水中

翠幽月

生まれる

水中で生まれた

水中に横たわって差し込む光を見ていた気がする

ある日打ち上げられて

地上で息をすることを強要された

地上は嫌いだった

生まれることは尊いといいながらも

それを否定している

水中は否定しなかった

生まれることも

死ぬことも

流されるのが嫌ならば逆らってもいいことを誰も教えない

息をすることが苦しかった

だから、逃げた

地上から伸びる手を振り払って

水の中に逃げた

逃げて

逃げて

遠くまで来た

もう陸が見えないほど遠くまで

周りは水ばかりで誰もいなくて

世界で一人みたいに寂しく感じたけれど

全然息苦しくなかった

今日からここで生きる

私が決めた

生きる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

水中 翠幽月 @long-sleep

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ