3
しんと静まり返った空間に、時折ページを捲る音だけが響き渡る。その静寂を壊さないように、忍び足で自分の席へ着いた。
私も例に漏れないよう、持参した本をバッグから取り出す。そしてペラペラとページを捲り必死に目を走らせるが、異様な空気の中で本を読もうにも、頭が上手く働いてくれなかった。
そうこうしている間に、前方の扉がガラガラと音を立てて開く。現れたのは、ひょろりとした体型の眼鏡の若い男だった。スーツをきっちりと着て、首にネームプレートをぶら下げたその姿は、保護者でなく"先生"である事を私達に知らせている。
垂れ目がちで眠そうな眼で、静かに読書を嗜む生徒達を凝視した先生は、眉をひくつかせた。
「うわ、みんな真面目だね……?」
その言葉にどれほど激しく同意したことか。やっぱりおかしいですよね。何も言われてないのに全員で読書とかやっぱり何か変ですよね。変だと思っていたのが私だけじゃなくて本当に良かった。
先生が教壇へ立つと、皆そそくさと本をバッグに仕舞った。私も慌てて本をバッグに押し込む。
「えー皆さん、ご入学おめでとうございます。特進1年2組の担任の加藤です。数学を担当してます。多分これから3年間、君達と関わっていく事になると思うけど、よろしくお願いします」
加藤先生の声が少し震えているのが分かった。きっとこの先生はまだ教師になってあんまり経っていないんだろうと思った。でも、特進コースに配属されるくらいなら、教え方は上手い先生なんだろうなとも思った。私は数学に苦手意識を持っていたので、この人に沢山教えてもらおうと心の中で密かに決めていた。
「じゃあ、入学式の練習も兼ねて、出席の点呼をとろうと思います。あんまり時間無いので巻きでやりますよ。パパッと」
……じゃあやらなきゃいいんじゃないか、と思ったのは秘密。
「新井
「はい」
「宇佐美
「はい」
「内野水奈」
「はい」
「内山
「はい」
「梅原
「はい」
「加藤
「はい」
「齋藤
「はい」
「三枝
「はい」
「高井
「はい」
「野部
「はい」
「服部
「はい」
「平井
「はい」
「古畑
「はい」
「米谷
「はい」
「渡辺
「はい」
「これで全員ですね。じゃあ本番はこれより2倍くらい声張って返事してください」
呼ばれたのは15人。こんな人数しかいない、という事か。確か特進コースの定員は2クラスで60人だった気がするのだが……。
その後、加藤先生の誘導により、私達は体育館へと導かれた。入学式はやたらと長過ぎてよく覚えていない。ただ記憶があるのは、理事長が音程の外れたよく分からない歌を大音量で歌っていた事だけだった。
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