『タンタリウスの大樹竜』-1

――発展途上世界、登録No.334『タンタリウス』。現地時間、■■月■■日■■時。


 この日、俺達のパニッシュチーム・αは、タンタリウス北部で暴れているという、あるクソトカゲを追っていた。


「α-3、目標ターゲットに動きは?」

「ありません。恐らく、エネルギーの補給、及び確保を行っている最中かと」

「チッ。ジッとしてても厄介とは、面倒な奴だぜ全く」

「私語を慎め、α-5」


 自然と発展途中の文明の割合が8:2というこの世界では、俺の故郷である世界……地球では見られなかったような巨大な樹木が、それこそ山のように群生している。

 種類もバラバラな樹木の枝どころか、幹そのものが交わって、一つの樹木となっているのを見るのはまさに壮観の一言だが、俺達は観光に来たわけじゃない。


 今回発見されたクソトカゲは、星の8割を占める自然、その内6割を支配する程の巨大さを誇り、あまりもの大きさから本体、あるいは核と思しき存在の特定にかなりの時間を要してしまった程だ。


 その生態は、周囲の樹木から生命エネルギーを奪い去り、枯らし、そして自らの排泄物でそれらを再生成長させる。なるほど、実に理想的で合理的な共生関係だ。そこに人類は入っていないという事を除けば。


「だが、少なくとも今以上の好機はないだろう。休眠状態なら、慎重に進めれば面倒なドンパチもせずに済む」

「ドンパチした方が簡単だぜ?」

「なら一人で行ってくるか? 奴さんは俺達が起こしてやるから」

「ヘッ、冗談だよ」


 仲間達の他愛ないやり取りの最中、俺は一人、武器である機械的な棍棒……というか科学部門謹製の特殊金属バットの手入れをしていた。

 D.P.C.において、前線でクソトカゲを殴る役割を与えられている俺達エージェントは、基本的に三つのクラスに分けられる。

 Sクラスを最高位とし、そこからA、Bと順に下になっていく。

 その更に下のクラスとして、使い捨て……もとい機動隊員のCクラスが入るというわけだ。


 加えて、それぞれの階級ごとに違いが存在する。例えば、Cクラスは基本的に軍の一般的な兵隊のように、上から指定された支給品の武器や装備を使用するが、これがBクラスに上がると、ある程度自由に選ぶ事ができる。そして、Aクラスになるとその自由度の幅が広がり、加えて単独での任務遂行が許可される。Sクラスは……詳しい事は知らないが、なんでも無手でドラゴンを殴れるぐらい凄い、らしい。

 ちなみに組織名のPの部分は、組織の源流にして、最古のSクラスエージェントの活躍から来ているのだとか。


「スラッガー、精がでるじゃねぇか」

「……今は任務中だぞ」

「構いやしねぇ。休憩中みたいなモンだろ。ま、それもすぐ終わるだろうがな。……にしても、マジメちゃんだねぇオタク。確かそういう出身なんだっけ?」

「まぁな。それしか取り柄がないもんでね。お前みたいにふざける余裕もないのさ」

「さいで」


 仲間のエージェント、現チームではα-5として動いている同僚と煽ったり煽り返したりしていると、遂にその時がやってきた。


「よし、聞け馬鹿野郎共。これから俺達は、あのクソトカゲの寝込みを襲うぞ」

「やーだ、だいたーん」

「そうだ。大胆に、そして繊細な任務になる。起こさないように気をつけろ。ああいう手合いは、寝込みを襲われたのに気付くと厄介な事になる」

「リーダー、経験があるんで?」

「ああ。腐る程な。……正直なところ、今回の奴は図体がデカい分、鈍感だと思ってたんだが。どうやら真逆らしい」

「それって、γチームの?」

「ああ。上空からの焼夷弾の投下による攻撃作戦を敢行したが、結果は知っての通りだ」


 基本的にパニッシュチームと呼ばれているのは、Bクラス以下のエージェントによって構成される機動部隊の事だ。しかし、ほぼ毎回のようにチームの再編が行われる。任務の性質上、今回のγチームのように戦死、あるいは重傷を負うエージェントも少なくないからだ。

 また、αからΩまで存在するチームにはそれぞれ特徴があり、αは遊撃、γは航空攻撃を得意とするチームだ。

 今回の場合、γチームが上空から何かしらの乗り物で攻撃を仕掛けたが、それが失敗に終わったのだという。


 なんでγチームの使ったのが何かを知らないのかって? そりゃ、色んな世界を股に掛けた一大組織なんだ。そんな組織が、わざわざ地球で使われるようなデカい音を立てて飛ぶ飛行機を使うとでも?

 まぁ、かく言う俺もγチームがどんなので攻めたのかは知らないが。


「上空からの攻撃は失敗。なら超高度からは? と思うアホゥもいるだろうから先に言っておくと駄目だった。いや、正確では無いな。別の作戦で既に使用されていて、こっちには回せなかったというのが正しい」

「おのれ経理連中め」

「お前らの装備諸々にかかってる保険、解除してやってもいいんだぞ?」

「経理部門万歳!」


 掌くるくるさせやがってからに。


「というわけで、俺達はこれより地上から進行し、目標の核を確認。確保可能ならそちらを優先し――」

『――できない場合はぶん殴る!』


 隊長格のAクラスエージェントの言葉に、Bクラス以下の俺達は、ほとんど反射のように叫ぶ。

 そうだ。人間には一人一人違いがあるが、どんな人間だろうとこの組織に属している限り、共通する事がある。それこそ、クソトカゲ――竜、ドラゴンと呼ばれる存在を殴る事だ。


「そうだ! 任務を妨害しようとする奴らは基本スルーだ!」

『だがクソトカゲ! テメェはぶん殴る!』

「よぅし! 行くぞ野郎共! パニッシングタイムだ!」

『パニッシィィングッ!』


……この組織に入ってしばらくになるが、俺ってこんなテンションだったっけな。


 そんな取り留めのない事を考えながら、俺は手入れの終わった金属バットを、他の仲間達が各々の武器でそうしているように、天高く掲げ、叫んだ。


 その直後、リーダーに人差し指で「シーッ!」と咎められてしまった。俺達に仕込んだのもやらせたのもアンタじゃねぇかこの野郎。


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