22 本領発揮
会いたくもない者と出会って、思わず凍りついてしまう。
ただ、右側に立つ
左側では、
どうやら、日陰という僕の隠されたあだ名を知らないのだろう。
まあ、隠されているのだから知らなくても当然か……いや、永遠に知って欲しくないんだけどね。
なぜなら、そのあだ名は蔑みの言葉だからだ。
だから、表立って口にする者は居ない。
「日陰って、暗くて、なんか嫌な感じがするよね」
「そうそう、なんか、裏で変態的なことばっか考えてそう」
「なんかさ、盗撮とかしてそうじゃない?」
「うわ~! 私、オカズにされてたらどうしよう~」
そんな会話が行われた場合、その日陰とは、陽の当らないという意味を込めて僕のことを話題にしているのだ。
まあ、それを口にする者達からすれば虐めのつもりではないのだろう。
だから、耳にすることがあっても、知らんぷりを決め込んでいた。
もちろん、心中で「お前がオカズになるか! 僕は美食家だ! 手が汚れるじゃないか!」なんて毒を吐いていたりもしていた。
そんな訳で、そんな過去を知らない一凛は、日陰と聞いてもピンとこなかったのだ。
ただ、その女子二人は、僕のみならず一凛の話題にも触れた。
「うわ、脳筋もいるわよ。てか、日陰に黒猫とか似合いすぎだっつ~の」
「日陰と脳筋の組み合わせって、なんかウケる」
いやいや、ウケるのは君達の脳みその出来だよ。他人のことを
心中で罵りながら、見るからに頭の軽そうな――胸も、尻も、何もかもが軽そうなクラスメイトの女子に冷やかな視線を向ける。
だけど、直樹達がそれどころじゃないことを彼女達に思い出させたようだ。
「何だ? 知り合いなのか? いや、それよりも、どこだ! どこに魔物が出たんだ?」
首を傾げていた直樹は、慌てて話を本題に戻した。
「あっ、み、南側です」
「しょ、正面玄関のところです」
直樹から問われて、危機迫る状況を思い出したのか、頭の軽そうな――全てが軽そうな二人のクラスメイトは、慌てた様子で魔物が現れた場所を告げる。
すると、今度は蔵人がその二人に声を掛けた。
「なんの魔物だ? 魔物の規模は?」
「ん~よくわかんないんですけど~、くまっち? いっぱい?」
「沢山いましたよ。うわ~って! リラックマみたいなやつ?」
くまっち……リラックマ……さすがだね……頭が悪すぎて、笑いが出そうだ。
危機的状況を感じさせない元クラスメイトのバカさ加減に呆れるのだけど、隣では一凛がクスクスと笑っていた。
どうやら、それは蔵人にとっても同じようで、要領を得ない二人の発言に溜息を吐いていた。
その有様が可笑し過ぎて、思わず吹き出しそうになる。だけど、横から氷華の肘打ちを喰らってしまった。
ただ、笑いを咎めてくる彼女は、右手で自分の口を押えている。
ちぇっ、自分だって笑ってるじゃん……てか、一凛なんて完全に笑ってるよ?
一凛を放置した挙句、自分のことを棚上げしている氷華に不満を感じる。
そんなタイミングで、直樹が話し掛けてくる。
「君達はここで大人しくしておいてくれ、オレ達はちょっと片付けてくる」
そう言うと、彼等は有無も言わさずに南玄関側に向かって走り出す。
すると、二人のクラスメイトもその後を追う。
「あ~ん、直樹さ~ん」
「直樹さん、まって~」
甘ったるい声を放つ元クラスメイトが立ち去り、氷華と一凛に視線を向ける。
ところが、そこに二人の姿はなかった。ただ、クスクス笑う声だけが聞こえてくる。
それを怪訝に思って二人を探すと、彼女達はソファーの上で笑い転げていた。
そして、何を思ったのか、一凛はケラケラと笑いながら問い掛けてくる。
「あははははは、なあ、脳筋って、能無しよりはいいよな? てかさ、あいつ等、胸もないし、ダイエットで何もかもが軽量化されたんじゃね?」
「ぷふっ、あはは。そうだね。その通りだよ。日陰だって、能無しよりはマシだよね。あはははははは」
「だよな。くくくっ。あはははは」
一凛の毒舌が面白くて笑いが込み上げてくる。
どうやら、彼女は自分の言葉がツボに嵌ったのだろう。高らかに笑い始めた。
ただ、氷華は笑いつつも真面目な話題を口にした。
「ねえ、覗きに行ってみない? どんな魔物か興味があるし」
「そうだね。僕も彼等の戦い方を見てみたいかな」
「おお、それ、面白そうじゃん」
笑い転げている僕等は、珍しく全員の意見を一致させ、こっそりと南玄関へと向かった。
南玄関は、このショッピングモールの正面玄関だ。
そこから繋がる長い通路は、そのまま南千住駅へと直結している。
そんなメインの玄関なのだけど、広いことが災いしたのか、いまや魔物の通用口となっているようだ。
「くそっ、オレ達の能力じゃ止めるのが関の山だ」
「直樹はどうした。まだ来ないのか?」
「くそっ、喰らえ!」
「おお~直樹! まってたぞ」
「遅いぞ!」
「や、やった。直樹さんがきた」
氷の
床に穴を穿つ者。
夏の風物詩であるかのような火の玉を投げつける者。
石の弾を撃ち放つ者。
その魔法を放つ者達は、あの四人組やクラスメイトが口にしていた能力者なのだろう。
沢山の者達が魔物に向けて様々な魔法を放っていた。
ただ、その種類は多々あるけれど、興味を引くほどの攻撃は無かった。
というのも、その威力はどう見ても、最弱の魔法――水龍に毛が生えた程度であり、魔物もウザそうにはしているものの、全くダメージを受けたように見えないからだ。
強いて
そんな貧弱な魔法で立ち向かっていた者達は、直樹が到着した途端に引き攣らせていた顔を緩めた。
「すまない。直ぐに片付けるぞ。みんな、もう少し頑張ってくれ」
「でも、数が多いですね。三十匹はいますよ」
熊の魔物がまるでシャケの収穫時期だと言わんばかりに、ワラワラと玄関から入ってくる。
玄関には既にガラスがなく、何やら様々な物でバリケードを設置しているのだけど、力の強い熊の魔物は、それを易々と蹴散らして侵入してくるのだ。
そんな熊の魔物に、直樹と蔵人は銃を向けた。
その銃は、知識のない僕には分からないけど、ライフルのような形状だった。
後で知ったことだけど、国産の自動小銃とのことで、89式5.56mm小銃と呼ばれる自衛隊御用達の銃らしい。
ん? 銃で戦うのかな? てか、弾薬が無くなったらどうするんだろう?
色々と疑問を感じていると、直樹と蔵人の二人は小銃を熊の魔物に向け、立て続けに連射した。
その途端、銃口からは
そこで違和感を抱く。ただ、それは僕だけではなかったようで、隣から氷華の声が聞こえてくる。
「ねえ、あの銃って、静かね。本当に撃ってるのかしら?」
そう、彼女が言う通り、熊の魔物は次々に鮮血を散らしながら倒れているのだけど、全く射撃音が聞こえてこない。
「火花は出てるんだけど……サイレンサーなのかな? そんな筈はないと思うけど……」
その不可思議な光景に首を傾げる。すると、一凛が肩を竦めて別のことを口にした。
「な~んだ、熊太郎じゃんか、あんなの騒ぐほどじゃね~よな」
まあ、彼女にとっては一撃必殺で倒せるような魔物だ。そう思っても仕方ないだろう。
数についても割と多いけど、氷華と一凛の二人が片付けた数には遠く及ばない。
「まあ、こんなもんじゃない? というか、もういいわ。この程度なら気にすることもないし、さっさとここから出ましょ」
直樹達の戦い振りが期待外れだったのか、氷華は興味を無くしたみたいだ。素っ気ない表情で、そそくさと立ち去ろうとする。
「そうだね。熊ばっかだし、これといって面白いネタも無かったね」
「てかさ、あれ見てたら、身体を動かしたくなってきたぞ」
氷華の意見に同意すると、今度は一凛が危険な言葉を口走り始めた。
途端に、氷華は顔を引き攣らせる。
「ちょ、乱入するなんてやめてよね」
「そうそう、早くここから離れたいんだよ。どうも、ここの空気は僕に合わないんだよね」
正義感の強い直樹達の性格のみならず、ここには嫌いなクラスメイトまで居るのだ。さっさと逃げ出したくなるのも仕方なだろう。
その気持ちを察したのか、一凛は後ろ髪を引かれるような表情で戦闘を眺めつつも、それもそうだなと、肩を竦めて後に続こうとする。
その時だった。心臓を押し潰すかのような
「アンギャーーーーーーーーーー!」
やっと熊を殲滅したところだというのに、突如として正面玄関から身体を揺さぶる震動が伝わってきた。
「えっ!? 竜? まさか、昨日の?」
「いえ、今度は本物の飛竜ぽいわ」
腹にまで響くような咆哮を聞き、慌てて振り返る。
そう、昨日の巨竜なら、一目散に逃げ出す必要があるのだ。
だけど、どうやら思い過ごしだったようだ。顔を引き攣らせつつも状況を確認した氷華が、その観察結果を口にした。
「なんだ。飛竜か……よかった」
「そうね。飛竜ならそれほど問題じゃないし」
「おいおい、二人とも少し麻痺してるぞ。いや、病んでるのか……巨竜じゃないけど、飛竜だって脅威だからな」
僕と氷華のやり取りに呆れたのか、一凛が両手を腰に当てた姿勢で異常性に突っ込んできた。
どうやら、これまでの戦いから少しばかり麻痺しているみたいだ。
それを証明するかのように、正面玄関では大変なことになっていた。
熊の魔物と戦った勇気と威勢はどこに行ったのやら、直樹と蔵人は顔を引き攣らせつつも必死に銃弾を撃ち放っているものの、他の能力者は腰を抜かしたのか、誰もが尻餅を突いている。
まあ、でも、その気持ちは解るよ。初めて僕が戦った時も似たようなものだったし……まあ、竜を前にして平然としていられるのは、ココアくらいだろうね。
己が腕の中でスヤスヤと寝ているココアに目を向ける。
「あちゃ~、こりゃダメだな」
意気消沈といった光景を目にして、一凛が肩を竦めつつ首を横に振りつつも、チラリと視線を向けてきた。
すると、氷華もウンザリとした表情を向けてくる。
「どうするの?」
彼女は、助けるのか、無視するのか、二択を突き付けているのだ。
相手は好きになれない者達だけど、別に悪い人達じゃない。ああ、あの元クラスメイトはゴミだけど……
ただ、知らない処で死んでもらうのは構わないのだけど、目の前で死なれるのは少しばかり心が痛む。
色々と思案した結果、自分が導き出した判断に脱力して溜息を吐く。そして、それを氷華と一凛に伝える。
「コーラ分くらいは働かないとね……」
「私は飲んでないわよ?」
氷華は即座に冷たい視線を投げかける。
もちろん、それはこちらにではない。だから、涼しい顔でそれに
「僕も飲んでないよ?」
すると、いつの間に目を覚ましたのか、ココアも冷たい眼差しを向けた。
「うがっ……ちょ、ちょっとまて! 他人の所為にするのは良くないぞ。出された物は頂かないと失礼だろ?」
二人と一匹から冷たい眼差しで串刺しにされた一凛は、両手を広げて己が持論を主張した。
もちろん、だからと言って彼女一人に何とかしろと言うつもりはない。
ただ、ちょっと彼女を揶揄っただけなのだ。
見事に嵌った彼女の反応を楽しみつつ、飛竜を片付けるべく軽い調子で脚を踏み出した。
竜の咆哮が建物内に響き渡る。
室内と言うこともあって、その咆哮は耳をつんざくほどだ。
それ故にか、腹の底から震えをもたらすその咆哮で、それまで必死に熊太郎――
逃げることすら
熊太郎に圧倒的な力の差を見せつけていた直樹と蔵人の二人も、自分達の攻撃が無意味だと知ると、顔を引き攣らせて凍り付いていた。
あ~あ、こりゃだめだな……
飛竜の咆哮を前に、完全に戦意喪失した面々を目にして肩を竦める。
ただ、不思議なことに、その咆哮は以前ほど脅威に感じられなかった。
その耐性は巨竜と戦ったことによるものだと考えたのだけど、氷華と一凛にチラリと視線を向けると、少なくとも彼女達は脅威を感じているような表情をしていた。
あれ? なんともないのは僕だけ?
少しだけ首を傾げつつ、視線を降ろしてココアを見やる。
うむ、やっぱり、ココアもなんともなさそうだ。
大きな欠伸をしているココアを目にして、脅威を感じていないことを悟る。
それでも、氷華と一凛は尻込みすることなく前に出た。
この辺りは、実戦経験の
なにしろ、一度は怯んだ姿を見せたものの、一凛はそれを払拭するかのように飛竜に殴り掛っているのだ。
「おらーーーーっ! 喰らえ! メガトンパーーーーーンチ」
なんじゃそりゃ……てか、誰が正面から戦えって言ったんだよ……
「ちょっ、一凛! むちゃよ!」
どうやら、氷華も同じことを感じたのだろう。正面からパンチを繰り出す彼女を目にして顔を青くしている。
ただ、愚痴を零しながらも援護の魔法を放つ。
「ちょ、彼女の突撃癖はなんとかならないのかしら。もう、しょうがないわね。氷槍!」
なんだかんだ言っても、やはり仲間としての意識が働くのだろう。うん。素晴らしい。
一凛の攻撃は尋常ならざる速さなのだけど、飛竜にとっては対処可能なレベルだったみたいだ。奴は攻撃を喰らう前に太い尻尾の一撃を繰り出そうとする。
ただ、氷華の魔法攻撃が迫ってくるのを察知したのか、尻尾の攻撃をやめてその場から飛び退いた。
「デカい身体の癖して、逃げ足の速い奴だ」
「なんて素早いのかしら」
素早い動きを見せる飛竜に、氷華と一凛の二人が愚痴を零す。
どうやら、竜も種類によって特性がかなり違うようだ。
昨日の巨竜よりも速さでは上回っているように思う。
ただ、動きは多少早くとも、身体を覆う鎧は巨竜の比ではないはずだ。
「取り敢えず、脚を止めるんだ。あと、羽を狙おう」
「そ、そうね。そうだったわ」
指示を聞いた氷華が、少しだけバツの悪そうな表情を見せる。だけど、直ぐに頷くと、強攻撃ではなく範囲攻撃に切り替えた。
「これでも喰らいなさい! 氷雨!」
彼女が魔法を発動させた途端、何もない空間に無数の氷が生まれ、一気に飛竜へと降り注ぐ。
さすがに狭い室内だけに、それを避けることができず、奴はモロに氷の
だけど、魔法特性的に致命的なダメージを与えることはできない。
それでも、相手の動きを封じるのには成功した。
その証拠に、回り込んだ一凛が寒い名前のキックをぶち込んだ。
「ファイナルインパクトキーーーーーーーク!」
なんか、この前と名前が違うような気がするけど……てか、終わってないし……それは、まあ、いっか……
巨竜の時とは違い、飛竜は一凛のキックを喰らってよろめく。
やっぱり、防御力は格段に低いみたいだ。
予想通りだったことに満足していると、氷華の声が聞こえてきた。
「これだならどう! 氷撃!」
今度は、氷の礫ではなく、長さ一メートルくらいの矢となった氷が降り注ぐ。
その数は、以前よりも増えていて、一度の攻撃で十本くらいの氷矢が降り注ぐ。
「グギャーーーーーーーーーー!」
彼女の魔法は見事に飛竜の羽に命中し、次々と穴を穿っていく。
それでも致命傷にはならない。ただ、立て続けに放たれた氷撃での所為で、もはや宙を舞うことはできないだろう。
飛竜と言っても、こうなったら唯のトカゲだよね。あとは、慎重に片付けるだけだ。さて、どうやって始末するかな。
陸に上がった河童、もとい、まな板の鯉となった飛竜をどう料理するかと思案していると、これまでの戦いで何かを悟ったのか、氷華と一凛が視線を向けてきた。
その視線からすると、どうやら止めを刺せと言っているみたいだ。
彼女達の熱い視線を感じて一つ頷くと、左手でココアを抱き直し、空いた右手を突き出す。
一凛は飛竜の近くから飛び退き、氷華は足止めの弾幕を張る。
「さあ、終わりの時よ! 氷雨!」
大したダメージになる訳ではないけれど、雨のように降り注ぐ氷の礫を嫌がって、飛竜は腕や羽をばたつかせる。
そんな飛竜に向かって、止めとなる一撃を放つ。
「こんなところへノコノコとやってきた己の軽率さを呪うんだね。まずは一発目! 爆裂!」
めっちゃ余裕しゃくしゃくで、恰好良くキメの台詞を吐きながら爆裂の魔法を放つ。
今の僕なら一撃で終わらせることもできるだろう。ただ、場所が場所なだけに、周りの被害を考えて威力を落とした魔法で対処する。
一発目の爆裂が発動し、耳をつんざくような破裂音が響き渡る。
その轟音は、飛竜の咆哮よりも激しかったかもしれない。
誰もが、目を閉じ、耳を両手で塞いでいる。
当然ながら、予め予測していた訳ではなく、痛みに耐えかねての行動だろう。
そんな光景を眺めつつも、全く気にすることなくニヤリとニヒルな笑みを零す。
そして、二発目の爆裂を放つ。
フフフッ、見たか僕の力を!
もちろん、ニヒルな表情については、意図して作り出しているのだ。
まあ、他からそう見えるかは、あまり自信がない。
それでも、意識して格好良く魔法を放つ。
「さあ、これで終わりだよ。爆裂!」
二発目の爆裂魔法で、多くの者が泡を吹いていた。
当然ながら、氷華と一凛はその中に含まれていない。
僕の魔法を知っている彼女達は、彼等と違って心の準備が出来ているのだ。
薄暗い室内を振動さた爆裂魔法は、轟音が響き渡ると同時に赤き粉塵と生臭い血臭を撒き散らした。
その臭いに顔を顰めつつも、少しばかり冷や冷やしていた。
恰好つけたのはいいけど、これで飛竜が死んでなかったら恥ずかしいよね。
そう、思いっきりキメてみせたのだから、ここで五体満足な飛竜が襲ってきたら赤っ恥なのだ。
でも、ここでマーフィーさんが登場することはなかった。どうやらサボってくれたようだ。
「やっぱ、黒鵜の爆弾はすごいな。飛竜が挽肉になってんぞ。これならどこでも爆破できるぞ」
既に何度も見ているはずなのだけど、一凛が無残な姿となった飛竜を前にして感動している。
いやいや、爆弾じゃないから。爆裂だからね。僕を爆弾マンみたいに言わないで欲しいんだけど……
魔法使いというよりも、まるでテロリストのように言われて、少しばかり心外だと抗議したくなる。だけど、そこに割り込んできた氷華が、呆れた様子で追い打ちをかけてきた。
「でも、以前よりも遥かに威力が増してるし、そろそろ、この魔法も禁呪にした方がいいかも知れないわ。特にこんな室内だと危険極まりないもの。それでいいかしら」
両手を腰に当てた彼女は、こちらに視線を向けつつ、即座に規制をかけようとする。まるでR18違反チェックみたいだ。
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで僕ばっかり――」
さすがに、それは堪らんとばかりに反論しようとすると、ニヤニヤとした一凛が近くまでやってきた。
「そうだな。それが正解だろ。見て見ろよ」
彼女はこちらに視線を向けたまま、肩越しに自分の後ろを親指で指す。
どうやら、腰を抜かしていた者達を見ろということみたいだ。
彼女の言う通りに、ここの者達に視線を向けると、誰もが尻餅を突いたままの不格好な状態で後退りしている。
というか、半分くらいは意識を失っているようだった。
ただ、それに加わっていない二人――直樹と蔵人は未だに立っているものの、呆けた顔でこちらをぼんやりと眺めている。
すると、彼等に視線を向けた氷華は、それが可笑しかったのだろう。クスクスと笑いながら罵り始めた。
「いい気味よ! 人を子ども扱いして……自分達が最強だとでも思っていたのかしら。あの時は煮えくり返るくらいに腹立たしかったわ。黒鵜君が立ち上がらなかったら、魔法をぶっ放してたかもしれないわ」
「ああ、あん時か。あれはムカついたよな。ウチはああいう先入観の強い奴って嫌いなんだよな。だから、黒鵜がきっぱり言ってくれて、清々したぞ」
そうだったのか……それで文句を言わなかったんだね。
直樹と蔵人の言葉が気に入らなくて席を立ったことを申し訳ないと思っていたのだけど、彼女達が文句を言わなかった理由がやっと分かった。
彼女達も同様に、彼等の口振りと態度が気に入らなかったのだ。
まあ、彼等の言動は正義感からだし、別に責める気はないのだけど、やはり僕等が子供でも話はきちんと聞いて欲しい。
でも……そういう意味では、僕等三人は変わり者なのかもね……
いまだ現実に復帰しそうにない直樹達を眺め、続いて氷華や一凛に視線を向けた後、僕は自分達の異常性について考え始めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます