第4話 私なら『まおう』にします
「それは…あなたの好きな名前で良いんじゃないでしょうか?」
「いやさ、文字制限あるでしょ?俺の名前4文字じゃ足りないのよ」
「じゃあ苗字とか」
「それじゃ魔王倒した後、村の人たちに俺の親父が倒したみたいにどこかで間違った情報語り継がれる可能性あるじゃん。やだよ、せっかく苦労して倒したの俺なのに」
知らんがな。
「じゃあ…ニックネームとかないんですか?」
「ポイズン」
そりまちorたかし、で良いんじゃないですか?
「ね〜魔王、なんか良い名前ない?」
「いや、私に言われても…」
「一緒に考えてよ〜」
「考えてよ〜って言われても…。あなたの好きな名前にすれば良いじゃないですか。冒険していくにつれて愛着湧くかもしれないですし」
「なんか冷たい」
「勇者にハートフルな魔王なんていませんよ」
「じゃあいい。うんこにする」
「え?」
「うんこ」
バカだと思いました。
「いいの?魔王が倒される勇者の名前はうんこだよ?魔王はうんこに倒されたって後世に語り継がれるんだよ?」
こういう脅迫の仕方もあるんだなと勉強になりました。
「それはちょっと嫌です」
「でしょ?だから考えてよ魔王〜」
コンコン、とノックの音がしてサディちゃんが紅茶とケーキを持ってきて勇者と私の前に置き、勇者ににっこりと笑いかけて部屋から出て行きます。
「ねぇ魔王」
「はい、なんでしょう?」
「今の子可愛い」
でしょう?私の右腕です。
「名前なんていうの?」
「サディちゃんです」
「あの子さっき俺に笑いかけたよね?俺のこと好きなんじゃない?口説いちゃおっかな」
「ダメですよ!サディちゃんはダメ!ゼッタイ!」
80年間私の片思いの相手なんですから!
「そもそも種族が違うでしょ!」
「え〜なんで〜。いいじゃん。自由恋愛っ!」
「ダメです!それに私倒しに来るならいずれサディちゃんも倒すことになるんですよ!」
「ギリギリのところで生かすもん。で、エンディングでサディちゃんと結ばれる」
こりゃあ来たら本気で殺しにかからなきゃならないと思いました。
「そんな先のことよりもまず名前決めたらどうですか?」
「それもそうだ。で、何か良い名前浮かんだ?」
私が決めるんですか?
「え〜、じゃあ…ワーム」
「虫じゃん」
「カッシー」
「ハ虫類じゃん」
「オーク」
「化け物じゃん」
「バエル」
「悪魔じゃん」
「んもうっ!文句ばっかり」
「だってセンスないんだもん。それに全部魔王の部下じゃん!部下に倒されるみたいで魔王は嫌じゃないの?」
確かにちょっと複雑な気分になります。
「はな」
「花僕じゃん」
「あき」
「花僕じゃん」
「さんたろ」
「花僕じゃん」
「ゆきひら」
「花僕じゃん」
「のじま」
「天才じゃん」
「だぁかぁらぁ!文句ばっかりぃ〜!」
「だってシレっと別の連載モノの登場人物出して来るからぁ」
「良いじゃないですか!少しでも閲覧数増やしたいんですよ!」
「じゃあ早く話進めろよ」
「・・・・・・・・・・・」
「あ、ごめん」
私の日常の楽しみ奪わないでください!
「あ〜もう!じゃあ『える』はどうですか?」
「お、ちょっとかっこいい。どんな意味?」
「意味はないです。けど1番最初に私を倒した勇者の名前がエルでした」
「いいねぇ〜。縁起も担げるしオシャレだし、よし!えるにしよ!」
「ひらがなでいいんですか?」
「え?カタカナにもできるの?」
「ギルドで受付の話、ちゃんと聞きました?」
「あは笑。話長くてスキップしてた笑」
「もう、いいです!私から受付のアンちゃんに連絡しておきますから村に帰ったらまっすぐギルドに行ってください」
「さんきゅ〜。助かる〜」
なんて手間のかかる勇者だ…。
「じゃ、さっそく帰って行ってみるわ。また困ったことがあったら相談乗ってよ」
「気軽に来ないでください!」
そういう関係性じゃないはずですよ?
「サディちゃんも口説きたいし」
魔王の爪を食らわすのを必死で堪えました。
「じゃね〜魔王」
「はい、気を付けておかえりくださいエル。帰り道はモンスターに遭わないように私から伝達しておきます」
「うん、よろしく」
そう言って爽やかな笑顔で帰って行きました。
と思ったらすぐまた扉を開けて
「魔王!魔王!サディちゃん怖いっ!」
と、頬に3本爪痕がありました。
「何したんですか?」
「おしりさわったら引っ掻かれた」
「そりゃそうですよ。可愛い顔してますけどサディちゃん私の右腕の1人なんですよ?今のエルが攻撃食らってよく生きてましたね…。はい、ポポイ」
なんで私、勇者に回復魔法使ってるんでしょう?
「お、すげっ。ポポイ使えるんだ?」
むしろ1番最初に覚える回復魔法ですけど?
「もう、テレポ使ってあげるから早く帰って下さいよ」
「ラッキ〜。じゃ、よろしく」
手間のかかる勇者ですねぇ…。
「はい、テレポ」
勇者の体が揺れ始める。
「またね〜魔王」
揺れながらそう言って手を振るんですよ、エルったら。
「はい、それじゃまた」
私も手を振るんですよ、エルに。
揺れが激しくなって、そして消えて行きました。
これが私とエルの最初の出会いでした。
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