21 正義感
一凛の耳は忠告を聞き届けない癖に、実際は想像以上に高性能だった。
彼女が駆け付けた先には、違えることなく声の主である女性がいた。
そして、オマケを付け加えるなら、悲鳴だと聞き取った氷華の耳も素晴らしいと言っておこう。
その声の主は野獣に襲われる小鹿のようにガタガタと震えている。
ただ、襲っていたのは野獣で間違いないのだけど、下種の部類に属する野獣の方だった。
「や、やめて!」
「うっせ~、大人しくしてりゃ~、手荒にしね~よ。直ぐに済ませるさ。こちとら溜まってんだ」
「クククッ、こんなところに独りでノコノコとやってきたお前が悪いんだぜ」
「いいから、さっさとやっちまおうぜ。他の奴等が
「ちがいね~、うほ~~タマんね~~~久しぶりだぜ」
既に服が引き裂かれ、半裸となった一人の女性に、二十台半ばくらいの四人の男達が群がる。
最低なのは事実だけど、早くもズボンを下ろしている男もいて、あまりのがっつきぶりに呆れてしまう。
それでも、まあ、堪らんのは分かる気がする。だって、爆乳だもの……でも、これでお預け喰らったら、めっちゃ溜まるんだろうな……いたっ、こら、氷華、蹴るな!
お尻を摩りながら見やると、彼女の瞳が空気を読めと言っていた。
わ、分かってるって……別に下心なんてないんだってば。
無実を態度で表しながら、改めて男達を観察する。
奴等は一見して人相が悪く、いかにもチンピラ風に思えた。
なんか怖いんだけど……
それは条件反射なのだろうか、思わず尻込みしてしまいそうになる。
そう、大人というだけで、どうしても敵う相手ではないという先入観を持ってしまうのだと思う。だから、無条件に
ところが、一凛は全く以て例外だったみたいだ。
「ねえ、お兄さんたち、なにやってんだ? ウチも混ぜてくれよ。てか、堪らんって、溜まってるから、こんなことやってるんだろ?」
彼女は曲がり角から姿を現すと、恐れることなく四人の男に向けて軽口を叩いた。
もちろん、本当に彼等と一緒にエッチなことをする気ではないだろう。飽く迄も、彼等を
彼女に続いて僕と氷華も姿を見せる。
すると、
「うおっ! な、なんだ、ガキかよ。脅かすなよ、ボケッ!」
「ちっ、ビックリさせやがって」
「いや、オレはこのガキでもいいぜ。いや、あっちの嬢ちゃんでもいいな」
「ああ~、ガキが出てくるから、こいつの悪い癖が出やがった」
取り敢えず、ボケはお前達だと言い返してやりたいんだけどさ、ちょっとビビるよね……みんな
四人の男は唐突に声を掛けられたことでびくりとしたのだけど、声の主が少女であると知ると、すぐさま凄みを利かせた声で悪態を吐き始めた。
中には低年齢好き――ロリコン男も居たようで、あからさまに欲情的な笑みを向けてきた。いや、その男の嫌らしい視線は、一凛から氷華へと移った。
どうやら、僕の姿は眼中にないらしい。
自分が無視されたことよりも、彼女達に向けられた腐った視線が
四人の男――ああ、もう奴等でいいや。
奴等の言葉は、戸惑っていた僕の心を怒りで塗り替えさせた。
怒りの理由は自分でもよく理解できないんだけど、恐らくは仲間意識がそうさせたんだと思う。
ちっ、下種だね……こりゃ、少し……いや、かなり
身の内でメラメラと燃え上がる怒りを感じながら、奴等を懲らしめるための魔法を考えるのだけど、そこで思考が停止した。
えっ? ないじゃん、辛うじて使えるのって水龍くらい? でも、水龍じゃ威力がなさすぎるよね……
今更ながらに対人魔法を思い浮かべて、使える魔法が全く無いことに気付く。
というのも、どの魔法も威力があり過ぎて、懲らしめるどころか、その気がなくても
今更ながらに対人スキルがないことに気付き、隣の氷華にこそこそと話し掛ける。
「ねえ、氷華って対人魔法もってる?」
「えっ!? あるわよ? ああ、黒鵜君は魔法禁止ね。ショッピングモールを吹っ飛ばされたら敵わないわ」
「うぐっ……」
彼女はどうなのかと尋ねてみたのだけど、どうやら
「じゃ、どうするの?」
「私と一凛だけでどうとでもなるわよ」
「でも、相手も魔法が使えるかもよ?」
「その時は、その時よ」
その時にどうするのか、不安でしょうがない。
それに、この怒りをぶつける先がなくなって、とても気持ちが悪い。それこそ、濡れたパンツを
「なにコソコソやってんだ。てか、なんだその恰好!」
「ギャハハハハハハ、新手のラッパーか?」
「あれって、軍服か?」
「何言ってんだ。あれは自衛隊の戦闘服だ。まあ、どこから引っ張ってきたのかは知らんが、サイズが全然あってなくて、ちんちくりんだけどな」
新手のラッパー……ちんちくりん……むかーーーーーーーーー!
唯でさえ、行き場のない怒りを持て余しているのに、奴等は追い打ちを掛けやがった。
そう、ぷっつーーーーんと切れちゃったのですよ。
「黙れ! 下種野郎! 巨乳は好きだけど、お前等にくれてやる巨乳なんてね~! 喰らえ!」
「あ、だめっ! てか、何言ってるのよ、バカっ! 死になさいよ!」
留まることのない怒りは、奴等が
途端に、氷華の声が聞こえてくるのだけど、怒りで燃え上がっている所為で全く届かない。それが罵声だったにしても聞こえていないので問題なしだ。
「風刃!」
魔法発動トリガのワードを口にすると、目には見えない風の刃が奴等を襲う。
だけど、風の刃は奴等の頭上を通過したかと思うと、後ろに放置されている裸のマネキンを寸断し、ショーケースのガラスを切り裂いた。
スッパリと切り離されたマネキンの首が床に転がり、まるで苦言を申し立てるかのように派手な音を立て、切り裂かれたガラスが遅れてバックミュージックの如く効果音を響き渡らせる。
「きゃっ!」
「うわっ! なんだ、なんだ」
「ガラスが割れたのか?」
「マネキンの首が? 切り落とされた?」
「ビックリさせやがって」
後ろで起こった派手な音に驚き、巨乳女性が悲鳴を上げると、奴等もすぐさま振り返って驚きの声を上げた。
ただ、その動作で、奴等の髪の毛がパラパラと床に落ちる。
「えっ!?」
「髪? なんで髪?」
「うわっ、お前、河童になってるぞ」
「お前こそ、一昔前のジダンみたいだぞ」
奴等は己が髪が切り落とされたことに気付き、顔を引き攣らせて騒ぎ始める。
そう、風刃の一撃は的を外した訳ではない。カミソリの如く奴等の髪を剃り上げてやったのだ。
実のところ、ワイルドボアの解体で散々と使ったお陰で、風刃の操作能力は桁外れに上昇していた。
ああ、奴等の頭から血が
「ちくしょう! お前の仕業か!」
「このガキ、ぶっ殺してやる」
「ま、まて、こ、こいつ、能力者じゃないのか?」
「まてよ。こりゃ、まずいぞ。どうする……」
能力者? もしかして、ファンタジー化で魔法を使えるようになった人のことかな?
奴等の中の二人が威勢よく足を踏み出すのだけど、直ぐに残りの二人が制止の声を上げた。
どうやら、魔法攻撃を受けて怯んでいるみたいだ。
だけど、こっちはカンカンに怒っているのだ。気にすることなく罵声を吐きつる。
「いい歳して、最低な人達だね。この炎獄の魔法使いである僕が、地獄の業火で焼き尽くしてあげるよ」
「いたっーーーーーーーー! く、黒鵜君……」
「ちょ、ちょ、黒鵜、この状況で笑わせるなよ。ちょっとは空気読めよな」
「ぷぷっ!」
「
「
「今時、こんな奴が居たんだ……」
「てか、炎じゃなかったし……」
怒りで少しばかり興奮しすぎたみたいだ。思いっきり掘っちまった。マントルに届くほどの墓穴を掘ってしまった。
氷華は頭を抱えて座り込み、一凛は腹を抱えて床に転がった。
くそっ、乳揉んじゃうよ!? このホルスタイン!
もちろん奴等は、嘲り、笑い、バカにしていた。
だけど、それは奴等にとって墓穴となる。そう、奴等の愚かな行為は、さらなる起爆装置のスイッチをポチっとすることになってしまったのだ。
「だったら見せてあげるよ! 続きはあの世で楽しむといいよ!」
今世紀最大の怒りに自制が利かなくなり、右手を奴等に向けて伸ばす。もちろん、何もかもを焼き尽くすためだ。
ところが、その途端、頭を抱えて
「黒鵜君、ダメ! それだけはダメ! 何もかもが灰になるわ」
彼女は焦土の魔法が放たれると気付いたのだろう。
それは間違っていない。今は身の内で燃え上がる怒りの炎を吐き出したくて辛抱堪らないのだ。
ああ、堪らないといっても、決して、奴等のように下品な行為ではない。
「黒鵜、すまん。笑って悪かった! だから、
慌てて立ち上がった一凛が顔を引き
「うるさい、僕にだって我慢の限界があるんだ!」
最早、何もかもが燃え尽きるしかないのだ。己が心は今この時も焼き払えと言っている。
それなのに、バカな男の一人がさらに
「やれるもんならやってみろよ! どうせ、張ったりだ。ほら、厨二小僧、やってみろよ」
「言われなくてもやってやるよ。後悔はあの世でするんだね。燃え尽きろ、この下種野郎! 焦――」
その時だった。抱き着いていた氷華が、唇でワードを止めた。
そう、何を考えているのか、彼女は突如として口付けをしてきたのだ。
えっ!? なに、これ!? もしかして、キス? ファーストキス? ファーストキーーーーーーーース!
完全に混乱してしまった。だって、初めてのキスだもの。それも、性格はちょっとアレだけど、めっちゃ可愛い氷華とのキスだもの。混乱しない方が無理というものだ。
「何やってんだよ! このガキども! オレ達を舐めてんのか?」
「あ~ん、なんだそれ、くそムカつく。だめだ、やっちまおう」
「そうだな。女、お前はそのガキの前で犯してやるぜ」
「オレの前で、イチャイチャしてんじゃねーーーーーー!」
とっても溜まっているのだろう。ラブシーンを見せつけられて、奴等が発狂し始める。
だけど、焦った様子の一凛が忠告する。
「あんたら、今のうちに逃げろよ。マジで死にたいなら別だけどな」
「黙れ! ボケっ! お前も犯してやるから待ってな」
せっかくの心遣いは、奴等に届かなかったようだ。逆に
その時だった。後方から慌ただしい様子が伝わってきた。
途端に、奴等は苦虫を噛み潰したような表情となり、毒を
「くっ、やべっ。気付かれたか」
「ガラスの音か……全部、あのガキの所為だ」
「ちぇっ、くそっ、お前等、絶対に犯ってやんよ」
「覚えてろよ! 次は唯じゃ済まさんぞ」
奴等は捨て台詞を吐くと、慌ててその場から逃げ出した。そして、それと入れ替わるようにして、後方から声が掛かる。
「君達は誰だ!?」
これこそがショッピングモール事変の始まりとなる切っ掛けだった。
人工の皮で造られているであろう四人席に、僕等は
もちろん、僕等というのは、氷華と一凛を加えた三人だ。
ああ、失礼、ココアは膝の上で丸くなっている。
眼前には大きなテーブルがあり、まるでドリンクバーで用意したかのような飲み物が置かれている。
ガラスのコップに入ったそれは、黒色でシュワシュワと泡を立てている。
当然ながら、それは腐っている訳ではなく、飲み物に含まれた炭酸であり、俗に言うコーラという飲み物だ。
ブランドについては定かでないのだけど、多分、缶であれば赤い容器に包まれている飲み物だろう。
ファンタジー化の前であれば、それほど気にするほどのこともないのだけど、現在の状態を考えると、この飲み物を出してくれるだけで、彼等の状況が分かるというものだ。
なにしろ、どこも物資が不足しているはずだからだ。
特に、食べ物や飲み物に関しては、そう簡単にご馳走する訳にもいかないだろう。
ふむ。惜しむ様子もないし、まだ余裕があるのかな?
プチプチと泡を弾けさせているコーラを眺めながら、目の前に居る者達の状況を察した。
因みに、外の明るさが入ってきているとはいえ、薄暗い状態となっている店舗内のお陰で、縦割れとなっている左目の瞳孔は、暗い場所にいる猫のように真ん丸となっているようだ。てか、氷華がそう言っていた。
そのお陰で、周囲の者に左目のことを追及されることはないだろう。
ただ、今後のことを考えると、何らかの対処が要るかもしれない。
それでも、眼帯を着けるのだけは避けたいと思っていた。
なんといっても、眼帯なんてつけると、それだけで厨二扱いされそうだからだ。
「それにしても、よく生きてここまで辿り着けたね」
目の前には二人の男が座っている。
二人とも二十代後半だろうか、縦割れの瞳を以てしても、彼等の年齢を特定するのは困難だ。
ただ、どちらも比較的整った顔をしている。いや、声を掛けてきた方に至っては、二枚目と言っても差し支えないだろう。
きっと、めっちゃモテるんだろうね。う~ん、イケメンなんて嫌いだ。
不満はさておき、現在、ショッピングモールの一階にあるフードエリアに居る。
このエリアは、建物の東側にあり、広い空間に沢山の椅子やテーブルが置かれ、周囲にはファーストフードのお店が並んでいる。
当然ながら、そこで働く人は居ないし、メニューを注文する客もいない。
完全に廃墟と言っても過言ではないだろう。
胸の大きな女の人……ああ、この場合、胸の大きさは関係ないのだけど……
その女性を襲っていた四人の男を懲らしめるつもりだったのだけど、奴等はさっさと逃げてしまい、その後に、別の男達が現れたのだ。
そして、そこで声を掛けてきたのが、目の前に座る
彼は自衛隊の戦闘服を身につけていたのだけど、恐ろしくサマになっている。まあ、本物の自衛官なので当然かもしれない。
ただ、迷彩柄の戦闘服がサマになっていることが、無性に腹立たしく感じる。
それはそうと、座り込んでいた巨乳女性は直樹に抱き着くと、男達に襲われていたことを告げた。すると、直ぐに状況を悟ったのか、直樹は頭を下げてきた。そして、お礼をしたいと言われて、ここ――オープンスペースのフードコーナーにノコノコとやって来たのだ。
「その服はどこで手に入れたんだい?」
僕の着ている服が正規の戦闘服であることに気付くと、直樹は少し慌てた様子で問い掛けてきた。
ただ、それに答える前に、彼の隣に座った
「階級章からすると、恐らくは木下二等陸曹のものです」
「木下二等陸曹は、確か……集合住宅街に向かったはずだよな?」
「はい。でも、連絡が取れなくなって、もう一ヶ月になります」
「そうか……木下さんはどうなっていた?」
部下である蔵人との会話を終わらせると、直樹は少し寂しそうな表情で視線を向けてきた。
「こ、この服の持ち主は、コンビニで白骨化してました。多分、スライムか何かに食われたんだと思います。ごめんなさい。着る物がなくて……」
彼等の同僚だと聞いて、申し訳ない気持ちで頭を下げると、直樹は直ぐに首を横に振った。
「いや、別に君を責めている訳じゃないんだ。彼等がどうなったか知りたかっただけなんだ。悪かったね。気にしないでくれ」
どうやら、直樹は真面目な男らしく、一回り近く年下であるはずの僕に頭を下げてきた。
ん~、立派な人だな……イケメンだし、あの胸の大きい女の人が喜んで抱き着くはずだよね……でも、ムカつく……
少しばかり嫉妬心を持ちながらも、改めて直樹という男について考える。
ただ、彼は直ぐに話を代えてきた。
「それで、君達はどうしてここに? というのもおかしいか。ここに逃げてきたということでいいのかな?」
ああ、彼は勘違いしているのだろう。僕等が助けを求めてここに来たと考えたようだ。
「いえ、物資を探しに来ただけです。別に保護してもらうつもりはないです」
「えっ!?」
「はぁ?」
勘違いしている二人に有りの
正直な考えを包み隠さず教えたつもりなのだけど、直樹や蔵人にとって信じられない内容だったみたいだ。二人は狐にでもつままれたような表情で声を漏らした。
「あ、あの~」
場を凍結させたことに罪悪感を抱きつつ、おずおずと声を掛ける。
というのも、右隣に座る氷華は、何を考えているのか、初めからずっと顔を顰めたまま黙っている。左隣に座る一凛はというと、黒き飲み物の味を楽しんでいるのか、会話に参加することなくコーラの入ったコップと
もちろん、コーラはホームとしているコンビにも残っている。だから、普通に飲めるというか、氷華が作り出す氷のお陰で、ここの温いコーラよりも遥かに美味しい状態で飲める。
そのことを考えると、一凛は面倒な話に
というか、完全に丸投げなんて少し酷いよね。
素知らぬ顔をしている二人に不満を感じていると、問い掛けで正気に戻った直樹が直ぐに謝ってきた。
「ああ、すまない。ここ最近、色々あってさ、少し疲れているんだ……それで、君らを保護すればいいのかな?」
ちょ、ちょお~、僕の言葉を幻聴にしないでよ~。
どうやら、彼は信じられないことに耳を塞ぐのが得意なようだ。
きっと、彼の脳内では、先程の言葉は空耳と同じ現象で片付けられたのだろう。
その態度に、少々カチンときたこともあって、今度は強い口調で宣言する。
「僕等は誰の助けも要りません。物資を探しに来ただけです。物資を分けて頂けないのなら、もうここには用がないので帰ります」
さすがに、ここまでハッキリ言うと、幻聴や空耳で片付けられなかったのだろう。彼等は目を白黒させながら、首を横に振った。
「いやいや、そういう訳にはいかないんだ。オレ達は自衛官で、国民を守る義務があるんだ。君らは運良く魔物に襲われなかったのだろうけど、いつまでも運良く居続けられるとは限らないだろ?」
正義感が強いのか、直樹は己が考えを押し付けてきた。
そんな彼の隣では、蔵人も
はぁ? なにいってんの? ああ、僕等が子供だから軽く見られてるのか……やっぱり、大人ってダメだね……
直樹の正義感がそう言わせているのだと思うけど、その気持ちは全く以て迷惑でしかなく、
というか、この二人の自衛官に対して、一気に嫌気を感じ始めた。
ああ、少し補足しておくと、決して直樹達がイケメンだから嫌いになった訳ではない。
もちろん、悪い人だと感じた訳でもない。ただ、嫌いな部類、関わり合いたくない人種だと思ったのだ。
だから、端的に最低限の言葉で答える。
「いえ、結構です。帰ります」
「ちょ、ちょっと、待ちなさい。危険だ」
「そうだよ。外には魔物が沢山いるんだから」
直樹と蔵人は、慌てて押し留めようとする。
今更なのだけど、己が尺度で相手のことを決めつけるような人間が嫌いだ。
人には、それぞれの想い、夢、望みがある。それは叶わないかも知れないし、現実になるかもしれない。でも、結果はどちらでも良いのだ。ただ、初めからダメだと決めつけられると、何もかもが嫌になる。生きる意味すら分からなくなってしまうのだ。
目の前の二人が嫌いなタイプだと感じ、遠慮なく制止する声を無視して席を立つ。
ココアは少しビックリしていたけど、大人しく抱かれたままでいた。
ただ、それまで黙っていた氷華も勢いよく立ち上がった。
あっ、彼女達に悪いことしたかな……
交渉が破談になった所為で、必要な物資が手に入らなくなったと考え、心中で氷華と一凛に
だけど、一凛は一凛で、一緒に立ち上がると、放置していた僕と氷華のコーラに手を伸ばし、一気に飲み干した。炭酸攻撃を喰らったのか、目を白黒させている。
「いって~~~、やっぱ、炭酸の一気飲みは危険だわ」
いやいや、君の行動の方が危険だよ……
涙目となった一凛が、全く以て場違いな声を漏らすと、それに続いて氷華が口を開いた。
「黒鵜君、さっさと出てちょうだい! 私が出られないわ」
一番奥に座っていた彼女は、早く退けと苦言を述べてきた。
あれ? 二人とも怒ってない? なんで?
必死に止めようとする直樹達を無視して、氷華と一凛の様子を覗う。
やはり、二人とも不機嫌ではあるけど、怒っている風ではない。
そのことに首を傾げていると、二人の女の子が慌てた様子で走ってきた。
「はぁ、はぁ、な、直樹さん、大変です! ま、魔物が出ました!」
「す、直ぐに倒さないと! い、今、能力持ちが防いでます」
どこかで見たことのある女の子が、息を切らせながら魔物の出現について伝えてきた。
ただ、その二人の女の子は、こちらに視線を向けると驚きを露にした。
「あっ、日陰……」
「ほ、ホントだ……生きてたんだ」
そう、日陰とは裏で交わされる僕のあだ名であり、その名を口にした彼女達は、クラスメイトという名のどうでもいい女子だった。
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