結婚式当日



王都!


すんげー。すんげーの一言


青空を突かんばかりの巨大な教会。をさらに飲み尽くす様な城!!


どこもかしこも洗練されてて巨大でピカピカだ!


広場のマーライオンが砂金を吐いている。


想像を絶する絢爛ぶりである。まさしく桁が違う。


『ようこそリリー様!!』


城の入り口が見えない位メイドたちがずらっと並んでいる。うおおう、ミニスカフリルが国王の趣味か。

「こ、こんな豪華な城に入ってしまっていいのかしら……こ、こんにちわー。ハロー…!」


ローローロー……


戯れに発した言葉が大空洞みたいなエントランスに反響する。恐るべし


『式までの間ごゆるりとお過ごしくださいませ』


ごゆるりどころではない。


生き埋めにされんばかりの菓子である。金箔マカロンが金皿にてんこ盛り。


もったいないお化けが居たら540度ほど捩じれてのたうち回るだろう。やめて!膝まづいて靴を勝手に磨かないで。ヴァイオリンの生演奏を始めないで


「ちょ、ちょっとお花を摘みに……ほほほ」


なんとかヨロヨロと部屋を這い出る。


ろっ、廊下、廊下の方がまだ落ち着く……っ!息が吸える。秋の蚊のようにリリーはよろばい、角を曲がろうとし


どんっ 

何か白い塊とぶつかった。


「あっ、ごめんなさい」

慌てて見上げてリリーは心臓が止まりそうになった


物凄い超絶美形だ。


ツヤッツヤに艶めく漆黒の髪とは対照的に、純白の衣装。


スッと通った鼻梁。宝石の様な紫の瞳。めちゃくちゃ精悍な眉根は、突然胸に飛び込んできた衝撃に訝しんでいる。


神に祝福された人間とはこういう人のことを言うんだわ。


ここまで美しい人間を神さまって作れるのか。はえー。凄い


思わず神々の神秘に思いを馳せてしまったリリーに、超絶美形が問いかけた


「あんた誰?見ない顔だな。この国の女はみんな覚えてるつもりだけど」


さらっと黒髪がなびいて、夜明けの星空のように澄んだ紫の瞳がリリーを探る。


年のころは同じだろう。同じなのに。色気がすごい。男に全く免疫のないリリーはちょっと腰が抜けそうになった。


「あ、あのあの、この国のアンリ様と結婚するために来ました、リリリリリリーです。」


「結婚? 兄貴と?」

超絶美形がさらに麗しく眉根を寄せると、瞬間ぱっと瞳が輝いた


「あー! あのくじ引きで決めたやつかー!」


「!?っ、く、くじ引き…!?」


「そうさ、誰も結婚なんてしたがらなかったから五人で公平にくじ引きで決めたんだ。へー、でも、こんな可愛いお嫁様だって知ってたら、俺が名乗りを上げたのになあ。よろしくね、リリリリリリー。」


ちがう、リリリリリリーじゃない。てかくじ引きで結婚相手を決められた衝撃の事実。


ていうか可愛いって言われた。


いろいろリリーは抗議したかったが次の瞬間吹っ飛んだ。


「本当に惜しいなあ。今からでも間に合う?その唇を兄貴より先に奪ってもいい?」


返事する間もなく、リリーの小さな身体がたくましい胸板にむぎゅっと抱きしめられる。


そのままくるーっと一回転して、壁にドン。


「とりあえず兄貴の前に食っておくか」


顎をクイっとされる


その間0.5秒


お、狼だー!

この超絶美形、狼だー!

助けてー!超絶美形狼に食われる


熱を帯びた吐息が耳たぶを炙る


史上経験のない超絶イケメンの急接近に、もうリリーは思考停止して固まってしまった。


超絶黒髪美形狼が舌なめずりし、微笑み、そしてーー


どごっ!


「ぼるごあっ」

吹っ飛んだ。


「!?」

ふっと体が軽くなる。

た、助かった。……の!?


『大丈夫!? 可愛いおねいさん!!!』


吹っ飛ばされた美形狼のみぞおちにめり込んだ何かが、鈴の様な声を発した。


しかもなんか二重だ。


少年だ!


ショタだ!しかも二人!そっくりそのままうりふたつ!


あどけないショタたちがヘッドアタックで美形狼をふっとばしたのだ


「あ、あなたたちは……!?」


ぴょこんと少年たちが頭をもたげて跳ねる


「第四おーじのアベルと!」

「第五おーじロキだよっ!」


『でもみんなツインズって呼ぶよ!僕たち双子なんだっ!鏡合わせみたいでしょっ!可愛いでしょ!』

髪も瞳も磨き上げた銀。くるっと回る膝小僧


全く同じ動き。ウインクまで左右対称だ。


かわいい!


あざとかわいい


神さまってこんなに可愛らしいものを二対もあしらえたのね!


「いい痛ってー! 実の兄に何しやがる!」


 吹っ飛ばされたアクセルが涙目で起き上がる。ちょっと御髪が乱れてワイルドさアップだ。


『アクセルお兄様こそアンリお兄様のお嫁様にイケナイ事しようとしたくせに!いーけないんだ!』


「うるせー、鉄拳制裁だ!!!」


ぎゃーぎゃーのぼかすか。


この次元の超越者かと思える美の粋たちが驚くほど低次元な取っ組み合いの泥仕合を開始する。

リングは深紅の絨毯だ。


な、なんだかよく判らんが今のうちに逃げよう。レフェリーになる気はない。


***


「ぜえぜえ……ここまでは追ってこんだろう」


それにしてもびっくりした。史上最高の超絶美形にあわや唇を奪われるところだった。あー、心臓が爆発するかと思った


それにしても


迷い込んだ花園でリリーは嘆息する


なんと美しい花園だろう。


この国には美しいものしかないのかしら


とりどりの花に誘われるようにリリーは花園の奥まで入り込んでしまった。


さあっと、道が開けて満開の百合がリリーを包んだ。



「あっ」


いけないものを見てしまった。

思わず声が漏れてしまう、




渦巻く花びらの先で、二つの人影が唇を重ねている。


抱き合って――



声に驚いた女が跳ねるように去って行った。


残された青年がゆっくりと振り返る


おい、さっき史上最高の超美形と遭遇したと言ったな


あれは嘘だ


更に宇宙最高の超弩級美形を観測した


煌めく黄金の髪、


無駄のない筋肉を包む青の衣。

さっきの狼美形よりも少し大人びた顔立ち


深い琥珀色の瞳は少し驚いたように見開かれている。


さっきから神さまに感嘆していたが、ここまで来たら悪魔とコラボしているかもしれない。



「あわわ、おデートの邪魔してしまってごめんなさい」


我学習せり。超絶美形遭遇これ即ち即戦略的撤退あるのみ


「まって、」

優しくて、深い声。


「君は誰?」

素早く手を掴まれる。


うおう、この流れはヤバい


「あの、私もう行きます。もういかなくちゃ、今から結婚式なの」


「結婚!? だめだよ」


ぐっと手に力が入る。いやだめって言われたってどうしろと。



「姫様―!」

遠く侍女たちの声が響く。


「ああよかった、アンリ様とおられたんですね!」


「結婚前からラブラブですねー!」

駆けつけたメイドが歓声を上げる。


へ?? アンリ? ……さま? 


「この方が結婚相手のアンリ様ですよ!」


へっ


えっ


この超弩級超絶美形が!?


お互いに目をしばたたかせてしばし見つめあってしまう。


驚いた。ここまで美しい人がこの世に存在するのか。


しかも私の夫になるのか。


てか、結婚式の直前まで逢い引きとは、誠実そうな容姿とのギャップはなはだしいな。


さすが朝ごはんからお昼まで十七人(うろ覚え)恋人が変わっているだけのことはある。



それにしても、到着早々怒涛のイケメン祭りに頭が追いつかない。どうしたらいいのだ、どうしたら……



「ふ、不束者ですが宜しくお願い致します……」



もう、どうしたらよいかわからず、とりあえずリリーはとびきりのニコニコお人形営業スマイルを張り付けておいたのだった。



若干、口元がひきつっていた。




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