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「……あった。ほら水奈みな、あんた2組だって」

「ほんとだ」


私が手に持つ名簿に、ママがそっと指をさした。"特進コース1年2組"、私の出席番号は3番らしい。入学式を行う前に、1度教室へと向かわなければならないようで、400の名が載せられた紙っぺらの中から、この"内野水奈"の4文字を2人で必死に探していたのだ。


「あ、2組じゃあおちゃんとも一緒じゃない」


服部蒼ちゃん。幼稚園の頃からの幼馴染みで、中学では私と同じ吹奏楽部で副部長を努めていた。真面目でしっかりとした性格は、今も昔も変わっていない。


「良かった。ぼっちは回避出来そう」

「そう。じゃあ早く教室行きなさい。ママはこれから視聴覚室で話を聞かなきゃいけないみたいだから」


そうしてママと別れた後、何とか自力で教室へと辿り着く事が出来た。

それにしても、この校舎の構造が複雑過ぎる。後から聞いた話だが、1つの棟から段々と建物を付け足していった結果、変に入り組んだ廊下になってしまったそうだ。私立の高校に殆ど興味を示していなかった私は、F高校の体験入学に参加しなかったので、入学して初めてこの複雑な校舎に挑んだのだ。自力で教室には辿り着いたのだが、思ったよりも時間を要してしまったのである。教室に到着したのは、集合時間の5分前だった。


『あっぶな……深沢先生だったら怒鳴られるところだわ』


吹部の顧問だった太鼓腹の黒縁眼鏡を思い出しながら、苦笑いを浮かべた。

中学生活も楽しくて卒業が惜しいものだったが、きっと高校生活も良いものになるはずだ。中学よりもっと面白いものが待っているに違いない。もっと騒がしくて、もっとはしゃいで、もっと青春して……。

高まる期待を胸に、教室の扉をガラリと開けた、

……が。


「……?」


おはようの声も、喉で押し殺されてしまう。

そこには、騒がしさの欠片も無く、ただただ静寂が鎮座していた。ピンと張り詰めた空気が、教室を包み込んでいる。私以外の着席している人達は、皆手もとの書物に集中していたのだ。


『……揃いも揃って読書してやがる!!』

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