


 ロレンスの詠唱と魔力の方が速く、また強いのか、先に敵が衝撃波を喰らって膝を付いた。


 ――――ほんの数分間。


 されど、魔法による嵐の如き攻防が繰り広げられ、その数分間は見るものに万年のようにすら長く錯覚させるに充分だった。危険な攻撃魔法の応酬に、他の仲間たちは安易に近付けない。


 だが……やはり、若干ロレンスの方が術比べではその詠唱速度、魔力、魔法の練度の高さでは敵を上回っているように見える。


 だが、敵の魔術師も負けてはいない。


 ロレンスに足りない体力や敏捷性、地形を巧みに利用し、応用した戦い方などは互角以上である。加えて、魔法の中に暗器や道具類なども織り交ぜてきている。既に爆薬や毒針、魔力を補助する霊薬などをその手さばきの速さで以てロレンスより優位に扱って、魔法の優劣を無きものとしていた。


 決め手があるとすれば――――如何に場数を踏み、戦略的に上回っているのか、と言ったところか。


 敵の氷の魔法を何とか躱し、ロレンスが再び唱えた風の衝撃波の魔法に、敵は体勢を崩した。


「うぐっ……」

「もらった! 聖霊よ、我が身に巨鳥の翼の如き迅速を与えよ……!」


 すかさず、ロレンスは敏捷性を高める魔法を掛け、敵との間合いを詰めた。




「――――なあんて、なあ!!」


「――ぐっ!!」


 ロレンスが間合いを詰めようとした瞬間、足元に魔法陣が展開され、いばらがその両脚を絡めとった! ――――敵の魔術師の罠である。


「さらに!!」

「うあああっ!!」


 宙を舞っていた氷塊が、ロレンスの足元に集束する! 一瞬にして足を固められ、身動きが取れなくなった…………。


「……へへっ! 宮廷魔術師サマ、とやらも落ちたもんだぜぇ。こんな外法の道を往く……人生面白おかしくやってる俺に殺られるんだからなああああッ!!」


 勝ち誇った魔術師は、徐にロレンスに余裕綽々と言った足取りで近寄り、腰に提げた短剣を抜き、ロレンスの喉元に――――


「――ロレンス!!」


 ラルフは急いでロレンスを助けに走った……だが遠過ぎる――――




「――――こうして私の足を固め、お前が呑気に近寄ってくることを……予想出来ないとでも思ったか…………?」


「……なっ!? こ、こいつ――――うあっ!」


 なんと、近寄ってきた魔術師の魔術杖と短剣を、ロレンスが念じると――――強力な磁石のようにロレンスの手元に引き寄せた! 


 敵の魔術師は武器を失い、一瞬呆気に取られる。



「……こ、こんな、まさか……ホントはここまでの力を――――」


 そう。ロレンスは敵に魔力の底を気取られない為に、わざと魔力を温存セーブして戦っていたのだ。物体を動かす魔力は、対象との距離が近い方が強い。そして、油断した敵が近寄ってきたので『能ある鷹の隠した爪を現した』のだった。もちろん、罠にかかったのはわざとだ。


「――そこだ! はああアッ!!」


 ロレンスは短剣をラルフの足元に投げ捨て、敵の魔術師の魔術杖も片手に持ち……両手に魔術杖を構えて念じた。


「うあっ……! ち、ちっくしょう……」


 魔術杖で何乗にもなった強大な念力は容易く魔術師の身体を持ち上げ……周りで他の仲間たちが倒した賊たちをも纏めて集束させていく! 


「――我が王家伝来の大魔法……その身に落ちる鉄槌と噛み締めるがいい!!」


 とてつもない魔力が肉眼にもハッキリ見えるエネルギー粒子となり敵に集中し――――大爆発を起こした!! 


「ぎゃあああああああアアアアーーッ!! ……こんな、馬鹿な…………」


 爆風で重傷を負い、五人の賊たちはたちまちの内に再起不能となった。




「――――宮廷魔術師を舐めるな。裁きを受けるのだ、賊共」


 こうして、次の階層へと進む道はこじ開けられた。

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