55 勇者登場
残った者達をあの世へ送るのは、それほど大したことではなかった。
ただ、だからと言って僕等の前途が明るくなったわけではない。いや、それこそ逆だろう。僕の目の前には、背中の大剣に手をかける男、槍で肩を叩いている男、顔を顰めつつ弓を構えようとする女、杖を持ったまま顔を青くする女、そんな四人の勇者達が立っているからだ。
四人の勇者達は、愛菜の言う通り高校生らしき雰囲気であり、どう見ても地球から来たと思えた。
「これを君がやったのかい?」
大剣を背負う男は少し童顔で、僕とあまり変わらない背丈ではあるものの、年上の女性が放ってはおかないのでは? と思えるような雰囲気を持っている。
まあ、大剣も大きいのだけど、背が低いせいで背負う羽目になっているのだろう。
「輝人、こいつ真っ赤だけど、人間じゃね~の?」
槍で肩叩きをしている青年は、上背があり、ちょっとスレている雰囲気が、高校生にしては少し大人びているように思えた。
その槍の青年は、大剣を持つ童顔の勇者――輝人に視線を向ける。
すると、一人の少女が矢を弓につがえながら首を横に振った。
「
顔を顰めて油断なく矢をつがえる少女は、杖を持つ少女を守るかの如く前に出ようとする。
少女は氷華と一凛を足して二で割ったような感じなのだけど、少しばかり大人の香りがするような気がする。
ただ、間違ってもそれを口にできない。それを二人に知られようものなら、僕は八つ裂きになるに違いないからだ。
「ありがとう
優里奈と呼ばれた杖を持った少女は、言われた通りに弓を構える夏乃子の後ろへと下がる。
その見た目は愛菜が大人びたかのような可愛らしい女性であり、少しだけドキリとするのだけど、僕を睨みつける眼差しのお陰で恋に落ちるようなことはない。いや、それどころか、一方的な物言いに対して正論を突きつける。
「あなた達が何を考えて人族の手伝いをしているのかは知らないけど、その屍達は村の者を同じ目に遭わせる気だったんだよ。それを知っても同じことを言えるの?」
四人の勇者の口ぶりに、少しばかりカチンときたのだ。
できれば戦わずに済ませたい。だから、彼等の正義を確かめるために口にしてみたのだけど、どうやら彼等には本当のことが伝えられていないみたいだった。
「何言ってんだ! この村には魔族が住んでるんだ! 人間と一緒にすんなよ。死んで当然だぜ」
「そうだよ。魔族は悪しき存在だって言ってたわ。人間を虐げ、辱め、無意味に殺す存在なんだって聞いてるわ」
快が肩叩きながら毒を吐き、弓を構えている夏乃子が鋭い視線を僕に向けつつ、己が知る情報を口にした。
「どうやら、人族にとって都合のいいことを吹き込まれているみたいだね。あなたの情報は僕の知らないものだよ。というか、僕の知る情報からすれば、それは嘘八百といったほうがいいかもね」
別に自分の行為を正当化するつもりはない。それでも、無意味な戦いが無くなればと思い、僕の知る事実を口にしてみる。
しかし、どうやらそれは逆効果だった。
「それって、私達が嘘と本当の見極めすら出来ないと言いたいの?」
「おいおい、夏乃子、そんなにムキになんなよ。つ~か、魔族が何を言っても無意味だぜ。奴らは簡単に人を騙すって言ってたからな」
ん? 僕は魔族じゃないんだけど......彼等は魔族の姿も知らないのかな? 魔王と戦ったはずだけど......
夏乃子が眦を吊り上げ、快は聞く耳を持たないと吐き捨てるのを目にして、僕は素朴な疑問を抱く。
ところが、次の瞬間にはその疑問など吹っ飛んだ。突如として建物から愛菜が飛び出してきたのだ。
「ちょ、ちょ~~! 愛菜! ダメだ!」
「聞いてください! 私達も日本から転移したのです。嘘は言いません。直ぐに魔族を滅ぼす手伝いなんて辞めてください。あなた達は騙されてるのです」
「えっ!? 日本から? 騙されてる?」
「女の子? 中学生なのかな?」
「手を握ってるのは魔族の子供? 普通の女の子にしか見えないわ......」
「おいおい、こりゃ、どういうことだ?」
僕の制止を振り切った愛菜が、真摯に己の気持ちを訴える姿を見やり、輝人が驚きを露わにすると、優里奈も愛菜の姿を確かめるかのように見入る。
弓を構えたままの夏乃子は、どうやら魔族の少女――ミロラのことが気になったようで、いつでも放てるように張っていた
休まず肩を叩いていた槍を止めた快は、眉間に皺を刻んで訝しげな表情となる。どうやら、自分の目で見たものを信じないほどには、洗脳されていないのだろう。
これは、もしかして上手くいくかも――
上手い具合に戦わずして逃亡できそうだなんて甘いことを考えたツケなのだろうか、混乱する勇者達の様子に希望を見出していると、彼等の後ろから喚起の声が上がった。
「騙されてはダメです。その見た目も含めて全て偽りです。魔族が持つ闇の魔法で私達は違うものを見させられているのです」
ちょ、ちょ~~、闇の魔法って......でまかせも甚だしいよね。そもそも、そんな魔法が使えたら苦労しないっての!
戸惑う勇者達の後ろから白く長い貫頭衣を纏った女性が現れると、すかさず僕等を睨みつけて己が考えを口にした。いや、でまかせを口にした。
見るからに綺麗な女性だけど、その険しい表情によって美しさが三割減というところだろうか。ゲレンデマジックだと女の子が三割増しで可愛く見える法則の逆だと言えばいいだろうか。
二十歳くらいに見えるその美しい女性は、金色の長い髪を揺らしながら鋭い視線のみならず、まるで犯人はお前だと言わんばかりに、僕に向けて指を突きつけてきた。
「トリニシャ、どういうこと? 彼等は日本から来たと言ってるんだけど――」
「それが騙されているというのです」
訝しげな眼差しをその女性――トリニシャに向けた輝人が問いかけると、彼女は首を横に振りながらデタラメな説明を始めた。
「看破の法術を使っている私には分かります。奴らの本当の姿は醜く薄汚い存在です。日本から来たというのも、勇者様の思考を読み取って偽りの姿と話題で惑わそうとしているのです。人間は能力が低いが故に、奴らからすると騙すのも容易なのです。だから、決して奴らの言うことに耳を傾けてはなりません」
ちょ、ちょ~、どんだけ作ってんの? 僕を醜いというのは許す......まあ、許すとしても、愛菜を醜いなんて許さないよ? てか、何が看破だよ。きっと、氷華と一凛の姿すら見えてないだろうに......最悪の嘘つき女だ。
「ちっ、そういうことかよ。ふざけやがって」
「許せないわ。人の優しさに付け込むなんて」
トリニシャのガセネタを擦り込まれた快と夏乃子が、怒りを露わにしながら僕を睨みつけてくる。
はぁ? 付け込んでるのは、その嘘つき女だよね。いい加減にしてほしいな......というか、愚かな勇者......
どうやら、勇者は僕や愛菜の言葉を怪しんでも、トリニシャの言葉は鵜呑みにできるみたいだ。瞬時に僕等を敵だと判断したのだろう。すぐさま快は槍を構え、夏乃子は弦を引き絞った。
「ダメです。その女性の言葉に耳を傾けてはダメです。あなた方は彼女に騙されているのです。私達は本当に日本から来たのです。魔族だってあなた達が聞かされたような存在ではないのです。やめてください。お願いです。私の言葉を信じて!」
武器を向けられ、愛菜は手を繋いでいたミロラを背に隠しながら、必死に真実を訴えかける。
しかし、無情にも彼女の真摯な想いは届かなかったみたいだ。輝人は背に掛けていた大剣を手にすると、まさに僕等は敵だと言わんばかりの表情を見せた。
「ボクは騙されるのが嫌いなんだ。それと、人を殺して平気な奴なんて許せないんだ」
くそっ......こりゃ、最悪の展開になっちゃったよ......あの嘘つき女の所為で......あとでハリセンボン飲まさなきゃ。てかさ、騙されるのが嫌いな割には、簡単に騙されてるよね......
愛菜の真摯な呼びかけで、一時は無事に逃げられるかもしれないと思ったのだけど、嘘つき女――トリニシャが登場した所為で完全に裏目に出てしまった。
というのも、真面に戦えない愛菜や魔族の親子まで出てきてしまったからだ。こうなったら彼女達も狙われてしまうに違いない。
僕は絶望という二文字を頭に浮かべつつも、在りもしないデマをぶちまけたトリニシャを睨みつけるのだった。
その戦いは僕にとって最悪の一言だった。いや、最悪では語り切れないかもしれない。
悪夢。そう、悪夢だ。今世紀最大の悪夢だと言えるだろう。
ショッピングモールで氷華と一凛がやられた時も最悪最低だと感じたけど、今回はそれ以上に絶望的かもしれない。
なにしろ、今の僕にはあの時のような絶対的な力がないからだ。
あの時は怒りに任せて、何もかも吹き飛ばし、何もかもを焼き尽くし、痛い二つ名を口にするほどの力があった。
でも、現在は吹けば飛ぶほどに脆弱な存在となり下がっているのだ。
「そこだっ!」
輝人がその小柄で細身の身体つきからは想像できないほどの一撃を放ってきた。
とてもではないけど、その攻撃を受け止めることなんてできない。
くっ、なんて攻撃なんだ。地面が爆発してるし......
僕が何とか避けきると、空を切った大剣が地に突き立つ。その途端に、まるで爆発物でも投下したかのように地面が弾ける。
その一撃は尋常ならざるもので、なんとか避けきったはずなのに、その剣風は長くなっていた僕の髪を切り裂き、サングラスの柄までも斬り飛ばした。
それと同時に頬が熱くなり、首筋にかけて何かが流れる感触が伝わってくる。
間違いなく頬を深く切り裂かれて、鮮血が流れていると思う。
「なんだその目は! やっぱり魔族がオレ達を騙してたんだな! くそゴミめ、逝ってろ!」
サングラスを斬り飛ばされたことで、露わになってしまった爬虫類のような僕の瞳を目にしたのだろう。
快が怒りの形相で歪な形をした槍を僕に突き込んでくる。
ただ、彼は何やら勘違いしてるみたいだ。だって、魔族の瞳はその色彩こそ違えども、人間と変わらない瞳孔だもの。いや、人間よりも美しいかな。
ちっ、鋭い突き......こなくそ!
心中で舌打ちをしながらも、僕の息の根を止めべく突き出された鋭い槍の攻撃を刀で弾く。
本当は避けたいのだけど、輝人の一撃で態勢を崩していたこともあって、刀で対処するほかなかった。
それでもなんとか凌いだのだけど、それが拙かったみたいだ。焦れた夏乃子が標的を変えてしまったのだ。
「あの魔族、強い! それなら、これでどう! どうせ魔法で姿を変えてるだけなんでしょ!?」
「くそっ! 何を血迷ってんのさ、あのバカ女!」
僕が罵り声を口にした瞬間、夏乃子は引き絞っていた弦を弾いた。
放たれた矢は、ミロラを後ろに庇う愛菜に吸い込まれるかのように飛んでいく。
「あうっ」
心眼で自分に向けて矢が放たれたのを理解したのだろう。愛菜が可愛い顔を青くして凍り付く。
だけど、彼女に矢どころか、指一本触れさせる気はない。
「ちっ、届けーーーー!」
僕は何も持っていない左手で愛菜に放たれた矢を掴み取る。
しかし、ホッとしたのもつかの間、愛菜は顔を引き攣らせる。
「黒鵜さん、後ろ!」
「隙あり! 今度こそもらった!」
どうやら僕が防ぐのは織り込み済みというか、初めから庇う行動を狙っていたみたいだ。
夏乃子から歓喜の声が上がる。
僕は右手の刀でそれを斬り飛ばそうとするのだけど、そこへ右から攻めてきた快の槍が突き込まれる。
ダメだ。避けたら愛菜に当たる......ちくしょうーーーー!
歯噛みしつつ、致命傷になる可能性の高い快の槍を右の刀で弾き、夏乃子の放った矢を左手で止める。
だけど、掴むほどの余裕はなく、手のひらで受け止めることにしたのだけど、僕の判断はどうやら甘かったみたいだ。
薄々は気付いていたいけど、やはり勇者達が使っている武器は、ただの武器ではなかった。
「ぐあっ! くそっ、なんて威力だ......」
放たれた矢を受け止めた僕の左手が、まるで爆発したかのように弾け飛んだ。そう、バラバラに......
これこそが勇者の力であり、勇者が持つ武器なのだろう。僕の左腕は、手首の先からきれいさっぱり消えてなくなった。それは消滅したのではなく、矢の威力で粉々に砕け散ったのだ。
おまけに、それで止まらなかった矢は、僕の左肩に突き立った。
いてーーーーーー! くそっ、あのバカ女! つ~か、やることが汚いよ......どっちが非道なんだよ!
あまりの苦痛に心中で罵声を吐き出すのだけど、どうやら左手で勢いが死んでいた所為か、肩が吹き飛ぶことはなかった。
だけど、僕の怪我を見た氷華が烈火の如く怒りを爆発させる。
「黒鵜君! 許さない! あの女、黒鵜君の優しさを利用して......絶対に許さないわ」
宙に舞う氷華が夏乃子に指を突きつけて罵り声を放つと、一凛が怒りに震えながら自分が戦えないことを悔しがる。
「黒鵜! あのクソアマ! 黒鵜になんてことを......くそっ! なんでこんな時に戦えない身体なんだ......いや、この身体でも......」
「黒鵜さん、大丈夫ですか!? 直ぐに治療を......」
激怒している氷華と一凛が毒を吐き散らしているのだけど、そんな二人を他所に、愛菜は治癒をするために近づいてくる。
しかし、それは最悪の選択なのだ。だから、僕は即座に声をあげる。
「来ちゃダメ! 治療はいい。直ぐに逃げて。ここは僕が何とかする。急いで逃げて」
「でも......黒鵜さんを置いてなんて......」
「お願いだ。このままじゃ、みんな死んでしまうんだ。僕は死なないから。だから、お願い......」
「逃がすかよ! みんな始末するに決まってんじゃね~か」
あまりにも不利な状況だと感じて、僕が愛菜に懇願した。しかし、彼女は首を横に振りつつ渋い返事をしてきた。
そこへ、そうはいくかと快が襲い掛かってくる。
ただ、その言葉は僕の闘志に火をつける。
「ふざけんな!」
胸の奥から湧き上がってくる怒りが、僕に力を与えてくれる。
左手や左肩の痛みすら忘れるほどにムカついた僕は、鋭く放たれた突きを蹴り上げる。
「な、なに!?」
僕のことを虫の息だとでも思っていたのか、仕掛けた槍の攻撃を簡単に蹴飛ばされた快は、驚きの所為か動きが止まる。
「なにじゃないんだよ! みんなに手を出させる訳ないよね! あんたが逝きなよ!」
完全にブチ切れている僕は、普段なら口にしないような言葉を吐き出しつつ、右手の刀を横なぎに振るう。
「ぐあっ! く、くそっ!」
ちっ、浅かった......
咄嗟に後ろに引いた快が、鮮血を撒き散らしながら呻き声をあげる。
しかし、怒りで痛みを忘れていても、運動能力は酷く低下していたみたいだ。
僕の攻撃は見事に炸裂したのだけど、奴の身体を両断することなく終わった。
ただ、奴の仲間は焦った様子で声をあげる。
「快! 大丈夫!? よくも!」
「快くん、下がって!」
輝人が慌てて快の前に立ちはだかり、大剣を向けたまま僕を睨みつけてきた。
続いて、一番後ろに居た優里奈が透かさず前に出てくる。
恐らく、治療をするつもりなのだろう。
そして、夏乃子の怒りは途轍もないものだったみたいだ。その表情は般若と化し、すぐさま弓を構えると矢をかけた弦を引き絞った。
「快に、なんてことを......絶対に許さないわ。覚悟しなさい! 輝人、どいて! 私が射殺してやるわ」
あれ? 人殺しはダメなんじゃなかったっけ? まあ、人間の身勝手なんてそんなものか......
「いや、ボクがやるよ!」
僕が人間の弱さについて再認識していると、大剣を僕に向ける輝人が、今にも弓を放ちそうな夏乃子に制止の声をかけた。
もしかしたら、彼女に殺しをさせたくないと思っているのかもしれない。
だけど、僕にとってはどうでもいいことさ。
彼等が騙されてノコノコとやってきているのは理解している。だから、彼等が本意でないということも理解できる。でも、そんな事情なんてどうでもいいのだ。あのバカ女は愛菜を狙った。その愚かな事実は、僕の中にある起爆スイッチを押す行為となったのだ。
優里奈から治療を受けている快を他所に、優しげな童顔を真剣な表情に変えた輝人が歩み出ると、大剣の切っ先を僕に突きつけてきた。
「ねえ、ボクとの一騎打ちにしない? 負けた方が大人しく捕まる。その方が健全だよ」
輝人は大剣を僕に向けたまま己が提案を口にした。
しかし、そんなものにうんと言えるはずもない。
なにしろ、捕まったらどんな仕打ちを受けるかなんて分かったものではないのだ。
「あなたは真面そうに見えたんだけど、世間知らず......いえ、この世界の状況を理解してないんだね」
そう、日本という安全な世界で生きていた者は、誰だってこの世界では世間知らずなのだ。
ただ、彼はまだまだ最悪の光景を目の当たりにしたことがないのだろう。人が持つ欲望がどれほどに醜いかをいまだ理解していないように見える。
だから、愛菜達が捕まったらどうなるかなんて、全く想像もしていないのだ。
見るからに年下である僕の言葉で少しばかり気分を害したようだ。輝人は頬をヒクヒクと引き攣らせている。
「それはどういうことかな?」
「聞かないと分かんない? 愛菜や魔族の者達が捕まれば、タダでは済まないことも想像できないんだよね?」
「うっ......そ、そんなこと......」
「いえ、それだけあなたが純粋なんだよ。別にそれが悪いと言ってる訳じゃないんだ。ただ、僕には分かるんだよ。あれほど堂々と嘘を吐くような輩に愛菜達を引き渡したら、どんな目に遭うかなんて火を見るよりも明らかだ」
僕の言葉で、今更ながらに戦いの敗者がどうなるかを考えたようだ。
なんとも幸せな勇者で、僕としては羨ましい限りだ。
恐らく、日本で幸せな人生を歩んできたのだろう。
そんな幸せ者が、更に夢物語のようなことを口にする。
「まさか......いや、それはボクが責任を持とう。何があっても彼女達に手出しはさせないよ。というか、彼女でいいんだよね?」
「あなたを信用しない訳ではないのだけど、あなたにそれほどの力があるの? ん?、ああ、僕等に関しては見ての通り、あの嘘つき女が言うような魔族ではないし、この瞳は事情がってこうなってますけど、れっきとした日本の中学生......いや、本当ならそろそろ高校生になっていたころかな?」
「誰が嘘つき女ですか! 魔族が人間を虐げているのは事実です。勇者様、惑わされてはなりません。奴らは簡単に人を騙し、犯し、殺すのです」
僕が輝人と話をしていると、嘘つき女――トリニシャが割って入る。
まあ、それも当然といえば当然だ。なにしろ、僕が話をすればするほど、奴の言葉が嘘だとばれてしまうからだ。
本当なら、ここで輝人に地球の話でもして、僕等が魔族でない証を立てても良かったのだけど、嘘つき女の言葉にカチンときた僕は、それどころではなくなる。
「嘘つき女は黙っててよ! だいたい、あんた達が送り出した偵察隊――ここに転がってる屍だけど、何をしようとしてたか知ってるの?」
「ん? それって......君が殺した者達のことだよね? それが――」
「聞いてはなりません。魔族に耳を貸してはなりません。奴らの言葉は全て嘘です。それを魔法で本当のように思わせるのです」
「そうよ! そんな奴の言葉なんて信用できないわ」
輝人が思わずといった様子で僕の言葉に食いついてきたのだけど、すぐさまトリニシャが彼の耳を嘘で塞いでしまう。
おまけに、夏乃子までが怒り露わに吠えている。
愚かだね......あまり人のことは言えないけど、やっぱり人間って愚かだよ......ああ、嘘つき女とバカ女は極めつけだけどね。
愚かな二人を見やった僕は、もはや呆れて肩を竦めるほかない。
しかし、輝人は少しばかり思うところがあったのだろう。引き締めていた表情を少しだけニヤリと歪めた。
「どうやら、君は本当に日本から来たみたいだね。名前はなんていうの? ああ、ボクは
「僕は黒鵜与夢......黒鵜です。それを分っもらえたのなら戦いを止められませんか?」
少しだけ希望の光が見えたかと思えたのだけど、残念なことに彼は渋い表情で首を横に振った。
「ボクにも色々と事情があるんだ。だから、一騎打ちで決めないかい? 悪いようにはしないからさ」
「そうですか......分かりました。その代わり死んでも知りませんよ?」
「あはははは。そうだね。でも、ボクは負けないよ」
僕は輝人の提案に頷く。別に輝人の人間性に感動したわけではない。冷静に判断して、一騎打ちの方が助かる可能性が高いと判断したのだ。
こうして不本意ながらも、僕は異世界アイノカルアで勇者と一騎打ちで戦うことになるのだった。
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