1.未知の世界

「大丈夫だって!行ってみようよ、たっくん!」


ある日、彼女に連られ…というより半ば強制的に僕は連行された。僕らの住む村の『裏山』へと。

僕らはまだ子供だった。裏山へ入ってはいけないという言いつけを破るくらいには好奇心旺盛だったし、何より、無味乾燥なこの場所に刺激を与えてくれる存在はそれしか残っていなかったからだ。

近所の悪ガキはおろか、大人達さえ立ち入らなかった場所。


そこへ僕らは、足を踏み入れた。



裏山は、とても綺麗な場所だった。

さっきまでいた村では見たことのないような植物や虫たち、それに鳥の声。ゲームの異世界に飛ばされたのかと錯覚するほど、様々な色に満ち溢れていた。


「ねぇねぇたっくん、見てよこれ!

こんな大きいカブト虫、見たことない!」


新しい世界にはしゃぐ彼女。僕はそんな彼女に曖昧な相槌をうちながら、様々な感情に浸る。

大人達でさえ知りもしない世界を見つけた、大人を越えたという、優越感。

本来入ってはいけないはずなのに、何故入ってしまったのか。何故止められなかったのか、という後悔と不安。

そして、この先に一体何が待ち受けているのだろうかという、探究心。

でも一番大きかったのは、彼女と2人きりで特別な場所に立てるという、幸福感だった。


慢心。そんな言葉が、ぴったりだろう。


裏山という未知の領域ではしゃぐ彼女は輝いていて、今まで誰も見たことのない表情を僕に振りまいてくれた。そんな彼女を独占できたことに対して、僕は笑った。

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