01 炎獄の魔法使い誕生

01 はじまり

 その夜、世紀の一瞬を目の当たりにした者は、絶望という名の恐怖を味わうことになったと思う。

 ただ、僕からすれば、それは幸運であり、不幸や畏怖を抱く方が間違いだと思える。

 それでも、恐れ、慄き、逃げ惑い、絶望する。そんな者達が溢れかえったことだろう。

 なにせ、車が往来するアスファルトや硬く敷き詰められたコンクリートからは、見たこともない植物や木々が芽を出し、あれよあれよという間に巨大化したはずだ。

 更に言えば、アニメやSF映画に出てくるような異形の魔物が、どこからともなく湧いて出るところを拝めたはずなのだ。


 うむ、なんとも羨ましい。


 その瞬間を自分の眼で確かめられなかったことは、心残りと言えるほどに、とてもとても残念だと思えた。いや、ギガ残念、いやいや、テラ残念だと言っても過言ではない。

 なんといっても、この退屈な世界が、混沌と化した世紀の一瞬なのだから。


 一流企業に就職するために、一流高校へ進学し、一流大学に入り込み、一流とは名ばかりのブラック企業で定年までこき使われる人生を考え、中学三年にして、お先真っ暗な人生に絶望していた僕にとって、この変化は喜びこそあれど、決して拒むものではなかった。

 そう、このくだらない世界は、一夜にして魔物が徘徊するファンタジーに飲み込まれたのだ。


 それは、勉強が苦手、運動が苦手、コミュニケーションが苦手、何もかもが苦手で、空想の世界に引き篭もりがちだった僕にとって、望むべき世界がやってきたと感じた。


 さあ、狂気と混沌が入り混じる楽しい人生の始まりだ。

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