12-14

7月1日 土曜日


日が沈み、町のネオンも消え始める深夜。

リラ、防人の両名は今日も特訓に励む。


「はぁっ!」


リラの突き出してきた拳を避け、その手首を掴んでその勢いにのせて背負い投げる。


「うっ!っまだ!」

「足元が空いてるぞ!」


再び彼女の拳をしゃがんで避け、足払いをする。


「んふ」

「な!」


彼女は跳ねて足払いを避け、次の腹蹴りを両手で受け止める。


「はっ!」


片足で跳ね、そのまま腕を使って受け止められた足を軸に回転して彼女の顔を蹴り飛ばす。


「きゃっ!」

「おっと悪いやり過ぎたか?」


とはいえしっかりとプロテクターをつけているので大丈夫だとは思うが、やはり彼女は軽いからか、手を床につけて手加減したというのに思いのほか飛ばされた。


「女の子の顔に何すんのよ!」

「戦場じゃ女も子供も老人だろうと関係ないぞ……ってこれも何回も言っていると思うが、はぁ~」

「隙アリ!!」

「おっと甘い!」


防人は彼女の蹴りを腕で防ぎ、それを掴んで捻って倒す。


「痛い痛い痛い痛い!こ、降参降参」

「アホか敵に降参つって離してもらえると思うのか?」

「チッ」


彼女は腰に手をこっそりと回して短剣を引き抜く。


「うぉ!」


間一髪彼女から離れて刃を避ける。


「危っぶねぇ…おいこらぁ武器の使用は禁止だぞ」

「戦場でそんなルールは通用しないよ」

「ははっ!ははははは!確かにそうだ…ぁー!やられた。よし、少し休憩だ。その後機体での訓練をしよう」

「えぇ分かったわ」


二人は部屋の角にあるベンチに腰掛け、ボトルの中身を飲み始める。


「…ねぇ、これで私は強くなれるの?」

「教えてくれっていたのはお前だったはずだが?」

「うん、だけどこれくらいのことならみんなといつもやっている」

「やってるつってもそれは経験の浅い奴等同士のケンカだ。そんなもんで得られる経験値なんてのはたかが知れてる。それなら経験者の訓練を受ければ初めはやられっぱなしでも早い段階で追い付いてくる。お前みたいにな」

「実感はないけど…強くなってるのかな?」

「あぁ、初めはよくもまぁあれであそこまで戦えたもんだなと思うほどやられっぱなしだったじゃねえか」

「うん、確かにそうだね」

「たった5日でこれだ。もう1週間もすればもっと強くなるんじゃねぇか?」

「そうかな?」

「あぁ、…………なぁ、ひとつ聞いて良いか?」

「うん、何?」

「お前は強くなってどうする?」

「決まってるでしょ、あなたを倒す」

「もうお前にはこの前の戦闘でやられた気がするがな」

「あの時はオレンジのやつじゃなかった。本気じゃなかった。だから今度は全力で戦って勝ちたい。そしてみんなを守るための力を手に入れる」

「ふん、結構な目標だ。俺もそういう人を見つけてみたいな」

「リリスって女の子がいるんじゃないの?前に言っていたじゃない」

「確かにそうだが、俺の頭の中身はほとんどつくりもんだ。植え付けられて、消されて、一体どれが本物なのかどれが偽物なのかもう自分では分からないんだ。……ははっぁー何話してんだろうなぁ俺、悪いな。忘れてくれ」

「うまく言えないけどたとえ作り物だとしても今のあなたはここにいるあなたは本物でしょ?だったら今のあなたの気持ちは本物…だと思う」

「……はっ生意気な事を言うな小娘が……。でもまぁ、ありがとよ」

そう言って防人はリラの頭を優しく撫でる。

撫でられたリラも頬を少し赤らめて頬笑む。

「さて、そんじゃそろそろ部屋を移るか」

「うん、分かった」


二人は空のボトルをゴミ箱へ投入れ、部屋を出る。

そしてこれから訓練を再開しようというときに複数ヵ所での爆発とともに研究所内に警報が鳴り響いた。


「警報!?」

「どうやら訓練はお預けのようだ。リラ、お前は早くみんなのところに行きな」

「うん!」


防人とリラはそれぞれの人の元へと走り始める。


「矢神何があった?」

「敵襲だ。…どうやらお前のお客さんのようだぞ」

そう言って矢神がモニターに映すひとつの部隊。

「竜華…めだかもいるのか、一体どうやって居場所を…?」

手帳(ケータイ)のバッテリーもカバーを外して取り外しておいた。


GPSでの追跡は出来ないはずだ。


「分からないが、敵は目の前にいる。……さてどうする?お仲間に刃を向けるか?」

「…アホか、行けるわけねぇだろ。だがまぁここに誰か来たらこの刀でお前を守るさ。その代わりリリスに会わせてもらう約束を絶対に守ってもらうぞ」

「あぁ、分かってるさ……ほれ」


矢神の投げた何かを防人は受けとる。


「これは…IDキーか?」

「これでお前用にカスタムした量産機が使える。首にかけておけ、身を守る盾は出来るだけ強い方がいい」

「ふん、了解だ。お前は通信機使うなりして仲間の兵に命令でも出しておけ。急いでとってくる」

「あぁ、よろしく頼む…」



弩 智得の依頼した救出作戦に参加した人達は全6名。

風紀委員長、日高 竜華。

風紀委員書記、彩芽 紅葉(くれは)。

風紀委員会計、千夏 千冬。

風紀委員1年、本間 白石。

風紀委員雑用、愛洲 めだか。

そして防人の友人の植崎 祐悟。



「ごめんね紅葉ちゃん。忙しかったのにオペレーターを頼んじゃって」

「いえ、私とて風紀委員ですので、仲間があそこに捕らわれているのでしたら助けないわけにはいきません。ですが私は機体の操作は人並み以下ですのでこの小型輸送艦からオペレーターとして皆様のサポートに回らせていただきます」

「ふふっありがとう。それからえっと植崎、祐悟君だったかな?」

「は、はい!」

「今回の任務は救出作戦であって殲滅させることは目的じゃないからこの前の作戦時みたいにいきなりミサイルを撃つようなことはしないでね」

「ご、ご存じなのでありましょうか?」

「うん、私達も時々戦闘記録を書類にまとめることを頼まれることがあるからね。ちゃんと知ってるよ。気を付けてね」

「は、はい!気を付けますです」

「うん、落ち着いて作戦に挑むようにね」

「はい。わかりました」

「ん……さて、今回の任務について紅葉ちゃんお願いできる?」

「はい。では、弩 知得の提示した作戦内容を簡単に説明をさせていただきます。…今回の任務は敵に捕らわれたとおもわれる防人 慧の救出作戦である。愛洲めだかが防人 慧の制服に取り付けられた発信器の反応から彼はこの地点にいる可能性が高いと思われる。まずは植崎に搭載された多弾頭ミサイルにより彼らの基地周辺の対空兵器を破壊、愛洲 めだか、千夏 千冬の両名が内部へと潜入して防人を確保、その後速やかにここに戻ってくるものとする。確保、脱出までの間、残りのものは敵を次々と落とし、こちらに目を向けるようにすること。説明は以上です。簡単な説明ですが何か質問はありますか?………では最後に、いくらこちらの方が性能などで上回っていたとしても数では圧倒的に不利。ですので対象の発見から10分、それがみなさんに設けられた時間(タイムリミット)です。それを覚えておいてください。それでは準備が整い次第作戦を開始します」


短いブリーフィングを終え、皆は輸送艦の後部ハッチから出撃する。




「ねぇ、どうするの?今はブレアさんは今回の件の報告のため本部に出掛けているのよ。矢神って人は呑気に寝てるのかまだ連絡つかないしさ」

「だから私達が出るのよ」

「独断だって言われない?」

「みんなでやれば怖くないわカーネリア」

「でも……」

「あいつらはパパを、アンを殺したやつらの仲間かもしれないでしょ。それに戦うって私達はみんなで話し合って決めたはずよ」

「そうだけどさ…」

「ならあんたは私達のパパが殺されても良かったって思ってるの?」

「そんなことないわよ」

「なら、襲ってくるやつらは倒さないと…強くなって仇をとるの」

「うん……分かった」

「なら、カーネリアはまだグースカ寝てるジェードをたたき起こしてきて。アクア、貴女は私とシェディムで出るわよ」

「うん」

出撃ハッチを手動で開け、リラたちも既に出撃した仲間の兵に加わる。



「反応地点までどれくらい」

「あと少しですわ」


ブレアの施設内に無事潜入した二人は真っ白な通路を進んでいた。


「いたぞ!侵入者だ!!増援頼む」


通路奥からフラッグを身にまとったブレアの部下達が二人をマシンガンを放ってくる。


「ふふん、悪いけど止まれないですわ」


二人は弾をシールドで弾きながら敵へと接近。


「寝てて…」


そのまま千夏はブレア兵の腹部に重い一撃を入れる。


「ぐっ」


ブレア兵はその場に倒れ、うずくまる。


「もう少し…ここですわ」


先へと進み、めだかたちは反応地点の手前に到着する。


「電子ロックがかかってる……」

「なら、こじ開けますわ」


めだかはエナジーサーベルを低出力で短くし、扉を切り倒す。


「ここは…」

「ロッカールームですわね。しかも男の……」

「少し汗臭い」

「急ぎましょう」


二人は受信機から防人の反応を特定する。


「この中ですわね」

「開ける」


しかしロッカーの中にあるのは制服のみで防人の姿はどこにもなかった。


「あぁ!この騒ぎで隠れてるのかもと思ったのに……一体防ちゃんはいったいどこにいるのぉ!」

「別の反応」

「そ、そうですわね。まだ反応はこれで全部じゃ…」

「違う。敵……」

「今の声は!?」

「あそこからだ!」

「あぁ、全く……貴方たちのような漢には興味ないですわ!私は防ちゃんのもとへ急ぎたいの」

「行くよ」


二人は敵兵を殴り、蹴り、気絶させて先を急ぐ。


「彩芽……聞こえる?」

『聞こえます。彼はまだ見つかりませんか?』


通信機を使い、二人は連絡を行う。


「見つからなかった」

「ですので反応のある別の場所に向かうのでもう少し粘ってくださる」

『わかりました。それでは急いでください。外でも黒い機体が増援として現れ苦戦を強いられています』

「了解しましたわ」

「めだかさん。慧の反応どこ?」

「この先の通路を抜けた先ですわ」

「了解」


通路を走り抜け、少し開けた場所に到着した二人の足を一発の銃声が止める。


「おいおいお前らかぁ!?人が気持ちよく寝てるってのによぉドタドタ騒ぎやがったのは?」

「運が悪かったなぁ……俺たちに会うなんてよぉ!」

「おぉ!?女だって聞いて来てみたが顔が隠れてるから可愛いかわかんねぇじゃねぇか」


矢神の傭兵たちは各々の声をあげて集まってくる。

そして一人のこの言葉が千夏の顔をひきつらせる。


「一人はちいせぇし、ガキ見てぇだな。小学生ぐらいか?」


千夏は力強く足を踏みしめ地面を砕き、失言した男の元へ、正拳突きをもろに食らった男は吹き飛び、壁を少し窪ませる。


「下品なやつは駆除します」




「ん?センサーに反応あり…どうやらここまで来たみたいだぜ」


既に別のところに移っている矢神へとフラッグカスタムに取り付けられた通信機のマイクから伝える。


『あぁ、私は外の奴等で手一杯だからな。任せるぞ』

「まぁ、任されるけどあんたはどうすんの?もし、俺がやられたらロッカーにでも隠れる?」

『バカを言うな。私はなこういうところで落ち着いて相手と対応を…』


矢神が偉そうな態度で話そうとした時に扉が吹き飛び、


『ひっ!なっ、なんだ!』


矢神は情けない声をあげ、防人はそれを聞いて笑う。


「ここで間違いありませんわ」

「慧……どこ?」

「プハハ!……ダッセェ、冷静に対応するんじゃなかったのか?」

『うるさい!その機体は私の手で組み上げたのだぞ。傷つけられて許せるものか!』

「戦えば傷つくのは当たり前だ。それに心配するなら俺を心配しろよ」

『そんなことはわかっている。もし、顔にでも傷ついたらリリスに会わせた時、要らぬ心配をさせてしまうからな」


二人のやり取りを聞いて、めだかたちは首をかしげる。


「ねぇ、この声防ちゃんよね?」

「似ている。でも彼とは雰囲気、態度がまるで違う」

「通信機で身誰かとお話中みたいだし、それに付けてるのも敵の機体みたいだしどう言うことなの?」

「私が知るわけがない。直接聞いてみる」


千夏は地面を蹴り、防人へ殴りかかる。


「おっと」


防人はそれに反応し、手で受け止める。


「危ないなぁ~怪我したらどうすんの?」

「あなた…名前は?」

「ん?サキモリですよ。知ってるでしょ?千夏せんぱあぁぃ」

「――!!」


防人が踵で床を強く叩くとそのつま先に刃が露出、勢いよく脚を上げるが間一髪千夏は後ろへと下がりそれを避ける。


「あらら?避けられた。残念」

「どうなの?千夏」

「恐らくこの男と慧は同一人物……」

「でもあの変わりようは一体なんですの?それにあなたに攻撃したということは防ちゃんは…まさかブレインコントロールを?」

「わからない。でも、もしそうなら厄介。ちょっとだけ」

「…あぁもうわけがわからないですわ。とにかく今はとにかく彼を眠らせますわよ」

「了解」


二人が防人へ急接近し、めだかの振るう短剣を刀で千夏の拳を空いた手で受け止める。


「……防がれた?」

「――!!」

「あっぶないなぁ」


防人の振り上げた足を千夏は受け止める。


「なっ!」

「同じ手法通用しない」


千夏はつかんだ足を引き、バランスを崩したところをハンマー投げの要領で振り回して投げる。


「がっ、痛ってぇ」


防人はすぐさま地面を蹴って敵に近づいていき、刀を振るう。

しかし、彼女の取り出した短剣に止められる。


「へぇ~……やっぱ止めるか」

「慧……あなたどうして敵の味方を?」

「俺がやりたいことがあるから……じゃダメか?」

「?、理解不能。説明を要求する」

「ふむ、大切な女に会いに行く」

「は、何を?」

「だから邪魔すんな!」


防人は千夏の腹部を思い切り蹴り飛ばす。


「グッ!めだか!」

「わかっていますわ。防ちゃん目を覚ましてちょうだい!」


彼が慧であるのなら傷つけるわけにはいかない。

めだかは手に持っていたエナジーサーベルの柄をしまい、短剣に持ち変える。


「何言ってんだよめだかさん。俺は起きてるよ」


つばぜり合いにより二人の足は止まるが、めだかはどうしていいのかわからず防人に壁にまで吹き飛ばされる。


「ぐっ防ちゃん目を覚まして……」

「だから俺は……ん?」


フラッグのセンサーが警告し、防人は急いで後ろに大きく下がる。

天井が割れ、砂ぼこりをあげながら日高 竜華が室内に入ってくる。

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