第3話 クラス

 俺と春香は家から出て40分。ようやく校門前まで着くことができた。なぜ学校というのは、こうも坂の上にあるものかと世の学生は疑問に思っているだろう。


「なぜ学校というのは、こうも坂の上にあるのか」


「私も詳しくは知らないけど津波とかの災害が起こったとき避難所として使用しやすいようにじゃないかな?後は人里離れている法が何かと都合がいいのかも」


 俺の思考だだ漏れの言葉に彼女は答えてくれた。


「ほら夏樹、向こうにクラス名簿張り出されてるよ」


 そう言うと彼女は人がごった返す中へ紛れ込んで行く。俺もそれについて行くがなかなか彼女のもとに辿り着けない。学校に来る途中まで手を繋いで歩いていたが、同じ学校の生徒をちらほら見かけるようになってから気恥ずかしくて、手を離してしまったのが悔やまれる。


「夏樹、ほら見て、あったよあなたの名前」

 

 何とか春香のもとへ着くと彼女はすでに俺の名前を見つけていたらしい。


「8組だね」


 そう言う彼女の顔は少し暗い。


「私は別のクラスみたい」


 そう言って彼女は、右端に張り出されている一組の名簿を見に人混みの中を進む。先ほどよりも足取りの重くなった彼女の背中を追うのは、この混雑の中でも容易だった。


 てかこいつ真っ直ぐ8組のほうに向かて行ってたけどあの距離から俺の名前を見えてたの?


「あっ、私、1組だ」


 俺が、こいつ目がいいなぁ愛のなせる業なのか、などと考えている間に彼女は自分のクラスが何組なのかわかったらしい。


「まあ、別々のクラスでも会えないわけじゃないんだ気にすんなよ」


 なんか恋人が別のクラスになったのを励ますようなことを言ってしまった。なんだか気恥ずかしい。


「そうだね。普段、家で会ってるんだから学校でぐらい別々のほうがばらんすいいのかもね」


 彼女は少し意地悪げな顔で言ってきた。は?くそ可愛いんだが。


「はっ、なんだツンデレか」


 俺がそう言うと彼女は「デレてないですー」と言って肩を小突いてくる。


 彼女とそんなやり取りをしているうちに掲示板からは人が捌けており、代わりに体育館らしき建物の入り口が混雑していた。入り口の近くではメガホンを持った女性が慌ただしそうに「間もなく入学式が始まりますのでまだ席に着かれてない新入生の方は会場までお急ぎください~!!」と大きな声で呼びかけている。


「やっべ、もうそんな時間か行こうぜ春香」


 俺はそう言って入口の方に進む。彼女も「あ、うん」と言って俺の後をついてくる。


 入り口着くと別の男性が「1組から7組の生徒は真っ直ぐ行って突き当り右の扉、8組以降の生徒はこっちの扉から会場に進んで」と呼びかけている。


 俺が彼女の方に目をやると彼女も俺の方を向いていた。


「じゃあ、俺こっちだから」


 少しそっけない態度で彼女にそう伝えると右側に進む人の群れに身を任せた。彼女も「うん、わかった。今日、帰りは一緒に帰ろうね」と言って真っ直ぐ向かった。俺は彼女の言葉が少し幼く感じた。

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