ベース オブ シークレット

清水らくは

1

 宝の山から引っ張り出したものは、着々と実用段階に移されていった。とりあえず一番高い買い物はガスボンベで、それ以外のものはほとんど現地調達できた。コンロには火が付いたし、やかんも洗ったらそれなりに綺麗になった。各自家から持ってきたティーバッグで、最初の温かい一杯。

 三人は顔を見合わせ、大きくうなずいた。いいじゃないか……そういう気持ちだったと思う。

 初めてこの場所を発見してから約一か月。地道な努力の甲斐あって、ついに僕たちは快適に過ごせる秘密基地を手に入れたのだ。

「それにしても……謎だよな」

 秘密基地の建設に関しては、僕らは何もしていない。見つけた時にはほぼ現状のまま「あった」のだ。汚れてはいたものの、朽ちている、といったところはほとんど見られなかった。そして食料や毛布、いくつかの生活用品もあり、おそらく誰かここに住んでいたのだろう、ということになった。

 ここに住んでいた人がどうなったのかは、当然気になる。でも、生活の跡はあるものの現在誰か住んでいる様子はなかった。別のところへ行ってしまったのか、あるいは……

 しかし僕らは、そんなことを長く気にするタイプではなかった。労なく手に入れた秘密基地。しかも夏休みが迫っている。沢を下らなければいけないものの、距離的にもそれほど遠くない場所にある。こんなにわくわくすることがあるだろうか!

「うん。ここに住んでた人、どんな人だったんだろうね」

 最初は仙人か何かかと思ったけれど、見つかるものはすごく俗っぽかった。古い一眼レフカメラ、携帯ラジオ、ゴシップ雑誌、そして数多くのボードゲーム。まるで、大学生が複数人で暮らしていたのではないかとすら思えてくる品揃えだった。虫取りや木登りに飽きると、僕らはボードゲームを楽しんだ。セミの鳴き声降り注ぐ中、三人だけ利空間で遊ぶボードゲームは最高だった。

 双六やモノポリー、オセロに将棋。僕らはそれらのゲームにバカみたいに夢中になった。誰にも咎められることなくゲームができる、それがうれしくて仕方なかったのだ。もちろん夕方には家に帰らねばならない。でもちゃんと帰りさえすれば、僕らは元気に駆け回っている、と親たちは思ってくれる。まさか秘密基地でゲーム三昧とは気が付くまい。

「案外、ずっとここに住んで大人になった人だったりして」

 三人の想像を組み合わせると、ここに住んでいたのは中学生の時に家出をした男性で、世間とはあまり関わらないままこの場所でずっと暮らしていた、というものだ。ただしいろいろとお金のかかるものがあることから、年に数か月だけ働いていたのではないか。そしてある日、父親が病気であることを知りここを去って行ったのだ。

「うおー、なんか小説みてえ」

 武雄たけおはこの話になると妙に興奮する。ただし、話の内容を考えるのは主に久司ひさしだった。

「小説なら、その人がひょっこり帰ってきて僕らと鉢合わせ……するかもね」

「まじかー」

 久司は想像力が豊かだ。ただ、たまに現実を忘れてしまうところは欠点なのだが。

「あ、もう五時だ。帰らなきゃ」

 僕の役目は、この二人を引っ張っていくことだ。武雄は走り出すと、久司は考えだすとなかなか止まらない。僕はたいして得意なことはないけれど、いつでも時間を気にするぐらいならできる。

「早いなー。また明日来ような」

「そうだね」

「さあ、帰ろう」

 帰り道は少し切ない。別に家が嫌いなわけじゃないけど、どこか心が落ち着かない。そんな毎日の繰り返し、だった。

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