第28話 妹? 6

「おいコラ! 何持ち出してんだ!」


 俺は大文字の持つ”春香アイコラ写真集”を奪い取ろうと手を伸ばす。


「いけませんわ、お兄様!」


 そう言って彼女は見事な身のこなしで俺の強襲を受け流す。俺がいくら手を伸ばしても遠くに追いやられる写真集に手は届かない。別に、俺の腕が短い訳じゃないんだからね!


「クソ! なぜ取れない!?」


「無駄ですはお兄様。私の大文字流柔術の前にはそのような攻めは通用いたしません!」


 俺が必死に彼女から写真集を奪おうとしているのに対し彼女はそう言う。屈辱である。このような華奢な女の子から物の一つも奪えないとは、男としての名が廃る。


「なんとぉぉぉー!!」


 俺は彼女を壁際に追い込むと左手で左の退路を塞ぐ。


 ドンッ。


 そして右にしか身動きのできなくなった彼女から写真集を奪おうと試みる。これなら彼女の行動に制限がかかり動きを読みやすくなったはず。


 そうして俺の右手が写真集を掴む既の所で俺は彼女の様子がおかしいことに気づく。


「ど、どうした?」


 俺の猛攻に汗一つ掻いていなかった彼女が顔を赤くし、呼吸を乱している。こう顔色がよく変動すると心配になってくる。何か病でも患っているのではなかろうか?


 しかし、俺の心配を余所に喜々として言葉を発する。


「いえ、私、先ほどまでお兄様のことを疑っていました。もしや、お兄様は求婚をお断りしているのでは? と……。しかし、先ほどお兄様がしてくださりました、”壁ドン”でお兄様のお気持ち深く心に伝わりました。さあ、お兄様! 私のお体、存分にご堪能下さい」


 そう言うと彼女は上着のボタンなどお構いなしに”ガバッ!”と左右に開く。


「おわぁ! ちょっと!? 何やってんのぉ!?」


 余りに突然のことに俺は両腕で八の字作る。間違いない。この子は頭の病気だ!


「何と言われましても前戯の準備ですわ?」


 そう言うと今度はスカートに手を伸ばす。前戯の準備だって!? 前戯の準備ってなんだよ!? 旅館に泊まって風呂入ってスッポンの血を飲むことかなぁ!?


「いやいや、いきなり前戯がどうとか言って脱ぐのはおかしいでしょ! それに壁ドンで何がわかったの!? 俺は君が訳わかんないよ!!」


 俺は昔見た、東大を目指す浪人生のドタバタラブコメディーを思い出しながらも彼女の不可思議に指摘をする。


 彼女は「んん? おかしいですわねぇ?」と首を傾げる。うん、おかしいよ。君は初めからおかしいよ。


「私のこの参考書には『一般的性交渉には壁ドンが使用される』と書いてあります。ですので私、てっきりお兄様が『よし、それじゃあ俺と一発やろうぜ』と私をお誘いくださったとばかり……」


 彼女はそういうと”シュン”と少し申し訳なさそうに項垂れる。なんだその参考書は! そんな頭ハッピーセットのようなことが書かれているものは”低俗なJKミーハ俗物雑誌”くらいだろう。


「いいかい? 壁ドンは本来、集合住宅などで隣人が騒がしい時に壁を叩いて相手を威嚇する行為なんだよ。最近ではどうやら恋人同士などでイチャイチャするために使われているみたいでそう言った男女間での中を深めるために使われるのが定着していってるけど性交渉の合図ではないからね」


 俺がネチネチと説明すると彼女は「お兄様、壁を叩いて威嚇するのではなく話し合いで解決するのがより円滑にご近所関係を築けると思います」と真面目に答えられてしまう。は? うるせえよ。今更、常識語ってんじゃねえよ、頭ハッピーセット。


「むむむ、そうなのですね……」


 そう言って彼女はまたどこからか雑誌を取り出す。その雑誌には『恋愛必勝! これであなたも恋の恋愛マスター 誰でもできる十の恋愛テクニック』と書かれている。スゲー頭悪そうな雑誌だ。


 俺はその雑誌に嫌気を感じていると大文字が口を開く。


「うん? でも恋人同士で使うということは……。お兄様が私にしてくださったことは、まさに私を恋人とお認めになり『おい、四季。俺の女になれよ』という意味が込められているのでは!?」


 彼女は顔を”パア”と輝かせて俺を見る。俺はその愛くるしい表情に騙されまいと彼女の意見を否定する。


「全然違うから、俺の行為は闘争で会って求愛じゃないから」


 俺がそう言うと彼女はまた顔を曇らせ下を向いた。

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