波間に小さく息をする
水谷なっぱ
今の関係について
西浜景、28歳。事務系OL。
北丘恵、28歳。営業系サラリーマン。
この話はその二人の話だ。
西浜景が起きたとき北丘恵はまだ眠っていた。朝5時にもなっていないのだから当然なのかもしれない。ぐうぐうといびきをかく恵を放置して景は起きて顔を洗い歯を磨く。朝ごはんと昼用の弁当を作って恵を起こして一緒に朝ごはんを食べる。景のほぼ毎朝の日課だ。しかし二人は結婚しているわけではない。一緒に住んでいるわけでもない。ただ家事が苦手な恵のために景が週に何度か通っているだけだ。
これが通い妻というやつだろうかと景は朝の満員電車に揺られながら思う。一応の食費は恵にもらっているがそれだけだ。そろそろどちらかの家に一緒に住んだほうが安上がりかもしれない。通い妻というのもあまり外聞が良くないなと景はぼんやり考えた。
景と恵は付き合ってかれこれ五年ほどである。それなりの期間だ。たくさん笑って怒って泣いて、いろいろあった。近場で遊ぶことも、遠出することもあった。最近はあまり一緒に出かけることは少ない。せいぜい夕飯を食べに行く程度だろうか。二人共社会人をしていると土日は家で寝ていたいし、かといって平日に休みを取ってまで出かけるのも面倒なものだ。
「なーんか熟年夫婦みたい」
景はポツリと呟く。"なんか"というより"まさしく"熟年夫婦のような自分たちだ。しかも実際は結婚していないし、その気配がないところが笑えなかった。
ネガティブになりそうな頭を振って、会社に向かう。そして今日は自宅に帰ろうと思う。ちゃんと一人になる時間が少ないから、変な考えを起こしそうになるのだ。
仕事を終えてから景は恵に連絡をする。今夜は自宅に帰るとメッセージを送って1時間ほど経ってから返事が来た。
『おれの夕飯は』
景の心が凍てつきそうだった。
『知らないよ』
『頼りにしてたのに』
『もう帰っちゃったから』
その後の連絡は無視した。本当に、夫婦ではないのに。だというのになんなのだろう。もしこれが結婚していたとしたら実家に帰りたくなる勢いだ。景の心配より自分の食事とはどういうことだ。
寝る前に恵から来ていた連絡を見ると逆ギレで終わっていた。それも景にとって最悪な内容での。
『そんなんじゃいいお嫁さんになれないぞ』
今は結婚する気なんてないくせに!!!!
頭に血を上らせた景はお酒の力を借りてようやく就寝したのだった。
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