12-8
青い髪の少女≪キスキル・リラ≫は今、目の前で起こっていることが状況がすぐに飲み込めずにいた。
少しして防人がリラをかばった少女≪エンリー・アン≫
『アン、大丈夫なの?…返事をして』
『あぁ…リラ…』
それは声なのか声ではないのか、とてつもなく小さく掠れた音が彼女の耳には聞こえてくる。
『何?よく聞こえないわ』
『良…った……無事…で……』
『人の心配をしてる場合?待ってて今、手当て』
『う…うん、もぅ、手遅れ……』
『そんな、そんなことない。今からすればきっと』
『…あ…りがと。ご…めん……さぃ』
『何を言って――!』
エンリーの纏うシェディムはその一切の機能を停止させ、海へ目掛けて落ちていく。
「アン!」
リラは急いでその後を追いかけ、腕を掴む。
やった。と思うリラだったが、恐らくサーベルによる傷とシェディム本体の重さに耐えられなかったのだろう。
アンと呼ばれた彼女の肩から腕が千切れ、本体は海へ沈んでいく。
「アン……ごめんって謝るのは私の方よ……アン、ごめんね。助けられなかったよ」
リラはそう呟き、彼女の身に付けていた機体の腕を強く抱きしめて大粒の涙を流した。
◇
「あ、あぁ…ああぁ!」
殺してしまった。僕は人を殺めてしまった。
取り返しのつかないことをしてしまった。
恐怖感、罪悪感、様々な感情が混ざり合い震える両手。
持っていたエナジーサーベルは既に手からこぼれ落ちていっていた。
殺さないって思ってたのに。
やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。やってしまった。
「僕は…」
「人一人殺ったくらいで何やってんの?」
声のする方へ僕はゆっくりと顔をあげる。
さっきの声はヒロさんだったが声の聞こえた方にいるのは別の機体。
形は敵の量産型に似てはいるが、その色は黒くなんとなくだが禍々しく思えてならなかった。
「…ヒロ、さん?」
僕は消え入りそうな声で聞くとその黒い奴は首を左右に振る。
「ううん違う。俺は真栄喜(まえき) 游(ゆう)だ。さて、早速だけど、お前は死んでもらう」
「――!!」
彼は素早い動きでこちらへと近づいて来、ギラリと銀色に輝く刃物を僕の首元狙って突いてきた。
ギンッという金属音と共に火花が上がり、游の持つ刃物を蹴り飛ばす。
「おっと。…危ないなぁ。殺す気かい? ファルシュ」
「その声、それに自分たちを知ってるってことはやっぱりあんたヒロさんっすね。どういうつもりか知らないっすが、裏切る気なんすか?」
ファルシュはサーベルを構え、游を睨み付ける。
「別に裏切る訳じゃないけれどね。俺は単なる雇われ兵士。報酬分は働くが、死ぬリスクまでは犯す気はさらさらない。大抵のやつがそうさ。まぁ俺の場合は別に死ぬことに恐れをなしてこんなことをするのではなく面白いからやるんだけどね」
「面白いから?遊び半分ってことっすか」
「いや、遊び半分じゃなく遊び全部だよ。つまり本気というわけだ」
「だから今このタイミングでそっちへつくのはどういうつもりっすか」
「だから言ってるだろ死ぬリスクまでは犯さないって。まぁ、安心して構わないよ。このラボは元々破棄する予定だったらしいから」
「?…どういう意味すか」
「全く、君の頭には何もないのか?たまには自分でも考えてみろ。まぁ、少なくとも今言ったことの意味はすぐにわかる」
彼は手に持ったスイッチを押し、それを破壊して投げ捨てる。
次にモニターを浮かべ、ささっと慣れた手つきで素早く操作し、それを閉じる。
するとさっきまで僕らのいたあのラボが何度も何度も爆発し、土煙を上げながら崩れていく。
そして、様々な場所から爆発音がなり始める。
僕とファルシュはその音の方へ視線を移すと黒い煙を上げながら落ちていく敵の機体があった。
側には彼らの装甲の破片と別にガーディアンの破片も落ちていた。
「ヒロさん…まさか」
「そうガーディアンたちの一部に自爆特攻をかけさせたのさ」
「それ本気で言ってるんすか」
「もちろん。あぁ言っておくがあいつらは俺やお前たちも襲ってくるぞ」
「なっ!」
「防人、自分はライフルで何とかするっす。だからこれを使ってくださいっす」
僕はファルシュから投げ渡されたエナジーサーベルを受けとり、すぐさま近づいてきたガーディアンの一体を彼のライフルで足止め、僕のサーベルで縦に真っ二つに切り裂く。
敵が無人機なら躊躇することもない。
「はぁ!」
僕はサーベルを振り回してガーディアンたちを切り落としていく。
「な、なんだ?こいつらいきなり、うぁ!」
「敵も戦ってやがる。まさかコントロールを失って暴走してるんじゃ――グゥ!!」
「じょ、冗談じゃねぇ!俺ぁ楽な仕事って聞いて来たんだ。こんなところで…おわぁ!」
様々なところから聞こえてくる爆発音と敵の叫び声。
他のみんなも戦っているようだった。
「どうして……こんな……」
一体何のために彼は戦場をめちゃくちゃにしたのか?
答えは簡単。
「面白いから」
その一言だ。
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