第13話 準備完了

「――よし。これで仲間は八人。それぞれ特長も異なる重要な戦力だ。ここで一旦、みんなの特徴を確認しておこう」


 ラルフは皆にそう告げ、この王国に来てから加わった仲間たち一人一人から、改めて特技や特徴などを確認し、メモにまとめた。


 ◎ラルフ


 勇者。この一行のリーダーを務める。冷静な判断力と洞察眼、そして勇者特有の非常に強力な聖なる剣技と神聖魔法を駆使する。的確な指示を仲間に下し、自ら前衛を務めるだけの胆力は正に勇者。20歳。


 体力……★★★★★

 精神力……★★★★★

 知性……★★★★★

 敏捷性……★★★★

 攻撃力……★★★★★

 回復能力……★★

 補助能力……★★★★


 ◎ロレンス


 宮廷魔術師。一行のサブリーダー。高度な学識を持ち、攻撃魔術だけでなく王家伝来の古代文字の解読なども出来る。運の弱さと気の小ささから精神面の弱さが目立つことを差し引いても高い知性が光る常識人。22歳。


 体力……★

 精神力……★

 知性……★★★★★

 敏捷性……★★

 攻撃力……★★★★★

 回復能力……★

 補助能力……★★★★


 ◎ブラック


 闇医者。その手腕と頭脳は天才的であり、迅速で的確な医術を施す。強化剤による補助も強い。半ば裏社会を渡っているだけあり、交渉などにも長ける。薬品の類いの扱いは誰よりも上手いだろう。年齢相応の落ち着きからなる判断力も頼もしい。元々生物を痛めつけるのを嫌うせいか攻撃力は弱く体力も乏しい。40歳。


 体力……★

 精神力……★★★★★

 知性……★★★★★

 敏捷性……★★

 攻撃力……★

 回復能力……★★★★★

 補助能力……★★★★★


 ◎ウルリカ


 若き女冒険者。腕力と体力は力自慢の男を薙ぎ倒す程に凄まじい。重い武具を着こなし壁役として比類なき活躍を見せるだろう。頭脳労働は苦手であり、思考力や冷静な判断力は欠ける。20歳。


 体力……★★★★★

 精神力……★★

 知性……★

 敏捷性……★★★

 攻撃力……★★★★★

 回復能力……★

 補助能力……★★


 ◎ルルカ


 ソードダンサー。磨き抜いた剣舞とスピードは誰にも負けない。優しさと穏やかさは一行の華だが、激昂した時や身の危険が迫った時に人格が交代し、その瞬間はラルフすら圧倒しかねない狂戦士と化す。19歳。


 体力……★★★

 精神力……★★★★

 知性……★★★

 敏捷性……★★★★★

 攻撃力……★★★★

 回復能力……★

 補助能力……★


 ◎ヴェラ


 旅の楽師。本来は戦闘に向かないが、その歌声には仲間の身体能力を上げる特殊な波長がある。聴力ほか、第六感的センスも鋭い。感性に従って行動するので知力は最も低い上にギターを手放さないので専ら後衛向きか。敵の能力を削ぐような演奏法も出来る。22歳。


 体力……★★★★

 精神力……★★★★★

 知性……★

 敏捷性……★★★★

 攻撃力……★★

 回復能力……★

 補助能力……★★★★★


 ◎ベネット


 猫人の亜人であり破戒僧。法術による貴重な回復要員。その気になればある程度の攻撃魔術も使える。猫人特有の感覚の鋭さと、超能力『次回予告』を持つ。エキセントリックな言動が目立つが、本来冷静で思慮に富んだ一途な少女である。ルルカのソウルメイトとなった。17歳。


 体力……★★

 精神力……★★★

 知性……★★★★

 敏捷性……★★★★

 攻撃力……★★★

 回復能力……★★★★★

 補助能力……★★★★★


 ◎セアド


 凶悪犯。極悪人であり、戦いにおいて手段は一切選ばない。その身体能力と精神力、頭脳は半ば人間離れしており、ラルフの寝首を掻く存在になりうる。あらゆる武具を使いこなし、ちょっとした針金があれば宝箱や扉の鍵をこじ開けるという一行に不可欠なスキルを持つ。35歳。


 体力……★★★★★

 精神力……★★★★★

 知性……★★★★★

 敏捷性……★★★★

 攻撃力……★★★★★

 回復能力……★

 補助能力……★


 ラルフ一行の能力を表すならこんなところである。


「……さて……皆の身上が分かったところで、血液、尿検査といこうか……皆に合った回復薬の調剤をせねばな。ヴェラとベネットとセアドの体液は……医者としての生物学的な興味が尽きんよ、くくく」


 ブラックが例の露悪的な笑みを浮かべる。


「みゃーっ!! 注射とか尿とか嫌にゃー!! オトコに血と尿を捧げるなんて……寒気がするのもいいとこにゃ!!」


「ベネット、お願い解って。大丈夫。わたくしも傍に付いておりますから……」


「……血ぃ抜かれんのか……なーんかSOULまで持ってかれそうでやだなー」


「おォいおい、俺様の血と尿もかい。こりゃあ医学界に激震が走っちまってもいいんかい、ひゃっはっはっはっ」


「……あー、回復薬を作るなら体質を知る必要ありか。すまないみんな、堪えてくれ。プライバシーには気を付けるから、男性と女性に分かれよう。ブラックさん、御手柔らかに頼みますよ……」


「……調剤のためとはいえ、女の子にも平然と尿検査や生物学的な興味が、とか……やっぱこの医者ヘンタイだあー……」


 ラルフが何とか場を制し、ウルリカは顔を赤らめた。


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 全員から血液と尿を採取し終わった後、ブラックは一旦王国の市場に向かい、検査と調剤を始めた。


 それ以外の一行は、再び城へと歩を進めていた。もちろんセアドの顔は隠しながらだ。


「セアドの解錠の技があれば……宝を出し渋っていた王も欺いて宝物庫の宝も回収出来るだろう――ロレンス。悪く思うな」


「構いません。元はと言えば、魔王復活の危機だと言うのに財産を渋ってばかりの我が君が悪いのです……是非宝をお持ちになって、遺跡攻略に使い潰しください」


「それはそうとォ……さっき読んだ書状によるとォ……この国の宝は何でも持って行っていいそうじゃあねぇか……けけけけ」


「き、貴様この期に及んで――――」


「飽くまで宝玉『憎悪の泪』奪還までの間だ。この件が片付けば、俺とロレンスが可能な限り返しに来る。それに市民から財産を盗るのは駄目だ」


「……そうかい、けっ」


 ラルフは毅然としてセアドに言い放った。セアドは渋々ながら宝物庫の宝箱に手を伸ばす。


「……ま、どうせ俺ァもうすぐ死ぬ運命だしな。ボランティアだボランティア、と……よーしよし、こんな狭ぇトコに隠れてないで出ておいでオタカラちゃあああんんんん〜♪」


 解錠針キーピックで大罪人を閉じ込めるような頑丈な檻の鍵を容易くこじ開けるセアド。宝物庫の宝箱に掛けられた錠前を外すのもわけは無かった。


 宝物庫内には武具や貴重な薬品、そして金銀財宝の類いが確かにあった。


「使える武具はそのまま装備に加えて……あとは市場で最後の準備を調えよう」


 そこでロレンスはふと疑問に思い、セアドに問う。


「……そう言えば貴様。貴様の檻だけでなく、他の囚人たちの私物まで持ち込んでいたのか?」


「おうともよ。みんな俺様には感謝してんだぜぇ〜」


「……何故そんなことをする? 処刑を待つ貴様に何の益もあるまい? 檻を抜け出したところで、港の厳重な警備までは掻い潜れるはずもないし……」


「ふへはっはっはっ……そーこんとこは俺様にもようわからん。ある時からあの牢獄の連中にも施したくなったのよォ……手段はワルだがなぁ」


「むう……」


 ちなみに看守を務めていた兵は、実は頻繁に居眠りをしていた。ブラックの見立てによると、睡眠障害で突然眠ってしまうらしい。セアドを連れて行く代わりに、看守にはこの不祥事に目をつぶってもらった。


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 次に市場に向かい、武器商人や錬金職人、魔法力が込められた装身具アクセサリー売りなどを訪れ、それぞれの戦い方に合った装備や道具などを着々と調えていった。


「そこの赤髪の子、貴女なかなか美人ね。見たところ冒険者みたいだけど、着るものや身だしなみに気を使えばもっと女として光るわよ」


「……そ、そう? そうかなあ……えへへへ……」


 途中、装身具アクセサリーを売る行商人の女性から声をかけられ、てれてれと悦に浸るウルリカだったが――――


「ほーおぅ? 『性別など歯牙にもかけぬ冒険者が』かね?」


「あっ……う、ぐぐ…………」


「ふん。……待たせたな。回復薬の準備はバッチリだ。皆、装備は調えたかね?」


 調剤から戻ったブラックと合流し、彼は冷ややかな目でウルリカを一瞥した。


「こちらも充分です。すぐにでも出発しましょう」


 ラルフは全員の顔を見合わせ、準備は充分であることを確認し――――


「よし。では行こう! 宝玉『憎悪の泪』奪還の為に……みんな、頼むぞ」


 ついに王国を後にし、南に向かった。


 得体の知れぬ力を持つ宝玉『憎悪の泪』を奪った賊が潜む遺跡――――深淵への暗澹たる巣窟へ――――

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